考え方編

AIに任せられる仕事、任せられない仕事

活用例を1本ずつ読むと「この業務ではこうする」はわかります。ただ、目の前にある自分の仕事に当てはめるには、もう一段だけ抽象度の高い整理が要ります。このページは、このサイトの活用例すべてに共通する考え方をまとめたものです。

1. AIが引き受けられる仕事は、4つの型に分かれます

経理・財務の業務でAIがうまく働く場面を集めて整理すると、次の4つに収まります。どれも「材料が手元にあり、正解の形が決まっている」仕事です。

型やっていること経理での例
分解する長い文章やひとかたまりの依頼を、扱える単位に切り分ける監査法人からの質問を論点ごとに割る/契約書から収益認識の検討対象になる条項を抜き出す
照合する2つ以上の一覧を突き合わせ、合わないところを拾い出すグループ間の債権債務を突合する/仕訳の勘定科目と消費税区分の組合せを規則に照らす
下書きする型の決まった文章の初稿を作る監査法人への回答文/滞留債権の督促文/月次の変動理由コメント
整形する手元の情報を、指定した表や様式に並べ直す年齢調べ表を作る/資金繰り表の形式に落とす/チェックリストの形にする

この4つに共通するのは、出力が正しいかどうかを人が確かめられることです。分解が粗ければ読めばわかり、照合の結果は元データに戻れば確かめられ、下書きは読んで直せます。確かめられるからこそ任せられます。

2. 任せてはいけないのは「結論を出す」仕事です

減損すべきか。繰延税金資産を回収可能と判断してよいか。この事象は注記すべき重要性があるか。これらは4つの型のどれにも当てはまりません。理由は3つあります。

  1. AIは確からしさではなく、もっともらしさで答えを作ります。文章として自然な結論を返すことと、その結論が正しいことは別です。しかも誤っているときほど、断定的で読みやすい文章が返ってきます。
  2. 会計基準の適用は、要件の当てはめと判断の組合せです。要件を並べるところまでは型に収まりますが、自社の状況をその要件に当てはめる部分は、社内の事実を知っている人にしかできません。
  3. 制度上、責任を移せません。計算書類を作成するのは会社であり(会社法第435条第2項)、その内容について責任を負うのは取締役です。AIが出した結論だから、という説明は監査人にも株主にも通りません。
「AIに判断させない」は、AIを使わないという意味ではありません。判断の手前にある作業は、ほとんどが4つの型に分解できます。下の表のように、結論は人が出しつつ、そこに至る材料集めをAIに寄せるのが実務的な使い方です。
人が出す結論AIに切り出せる手前の作業
減損の兆候があるか兆候の判定項目を基準から並べる(分解)/資産グループごとに該当・非該当の表を作る(整形)
繰延税金資産を回収可能と見るか一時差異を科目ごとに整理する(整形)/会社分類の判定要件を並べる(分解)
この事象を注記するか前期の注記と当期の下書きを突き合わせて差分を出す(照合)/注記項目の一覧を作る(分解)
この請求書をどの科目で処理するか過去の類似仕訳を条件で抽出する(照合)/仕訳案の形に整える(整形)

3. もう1つの使い方 ― 人の判断を強くする

前の節までの4つの型は、手元にある材料を整える型です。これに対して、判断そのものを助ける使い方があります。ここで紹介する使い方は、AIに結論を出させるためのものではありません。人が判断するときに、見落としを減らし、考える範囲を広げるためのものです。結論を出すのは人であり、その責任も人にあります。この点は、前の節の「任せてはいけないのは『結論を出す』仕事です」と変わりません。

型何を頼むか指示の例
反証する自分の案が成り立たない場合を挙げさせる「この案に賛成しないでください。成り立たない場合を挙げてください」
条件を分ける複数の案が、それぞれどんな条件で選ばれるかを分けさせる「A案とB案が、それぞれ成立する条件を分けて書いてください」
不足を挙げる結論を出すために足りない事実を挙げさせる「この結論を出すために、私がまだ確認していない事実を挙げてください」
事実と仮説を分ける渡した資料から言えることと、推測を分けさせる「①確認できる事実 ②仮説 ③確認すべき事項、の3つに分けてください」
失敗を先に洗い出す導入・変更の前に、失敗の型を挙げさせる「この進め方を導入した場合の、失敗のパターンを挙げてください」
立場を変えて読む別の立場から見たときの指摘を出させる「監査人の立場で、この資料に対する質問を作ってください」
共通して見るところ。どの型でも、AIが渡していない事実を使っていないかをまず確認します。もっともらしい指摘のなかに、こちらが伝えていない前提が混ざっていることがあります。渡していない事実が出てきたら、それは「不足している事実」の欄に移してもらいます。

4. AIを使わない、という判断

AIを使うかどうかは、次の3つで判断できます。

  1. 毎月同じ処理か
  2. 入力の形が安定しているか
  3. 結果が一意に決まるか(人によって答えが変わらないか)

3つともYESなら、AIではなく固定の処理(Excelの数式、Power Query、マクロ、プログラム、RPA、会計システムの標準機能)が向いています。理由は速さではありません。同じ入力から必ず同じ結果が出ること、そしてその根拠が残ることです。毎月の決算業務では、ここが効きます。

1つでもNOがあるなら、その部分はAIが向きます。形が毎月変わる部分、判断の材料を広げたい部分、文章にする部分です。

実際の業務は、多くの場合ひとつの流れの中に両方が混ざっています。業務全体をAIにするか固定処理にするかではなく、工程ごとに分けて考えてください。各活用例の「ここはAIを使わない」の箱は、この基準で切り分けたものです。

5. 自分の仕事を切り分ける手順

新しい業務でAIを使えるか迷ったときは、次の順で考えると判断がつきます。

  1. その仕事を、実際にやっている工程に割る。「資料を集める」「読む」「表にする」「文章にする」「確認してもらう」といった粒度で十分です。
  2. 工程ごとに、4つの型のどれかに当てはまるかを見る。
  3. 当てはまらない工程は人が持つ。ここを無理に渡すと、あとの検証で時間を失います。
  4. 当てはまる工程だけを渡す。渡すときは、その工程に必要な材料も一緒に渡す。

4つ目が抜けると失敗します。判断に必要な情報が手元の資料の外にある場合、AIはその欠けを指摘せずに、それらしい答えで埋めてしまうためです。

6. 出力の確かめ方

任せた以上、確かめる手順まで含めて業務です。次の4つを型として持っておくと、確認が作業になります。

原文に当たる
  • 基準名・項番号は、必ずASBJや国税庁の原文で確認する
  • AIの要約に出てきた番号をそのまま書き写さない
数字は別経路で再計算する
  • 合計・按分・税額は表計算で検算する
  • AIの計算結果は下書きとして扱う
根拠が出せないものを言わせる
  • 「根拠を示せない項目は、示せないと書いてください」と指示する
  • 空欄が出ることは失敗ではなく、確認すべき箇所が特定できた状態
前提の不足を挙げさせる
  • 「この回答をするために足りない情報を挙げてください」と続けて聞く
  • 挙がった項目が、そのまま社内で確認すべきことの一覧になる
項番号は、最も間違いが出やすいところです。基準名が合っていて番号だけ違う、改正前の番号が返る、存在しない号数が返る。いずれも文章としては自然に読めてしまいます。番号を含む文を社外に出す前は、原文に当たることを手順に組み込んでください。

7. うまくいかない仕事には、共通の形があります

やってみたが割に合わなかった、という場面もあります。多くは次の4つのどれかです。

  1. 判断に必要な情報が、渡した資料の外にある。請求書だけを見てプロジェクトコードを当てるような場合です。
  2. 正解が一つに決まらない。見積りや重要性の判断がこれにあたります。もっともらしい答えは返りますが、確かめる方法がありません。
  3. 検証の手間が、作業そのものより重い。大量の項番号を出させると、確認に元の作業以上の時間がかかります。
  4. 入力が長すぎて、中間が抜ける。長い契約書や規程を一度に渡すと、前半と後半だけを見た答えが返ることがあります。

個別の例はつまずきやすい点にまとめています。

8. 型から活用例を引く