経理部門の改善 › 業務改善・システム導入活用案

現行業務をAIに説明して、改善案とRFP項目まで作る

手順書の無い月次業務を、聞き取り→工程分解→To-Be→システム要件→RFP項目の順に整理する方法です。現行業務の事実、残す工程の判断、ベンダー選定は人が行います。

AI操作難易度★★☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★★☆ 使う道具チャット型AI

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。月次の売上計上は、こういう流れになっています。

Excel(営業各部から) → 手作業で加工 → CSV → 会計システムに取込 → エラーが出た行を修正

担当は3名。状況はこうです。

  • 手順書が無い。3人がそれぞれのやり方で回している。誰が担当した月かで、出来上がりが微妙に違う。
  • エラーが毎月出るが、記録が残っていない。誰がどう直したかは、直した本人の記憶の中にしかない。
  • 何のためにやっているか説明できない工程がある。前任者から引き継いだチェック作業が2つあり、なぜ必要なのかを誰も知らない。ただ、やめる判断もできない。
  • システム更改の話が出ている。部長から「要件をまとめておいて」と言われたが、要件の書き方が分からない。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

順番を守ることが大事な作業です。飛ばすと、あとで全部やり直しになります。

  1. いまの業務を書き出す(事実)
  2. 工程を種類で分ける … 手作業/重複/判断が必要/システム化できる/統制上残すべき/エラーが出る場所
  3. 課題を整理する
  4. To-Be を描く
  5. システム要件に翻訳する
  6. RFPの項目にする

1が粗いと、4も6も粗くなります。いきなりTo-Beから始めません。

ここはAIを使わない

現行業務の事実そのもの。AIは貴社の業務を知らないので、書き出すのは人がやります。ただし「書き出すための質問項目」はAIに作らせられます。また、業務をどう変えるかの決定と、どのベンダーを選ぶかの判断も人です。AIは選定基準の案を作るところまでで、ベンダーの製品仕様はAIに聞かず、ベンダーの資料で確認します。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 現行業務を書き出すための聞き取り項目の設計
  • 書き出した業務の工程分解
  • 重複している作業、手戻りが起きている箇所の指摘
  • 統制上の論点の指摘
  • To-Be案を複数出させる
  • 業務の言葉を、システム要件の言葉に翻訳させる
  • RFP項目のたたき台と、ベンダーへの質問案
人が判断する
  • 現行業務の事実(何をしているか)
  • どの工程を残し、どれをやめるか
  • 統制上、人が残るべき工程の判断
  • 投資判断とベンダー選定
  • 部内・関係部署との合意

4. 実行 ― AIとのやりとり

順番 ― いきなり説明しない

先に、AIに聞き取りの質問を作らせます。自分で説明を始めると、書きやすいところだけ書いて、抜けたところが最後まで抜けたままになります。

用語:RFP(提案依頼書)とは、システムを導入するときにベンダー各社へ「当社はこういうことを実現したい。どう実現するか提案してください」と依頼する文書です。「できますか」ではなく「どうやって」を聞くのが要点です。
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は事業会社の経理担当です。月次の売上計上業務について、現行のやり方を整理し、業務改善とシステム更改の検討材料を作りたいと考えています。読み手は私の上司と、経理部内の担当者3名です。 【事実/入力】 ・現在の流れは、営業各部からのExcel → 手作業で加工 → CSV → 会計システムに取込 → エラー行の修正、です ・担当は3名で、手順書はありません ・これ以外の事実は、まだ何もお伝えしていません 【依頼】 現行業務を書き出すために、私が答えるべき質問を作ってください。まだ改善案は要りません。 【出力の型】 工程ごとに、次の4点を聞く質問 ①誰が ②何を見て ③何を判断して ④どこに出すか あわせて、聞き漏らしやすい点があれば質問として追加してください 【禁止事項】 ・当社の業務について、私が説明していないことを書かないでください ・改善案・To-Be・システム名は、この段階では書かないでください

往復1回目 ― AIが理想論のTo-Beを出した

AIの初稿

(書き出した業務を渡したあと)「RPAとAI-OCRを導入し、取込から計上までを全自動化することで、月次決算を3日短縮できます。承認も含めてワークフロー化することで、さらに効率が上がります。」

ここが問題

3つあります。①「3日短縮」の根拠が無い。こちらは所要時間を渡していません。②承認まで自動化に含めている。統制上、人が承認すべき工程があります。③どの工程が自動化できるかを判断する材料を渡していないのに、全自動化と言い切っています。

追加で出した指示

「効果の数値は書かないでください。工程ごとに『自動化できる/人が残る/判断が必要』の3つに分け、人が残る工程にはその理由も書いてください。承認と最終確認は人が行う前提です。」

修正版

工程表になりました。承認と例外判断が「人が残る」に分類され、理由として「金額の妥当性を人が確認しないと、誤った計上がそのまま通るため」と書かれました。

人が最後にやること

「自動化できる」に分類された工程を、1つずつ本当にそうか確認します。特に、判断していないように見えて実は毎月判断している工程(「この得意先は例外扱い」といった暗黙の処理)を、「判断が必要」に戻します。ここを見落とすと、システム化してから問題になります。

往復2回目 ― RFP項目が一般的すぎた

AIの初稿

「機能要件:仕訳入力機能を有すること/帳票出力機能を有すること/マスタ管理機能を有すること」

ここが問題

どのベンダーもYESと答えられる項目ばかりで、比較になりません。RFPは「できますか」を聞く場ではなく、「どうやってできるのか」を説明させる場です。

追加で出した指示

「どのベンダーもYESと答えられる項目は削ってください。代わりに、当社の困りごと(毎月フォーマットが変わるExcelの取込、エラー行の特定、取込のやり直し)に対して、どう実現するかを具体的に説明させる質問にしてください。」

修正版

「毎月フォーマットが変わる外部データの取込について、①取込の項目対応(マッピング)を利用部門が自分で変更できるか、できる場合はどの画面で行うか ②取込エラーが出た行と、その理由をどのように表示するか ③取込をやり直した場合に、二重計上を防ぐ仕組みを説明してください」という形になりました。

人が最後にやること

質問に、自社の実際の件数と頻度を入れます(「月あたり約1,200件、3部門から」など)。規模が書かれていない質問には、ベンダーも一般論でしか答えられません。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • AIが、知らないはずの業務を知っているように書く … 「当社の業務について、私が説明していないことは書かないでください」を毎回入れます。それでも書いてきたら、その部分は削って渡し直します。
  • 書き出しが粗いと、To-Beも粗くなる … 1工程1行で済ませず、「誰が・何を見て・何を判断して・どこに出すか」の4点で書きます。判断が入っている工程は、これを書こうとすると手が止まります。手が止まった工程が、いちばん重要な工程です。
  • 3人のやり方が違う … 統一してから書こうとしません。3通りとも書き出します。違いがそのまま課題の一覧になります。
  • 「何のためか分からない工程」が出てきた … すぐには廃止しません。誰が何のために始めたかを確認するまで残します。理由が分からないものを消すのは、理由が分かって消すより危険です。
  • 関係部署の作業が見えない … 営業部の作業まで含めて書くと範囲が広がりすぎます。まず経理部の中だけで書き、外に出る/入ってくる境目だけ明記します。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 書き出した業務を、実際にその作業をしている3人に見せて「これで合っているか」を確認する。ここを飛ばすと、後工程が全部崩れます。いちばん重要な検証です。
  2. To-Beの各工程に、担当と承認者が書かれているか。空欄があれば、まだ設計できていません。
  3. 「人が残る」工程に、残す理由が書かれているか。理由が書けない工程は、本当に残す必要があるか再検討します。
  4. RFP項目のうち、どのベンダーもYESと答えるものが残っていないか。残っていれば、比較の役に立ちません。
  5. 現行のエラー発生箇所が、To-Beでどうなるかが書かれているか。ここが書かれていないRFPは、いまと同じ問題を新システムでも抱えます。

7. 注意点

業務フローには機密が混じります。取引先名、金額、現行システム名、社内の組織情報。社外に出すRFPと社内用の資料を分けます。AIに渡す範囲も社内ルールで確認してください。
統制上、人の承認を外してはいけない工程があります。効率だけで判断しません。内部統制の担当部署がある場合は、To-Beの段階で相談してください。
AIが出したTo-Beは案であって、決定ではありません。部内で合意していないものを、決まったこととして関係部署に出さないでください。
ベンダーの製品仕様をAIに聞きません。AIは実在しない機能をもっともらしく書くことがあります(ハルシネーション)。仕様は必ずベンダーの資料か、ベンダーへの質問で確認します。確認できない仕様をRFPに書かないでください。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 手順書が無かった業務に、書き出した資料ができます。これ自体が引継ぎ資料になります。
  • 「何のためにやっているか分からない工程」が一覧になり、確認の対象になります。
  • システム更改の話が、ベンダー主導ではなく自部門主導になります。「何ができますか」ではなく「これをどう実現しますか」を聞けます。
  • 更改しない判断になった場合でも、手作業の削減余地が見えます。書き出した資料は無駄になりません。
明日の仕事で試すこと
  • 自分が今月やった作業を、30分だけ使って「誰が・何を見て・何を判断して・どこに出すか」の4列で書き出す
  • AIに渡して、重複している工程と、判断が必要な工程に印をつけさせる
  • 印がついた工程のうち、手順書が無いものが何個あるかを数える

応用 ― 難易度を上げる場合

同じ型を、決算早期化、内部統制の見直し、属人化の解消にも使えます。複数の業務で書き出しが揃ってくると、部門全体のどこに時間が使われているかが見えるようになります。