年次決算・開示 › 注記・開示書類活用案

注記の前年比較と、改正対応が必要な箇所を洗い出す

前年度の注記と当年度の下書きを機械的に突き合わせて差分を一覧にし、あわせて「未適用の会計基準等」に当たる改正の記載漏れを洗い出す方法です。プログラムはAIに書かせ、注記の要否と文言は人が決めます。

AI操作難易度★★★☆☆ 経理財務 実務難易度★★★★☆ 使う道具Claude Code/Python

1. 現場の課題

注記は、前年度のファイルを開いて数字と文言を上書きする方法で作られることが多い工程です。会社計算規則第98条第1項が定める注記表の区分は20項目あり、そこに金融商品、税効果、賃貸等不動産、収益認識といった項目が並びます。上書きで作ると、金額を差し替えたつもりで一部が前年度のまま残る、当年度に新しく必要になった項目が抜ける、逆に当年度は該当しなくなった記述が残る、といった取り違えが起きます。しかも注記は決算作業の最後に集中するため、確認に使える時間が最も短い部分です。

もう一つの負担が改正への対応です。すでに公表されているものの、まだ適用していない会計基準がある場合、企業会計基準第24号第22-2項により、その名称と概要、適用予定日、適用による影響を注記しなければなりません。ところが「どの基準が自社に関係するか」「今年はどこまで書くべきか」の把握は担当者の記憶と手控えに頼りがちで、担当が替わると引き継がれません。監査法人から指摘されて初めて気づく、という順序になりやすい部分です。

2. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 前年度の注記と当年度の下書きを注記項目ごとに突き合わせ、差分(金額の変更・文言の変更・項目の新設・項目の削除)を区別して一覧にする
  • 会社計算規則第98条第1項の区分と照らし、当年度の注記に見当たらない区分を「未記載の候補」として挙げる
  • 社内で管理している未適用の会計基準等の一覧と当年度の注記を突き合わせ、記載のないものを挙げる
  • これらを毎期繰り返せるプログラムとして書く
人が判断する
  • 差分が意図した変更か、直し漏れかの判断
  • 注記の要否(重要性の判断、自社に関係する基準かどうかの判断)
  • 未適用の会計基準等の「適用による影響」として何を書くか
  • 最終的な文言の確定と、監査法人・取締役会への説明
ここはAIを使わない

改正の内容そのものの確認と、自社が対象かどうかの判断。AIに「今年の改正点」を聞かないでください。改正の内容は、企業会計基準委員会や金融庁の公表資料など一次情報で確認します。AIに任せるのは、前年の注記と当年の草案の差分を機械的に洗い出すことと、確認すべき箇所の一覧を作ることです。

3. 進め方

  1. 比較する材料をそろえる。前年度の注記と当年度の下書きを、注記項目ごとの見出しが付いたテキスト(またはWord・Excel)で用意します。見出しの付け方を前年度と当年度でそろえておくことが、この活用例で最も効く準備です。
  2. 未適用の会計基準等の一覧を作る。基準の名称・公表日・適用開始時期・早期適用の可否を表にします。企業会計基準委員会(ASBJ)の公表物から人が拾い、以後は毎期メンテナンスします。
  3. Claude Codeに差分プログラムを書かせる。下の指示例のように、ファイルの置き場所と見出しの付け方を伝えます。実データは自分のパソコンの中で処理するので、AIに渡すのは構造の説明だけで済みます。
  4. 差分一覧を人が見る。変更が意図どおりかを確認し、「未記載の候補」と「未適用の基準の記載漏れ」については、注記が必要かどうかを判断して結論を一覧に書き込みます。
用語:Claude Codeは、日本語で「こういう比較をしたい」と伝えるとプログラムを書いて動かしてくれる道具です。注記の比較のように「毎期まったく同じ手順を繰り返す」作業は、プログラム化の効果が大きい仕事です。用語集
Claude Codeへの指示例(自社のファイル構成に置き換えて使います)【場面と読み手】 年度決算の注記を作成するにあたり、前年度の注記と当年度の下書きを比較するプログラムを作りたい。読み手は経理担当者と経理責任者で、私はプログラミング経験がないため専門用語は避けて説明してください。 【事実/入力】 ・notes/prev.docx:前年度の個別注記表(注記項目ごとに見出しあり) ・notes/current.docx:当年度の注記の下書き(見出しの付け方は前年度と同じ) ・kijun_list.xlsx:未適用の会計基準等の一覧(列:基準名, 公表日, 適用開始時期, 早期適用の可否, 自社への関連(有・無・未判定)) ・会社計算規則第98条第1項の注記表の区分(20項目)は、プログラムの先頭にリストとして書いてよい 【依頼】 1. 前年度と当年度の注記を見出し単位で突き合わせ、差分を「金額の変更」「文言の変更」「項目の新設」「項目の削除」に分けて抽出してください 2. 会社計算規則第98条第1項の区分のうち、当年度の注記に対応する見出しが見当たらないものを「未記載の候補」として挙げてください 3. kijun_list.xlsx のうち「自社への関連」が「有」または「未判定」で、当年度の注記の「未適用の会計基準等」の記載に基準名が出てこないものを挙げてください 4. 金額の変更については、前年度と当年度の数値を並べて表示してください 【出力の型】 ・notes_diff.xlsx を作る。シート1「差分一覧」(列:注記項目, 変化の種類, 前年度, 当年度, 確認結果(空欄))、シート2「未記載の候補」、シート3「未適用基準の記載漏れ候補」 ・画面に、比較した見出し数・差分の件数を表示する ・見出しが対応しない場合はエラーで止めず、「対応なし」として一覧に出す 【禁止事項】 ・注記が必要かどうかの結論を書かない(差分と候補の提示にとどめる) ・入力ファイルにない金額や文言を補わない ・基準の適用時期を推測で埋めない(kijun_list.xlsx の値だけを使う)

出力のイメージ(差分一覧の抜粋)

注記項目変化の種類前年度当年度確認結果(人が記入)
重要な会計方針(有形固定資産の減価償却の方法)文言の変更定率法によっている定額法によっている会計方針の変更の注記が必要か要検討
会計上の見積りに関する注記(繰延税金資産の回収可能性)金額の変更1,200百万円980百万円更新済み
未適用の会計基準等に関する注記文言の変更収益認識に関する会計基準について記載記載が前年度のままリース第34号・後発事象第41号の追記を検討
賃貸等不動産に関する注記項目の削除記載あり対応なし当年度は該当なしでよいか営業部門に確認

※ 説明用の架空の例です。

仕様表

INPUT入れるものnotes/prev.docx(前年度の注記)、notes/current.docx(当年度の下書き)、kijun_list.xlsx(未適用の会計基準等の一覧)。見出しの付け方は前年度と当年度でそろえておく。
PROCESSすること元ファイルは読むだけで、書き換えない。見出し単位で突き合わせ、差分を「金額の変更/文言の変更/項目の新設/項目の削除」に分ける。注記表の区分の一覧と kijun_list.xlsx にも照らす。
OUTPUT出るものnotes_diff.xlsx(シート:差分一覧/未記載の候補/未適用基準の記載漏れ候補)。画面に、比較した見出し数と差分の件数を表示する。
VALIDATION正しさの確かめ方比較した見出し数が、前年度と当年度の見出しを合わせた数と一致するか。差分一覧のうち数件を、実際のファイルを開いて目で突き合わせる。金額の変更は前年度・当年度の数値が並んで表示されているか。
ERROR止める条件ファイルが開けない/kijun_list.xlsx に必須の列が無い。見出しが対応しない場合は止めず「対応なし」として一覧に出す。基準の適用時期を推測で埋めない。
RE-RUNやり直し同じファイルで何度実行しても同じ結果になる。下書きを直したら再実行し、前回の差分一覧と比べて減っているかを見る。
CHANGE翌月の変更対応注記項目が増減したら、見出しをそろえるだけで済む。新しい基準は kijun_list.xlsx に1行足す。プログラム本体は触らない設計にする。

4. 期待できる効果

注記の突き合わせが全項目・数分で終わるため、決算の最終盤に一番時間がない状態で行っていた目視の照合がなくなります。担当者の時間は「この差分は意図した変更か」「この基準は自社に関係するか」という判断に振り向けられます。未適用の会計基準等の一覧を社内に持つことで、改正への対応が担当者の記憶から表の管理に変わり、引き継ぎができるようになります。差分の一覧がファイルとして残るため、監査法人から「前年からどこを変えたか」と聞かれたときにその場で示せます。

明日の仕事で試すこと
  • 前年の有価証券報告書の注記から1つを選び、当年の草案との差分をAIに出させる
  • 差分のうち、意図した変更と、意図していない変更に分ける
  • 意図していない変更が1つでもあれば、なぜ変わったかを確認する

5. 注意点

注記の要否と文言はAIに決めさせません。ある項目を注記すべきかどうかは重要性の判断であり、会社の判断です。AIには「差分」と「候補」の提示までを任せ、結論の記載と最終的な文言は人が行ってください。
基準の名称・適用時期は原文で確認します。未適用の会計基準等の一覧はAIに作らせず、ASBJの公表物から人が拾ってください。AIに基準名や適用時期を挙げさせると、実在しない基準や誤った日付が混じることがあります(ハルシネーション)。
2027年4月1日以後開始する事業年度からの適用が控えています。リースに関する会計基準(第34号 第58項)と後発事象に関する会計基準(第41号 第13項)は、多くの会社で当期はまだ未適用です。リースは2025年4月1日以後開始する事業年度から早期適用でき、後発事象には早期適用の定めがありません。適用の時期が異なる点に注意してください。
未公表の決算数値は社外秘です。注記の下書きには確定前の決算数値が含まれます。プログラムは自分のパソコンの中で動かし、AIに渡すのはファイルの構成と見出しの付け方だけにとどめてください。共通ルール

6. 難易度を下げる場合

★★:Coworkに前年度と当年度の注記のファイルを直接読ませ、「注記項目ごとに違いを一覧にして」と頼む方法でも、比較の手間はほぼなくなります。プログラムを作らずに始められるので、まずはこちらから試すのが無理のない順番です。★:注記のうち変更の多い項目(重要な会計方針、会計上の見積り)だけをチャット型AIに貼り付けて比較させるだけでも、見落としは減ります。