経理部門の改善 › ツール運用活用案

AIが作った業務ツールを、翌月も別の人も使える状態にする

「今月は動いた」ツールを、元ファイルを壊さず、正しいと言え、止まってやり直せて、人が引き継げる状態にする手順です。異常データの設計と本番で使う判断は人が行います。

AI操作難易度★★★☆☆ 経理財務 実務難易度★★☆☆☆ 使う道具Claude Code/Python

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。担当者がAIと一緒に、CSV変換のPythonツールを作りました(作り方は毎月形式が変わるExcelから、会計システム取込用データを作るを参照)。今月は、ちゃんと動きました。ただ、いまの状態はこうです。

  • 自分のデスクトップにファイルが置いてある。フォルダ名は「新しいフォルダ」。
  • 元のExcelを直接書き換える作りになっている。間違えると元に戻せない。
  • 実行しても何も表示されない。終わったのか、途中で止まったのかが分からない。
  • 先月のデータで1回試しただけ。おかしなデータを入れたらどうなるかは、試していない。
  • 作り方はAIとのチャットに残っているだけ。半年後の自分が説明できる自信はない。
  • 休んだ日に、他の人が回せない。

「動いた」と「業務で使える」の間には、これだけの距離があります。この活用例は、その距離を埋める話です。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

埋めるべきものは4つです。

(a) 壊さない
元ファイルの保護、実行前のバックアップ

(b) 正しいと言える
件数照合、金額照合、テスト

(c) 止まる・やり直せる
エラーで止まる、ログが残る、再実行できる

(d) 人が引き継げる
置き場所、手順書、仕様変更の手順

ここはAIを使わない

テストに使う「おかしなデータ」は、実務を知っている人しか思いつきません。マイナスの金額、0円の行、同じ伝票番号が2行、退職した担当者のコード、期をまたいだ日付、全角の数字。AIに「異常データを作って」と頼むと、一般的なものしか出てきません。実務でヒヤッとした経験を自分で書き出すほうが、速くて的確です。AIに任せるのは、そのデータを流す仕組みのほうです。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • いま動いているツールが何をしているかを、日本語で説明させる
  • テスト項目の一覧を作らせる
  • 元ファイルを壊さない作りへの書き換え
  • ログ出力の追加
  • 件数照合・金額照合の処理の追加
  • エラー時に止める処理の追加
  • 手順書の下書き
人が判断する
  • どんな異常データを試すか
  • 照合が合わなかったときの原因判断
  • 本番業務で使ってよいかの判断
  • 置き場所と、誰がアクセスできるか
  • 業務で使うことの承認(社内ルールで申請が必要な場合がある)

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― まず、何をしているかを説明させる

自分が作ったツールでも、半年後の自分は他人です。最初にAIへプログラムを読ませて、日本語の説明を書かせます。ここで「そんなことをしていたのか」と気づくことが、たいてい1つはあります。

用語:Claude Codeは、プログラムを読ませて「何をしているか説明して」「ここを直して」と日本語で頼める道具です。プログラムは自分のパソコンの中で動きます。用語集
テストを頼む指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。AIと一緒に作ったCSV変換ツールを、毎月の業務で使える状態にしたいと考えています。プログラムの専門家ではありません。読み手は私と、私が休んだときに代わりに動かす同僚です。 【事実/入力】 ・添付のプログラムは、営業部から届くExcelを会計システム取込用CSVに変換します ・現在は先月のデータで1回動かしただけで、他のテストはしていません ・実行しても画面には何も表示されません ・元のExcelを直接書き換える作りになっています 【依頼】 このツールを業務で使える状態にするために、何をテストすべきかの一覧を作ってください。まだプログラムは書き換えないでください。 【出力の型】 ①テストの名前 ②入れるデータ ③期待する結果(止まる/エラー一覧に出る/正常に変換される)の3列の表。正常系と異常系を分けて書いてください。 【禁止事項】 ・テストの実行はしないでください。一覧を先に見せてください ・「問題ありません」という結論を先に書かないでください

往復1回目 ― AIが「テストはすべて通りました」と言った

AIの初稿

(一覧を飛ばして)テストコードを書いて実行し、「すべてのテストが通りました。問題ありません。」

ここが問題

テストの中身を見ると、正常なデータ3件だけでした。異常系が1つも無い。「テストが通った」は「試した範囲では動いた」でしかなく、試していない範囲については何も言っていません。ここで安心すると、来月の本番で止まります。

追加で出した指示

「テストの一覧を先に見せてください。私が異常データを追加します。実行はそのあとです。」

修正版

テスト一覧が出てきました。そこに自分で3つ追加しました。①金額がマイナスの行 ②同じ伝票番号が2行 ③日付が来期のもの。実行したところ、①と③は止まるべきなのに通ってしまいました。バグが見つかりました。

人が最後にやること

止まるべきなのに通った2件を、止まるように直させます。このバグは、自分が異常データを考えたから見つかったものです。

往復2回目 ― ログに得意先名が出ていた

AIの初稿

ログ出力を追加させたところ、「得意先:オーロラ商事 金額:1,200,000 で変換失敗」と出力されるようになった。

ここが問題

ログファイルは部の共有フォルダに置く予定でした。取引先名と金額がそのまま残るのは、情報の扱いとして適切ではありません。ログは消し忘れて残りやすいので、なおさらです。

追加で出した指示

「ログには行番号と項目名だけを出してください。値そのもの(得意先名・金額)は出さないでください。」

修正版

「3行目:得意先コード欄が空欄のため処理対象外」に変わりました。どこで何が起きたかは分かるが、中身は残らない。

人が最後にやること

ログの保存場所と保存期間を決め、社内ルールに合っているかを確認します。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

仕様表

INPUT入れるもの決まったフォルダに置いた対象ファイルと、ルール表。対象年月は実行時に指定する。
PROCESSすること元ファイルは読むだけ。書き換えない。実行前に、元ファイルのコピーをバックアップ用フォルダに自動で取る。
OUTPUT出るもの変換後のファイルと、処理できなかった行の一覧。実行の記録(ログ)。3つとも、実行した日時が分かる名前にする。
VALIDATION正しさの確かめ方件数照合と金額照合をプログラムが自動で行い、結果をログに残す。一致しなければ次に進まない。
ERROR止める条件想定外の列名/必須項目が空欄/数値に変換できない/件数または金額が不一致。空欄と不明値は補完しない。
RE-RUNやり直し同じ対象で何度実行しても同じ結果になる。出力ファイル名に年月が入っており、取込済みの記録を別に残して二重処理を防ぐ。
CHANGE変更対応変更はルール表の追記で済ませる。プログラム本体を触らないと直せない変更は、何が該当するかを手順書に明記しておく。

引き継げる状態にするための5点

  1. 置き場所 … 個人のデスクトップではなく、部の共有フォルダ。誰がアクセスできるかも決める。
  2. 手順書1枚 … 何を入れて、どう動かして、何を確認するか。3分で読める分量にする。長い手順書は読まれない。
  3. バックアップ … 実行前に元ファイルのコピーを自動で取る。手作業に頼らない。
  4. 連絡先 … 作った人が不在のとき、誰に聞くか。分からないときは「使わずに手作業に戻す」と決めておく。これを決めておかないと、分からないまま実行される。
  5. 仕様変更の手順 … ルール表を直すだけで済む範囲と、プログラムを直す必要がある範囲を、手順書に書き分ける。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 正常系 … 先月の実データ(または同じ内容の写し)で動かし、手作業でやった結果と一致するか。
  2. 異常系 … 自分で作った異常データで、止まるべきところで止まるか。通ってしまったらバグ。
  3. 照合 … 件数照合と金額照合が自動で行われ、結果がログに残っているか。
  4. 引き継ぎテスト … 別の人に、手順書だけを渡して動かしてもらう。質問が出たら、その部分が手順書に足りていない。これが最後のテストで、いちばん効く。
  5. 元ファイルが変わっていないこと … 実行の前後でファイルの更新日時を確認する。

7. 注意点

開発中にAIへ渡したデータは、送信されています。プログラムを動かす段階ではAIに送られませんが、作る段階でサンプル行を見せていれば、それは送信しています。ダミーデータで作ってください。詳しくは毎月形式が変わるExcelから、会計システム取込用データを作るとセキュリティとガバナンスを参照してください。
ログに機密情報を残しません。ログは消し忘れて残りやすいものです。
「AIが作ったから」は説明になりません。説明になるのは、何をテストして、何と何を照合したかです。監査で聞かれるのは、ツールの中身ではありません。「正しいとどう確認しているか」と「誰が承認しているか」。この2つに答えられる状態にしておきます。
会社のルールで、業務に使うツールに申請が必要な場合があります。使い始める前に確認してください。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 担当者が休んでも回ります。手順書と置き場所があれば、他の人が動かせます。
  • 翌月のフォーマット変更に、ルール表の追記で対応できます。
  • 「前任者が作った、中身の分からないツール」を、自分が作らずに済みます。引き継いだ側が困りません。
  • 同じ点検の型を、部内の他のツールにもそのまま当てられます。
明日の仕事で試すこと
  • 自分が作った(または引き継いだ)ツールを1つ選び、置き場所と手順書があるかを確認する
  • 実務でヒヤッとした異常データを3つ書き出す
  • そのうち1つを実際に入れてみて、止まるかどうかを確認する

応用 ― 難易度を上げる場合

前任者から引き継いだExcelマクロなど、既にある中身の分からないツールにも同じ点検を当てます。まずAIに「これが何をしているか」を説明させるところから始めます。動かし方だけ知っていて中身を知らないツールが、部内にいくつあるかを数えてみるとよいでしょう。