他部署から来た数字が、合っているのかわからないとき
営業から届く検収予定一覧を、先月分と比べて「変わったところ」を4種類に分け、営業に聞く質問の形にする方法です。数字が正しいかの判断と計上の可否は人が行い、答えは営業が持っています。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。毎月、営業部から「今月の検収予定一覧」がExcelで届きます。経理はこれをもとに売上を計上しています。
- 一覧は営業が作っている。案件名/顧客/金額/検収予定日/担当者、が40行ほど。
- 経理は、案件の中身を知らない。「この案件、本当に今月検収なのか」を判断する材料が手元にない。
- 先月も同じ一覧が来て、同じように計上した。そのうち1件が、翌月に「やっぱり検収がずれました」となり、修正した。
- 営業に聞けば答えてくれる。ただ、40行全部を聞くわけにはいかない。何を聞けばいいかがわからない。
経理が他部署の数字を「正しい」と言うことはできません。できるのは、聞くべきところを絞って、聞くことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 先月の一覧と今月の一覧を比べる
変わったところだけ見る。全部は見ない。
(b) 変わり方を種類で分ける
先月なくて今月ある/先月あって今月ない/両方あるが金額や日付が違う/先月も今月も載っている(持ち越し)。
(c) 種類ごとに「営業に聞く質問」を作る
「この案件、先月も検収予定でしたが、今月はどうなりましたか」。
(d) 営業に聞く
人がやる。
数字が正しいかどうかの判断と、売上を計上してよいかの判断。検収の事実は、営業と顧客の間にあります。AIは一覧を見て「妥当です」と言いたがりますが、一覧を見ただけで妥当かどうかは誰にもわかりません。AIに任せるのは、先月と今月の違いを機械的に拾って、質問の形にすることだけ。答えを持っているのは営業です。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 先月と今月の一覧の差分を、種類ごとに一覧にする
- 差分を金額の大きい順に並べる
- 差分ごとに、営業への質問文の下書きを作る
- 先月も今月も載っている案件(持ち越し)を抜き出す
- どの差分を営業に聞くか(全部は聞かない)
- 営業の回答を受けて、計上するかどうか
- 持ち越し案件の扱い
- 営業への聞き方(関係を壊さない)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 2か月分の一覧を用意する
先月の一覧と今月の一覧を、顧客名と案件名を記号に置き換え、金額を丸めて貼ります。案件の識別ができれば十分なので、「案件A-01」のような記号で構いません(先月と今月で同じ案件が同じ記号になるようにします)。
往復1回目 ― AIが「妥当です」と言った
4種類の一覧は出た。ただし冒頭に「全体として先月と大きな乖離はなく、妥当な範囲と考えられます」と書かれていた。
一覧を見ただけで「妥当」と言える人はいません。営業の事情も顧客の事情もAIは知りません。この一文を読んで安心してはいけません。禁止事項に書いていても出てきます。
「冒頭の評価は不要です。一覧だけを出してください。」
一覧だけになりました。A:3件、B:2件、C:4件、D:6件。
Dの6件を見ます。先月も「今月検収予定」で、今月も「今月検収予定」の案件。先月、この6件を計上していたら、今月また計上すると二重になります。逆に、先月計上していなければ、今月が本当の検収か、また延びるのか。
往復2回目 ― 質問文を営業向けに整える
「Dの6件について、営業担当者に送る確認メールの下書きを作ってください。責める調子にならないように、『先月も予定に入っていたので、状況を教えてください』という趣旨で、案件ごとに1行ずつ。」と頼みます。
「先月の検収予定が未達となった理由をご説明ください」という文面。
事実として間違ってはいませんが、受け取った営業は責められたと感じます。関係が悪くなると、次から一覧の質が下がります。
「『未達』『理由を説明』という言い方を避けて、『先月からの持ち越しになっているようなので、今月の見込みを教えてください』という趣旨にしてください。」
案件ごとに「案件A-07:先月から持ち越しのようです。今月中の検収見込みで変わりありませんか」の形になりました。
6件のうち、金額の大きい3件を送ります。残りは営業と話す機会があれば聞きます。全部聞くと、営業も経理も疲れます。
往復3回目 ― 次回用の3行メモ
「今回わかったことを、来月この確認をする人向けの3行メモにしてください。」と頼みます。
2026-09 検収予定一覧メモ:①先月と今月の両方に載っている案件(持ち越し)は、必ず営業に確認する。9月は6件、うち2件は10月にずれた。②Bの「先月にあり今月にない」は、検収済みか失注かを確認する。③営業への確認は金額上位3件まで。
このメモを、一覧を保存しているフォルダに月ごとに置きます。たまってくると、どの案件が持ち越しやすいかが見えてきます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 案件の記号が先月と今月で揃わない … 案件名の表記ゆれ(全角半角、末尾のスペース)が原因です。貼る前にExcelで揃えます。揃えないと、同じ案件がAとBに分かれて出ます。
- 差分が多すぎる … 先月から40件中30件が変わっているなら、一覧の作り方自体が月ごとに違う可能性があります。営業に「一覧の作り方」を聞く方が先です。
- 営業から返事が来ない … 返事がない案件は計上しない、と部内で決めておきます。返事がないまま計上して、あとで修正する方が高くつきます。
- AIが「持ち越しは計上を見送るべき」と言い出す … 判断はさせません。持ち越しでも今月検収なら計上します。答えは営業が持っています。
- 顧客名を消したら案件が識別できない … 記号の対応表を手元に置きます。AIには記号だけ渡します。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- Dの案件について、営業の回答を1件ずつ記録したか。「今月検収」「来月にずれた」「失注」のどれか。
- 先月の一覧で計上した案件が、今月の一覧でどうなったかを追えるか。追えない案件があれば、Bに入っているはずです。
- 確認した結果と、実際の計上が一致しているか。
- 翌月、「やっぱりずれました」が減ったか。減っていなければ、聞く相手か聞き方を変えます。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 40行を眺めて不安になる時間が、「Dを見る」に変わります。
- 営業への確認が、責める形ではなく「状況を教えてください」の形に定着します。
- 「やっぱりずれました」の修正が減ります。
- 3行メモが月ごとにたまり、どの案件が持ち越しやすいかが見えてきます。
- 他部署から毎月来る一覧を1つ選び、先月分と今月分を並べる
- 記号に置き換えて貼り、A〜Dに分けさせる
- Dが何件あるか数える。それだけで、今月聞くべきことが決まる
応用 ― 難易度を上げる場合
同じ型が、人事からの賞与見込み、購買からの発注残、開発からの外注費見込みなど、他部署が作って経理が使う一覧すべてに使えます。変えるのは4種類の名前だけです。慣れてきたら、Dの案件だけを抜き出すExcelの数式を作っておくと、AIに貼る前に自分で見られるようになります。