月次決算 › 他部署資料の確認活用案

他部署から来た数字が、合っているのかわからないとき

営業から届く検収予定一覧を、先月分と比べて「変わったところ」を4種類に分け、営業に聞く質問の形にする方法です。数字が正しいかの判断と計上の可否は人が行い、答えは営業が持っています。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。毎月、営業部から「今月の検収予定一覧」がExcelで届きます。経理はこれをもとに売上を計上しています。

  • 一覧は営業が作っている。案件名/顧客/金額/検収予定日/担当者、が40行ほど。
  • 経理は、案件の中身を知らない。「この案件、本当に今月検収なのか」を判断する材料が手元にない。
  • 先月も同じ一覧が来て、同じように計上した。そのうち1件が、翌月に「やっぱり検収がずれました」となり、修正した。
  • 営業に聞けば答えてくれる。ただ、40行全部を聞くわけにはいかない。何を聞けばいいかがわからない。

経理が他部署の数字を「正しい」と言うことはできません。できるのは、聞くべきところを絞って、聞くことです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 先月の一覧と今月の一覧を比べる
変わったところだけ見る。全部は見ない。

(b) 変わり方を種類で分ける
先月なくて今月ある/先月あって今月ない/両方あるが金額や日付が違う/先月も今月も載っている(持ち越し)。

(c) 種類ごとに「営業に聞く質問」を作る
「この案件、先月も検収予定でしたが、今月はどうなりましたか」。

(d) 営業に聞く
人がやる。

ここはAIを使わない

数字が正しいかどうかの判断と、売上を計上してよいかの判断。検収の事実は、営業と顧客の間にあります。AIは一覧を見て「妥当です」と言いたがりますが、一覧を見ただけで妥当かどうかは誰にもわかりません。AIに任せるのは、先月と今月の違いを機械的に拾って、質問の形にすることだけ。答えを持っているのは営業です。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 先月と今月の一覧の差分を、種類ごとに一覧にする
  • 差分を金額の大きい順に並べる
  • 差分ごとに、営業への質問文の下書きを作る
  • 先月も今月も載っている案件(持ち越し)を抜き出す
人が判断する
  • どの差分を営業に聞くか(全部は聞かない)
  • 営業の回答を受けて、計上するかどうか
  • 持ち越し案件の扱い
  • 営業への聞き方(関係を壊さない)

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 2か月分の一覧を用意する

先月の一覧と今月の一覧を、顧客名と案件名を記号に置き換え、金額を丸めて貼ります。案件の識別ができれば十分なので、「案件A-01」のような記号で構いません(先月と今月で同じ案件が同じ記号になるようにします)。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。渡すのは記号化した一覧だけで、顧客名や案件の中身は渡しません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。営業部から届いた今月の検収予定一覧を、先月の一覧と比べて、営業に確認すべき点を絞りたいと考えています。読み手は私自身です。 【事実/入力】 ・以下に、先月の一覧と今月の一覧を貼ります(顧客名・案件名は記号、金額は丸めています) ・列は、案件記号/金額/検収予定日/担当者 です ・案件の中身について、私は何も知りません 【依頼】 先月と今月の違いを、次の4種類に分けて一覧にしてください。 A:先月になく今月ある B:先月にあり今月ない C:両方にあるが金額か日付が違う D:先月も今月も検収予定として載っている それぞれ、営業に確認する質問文を1行添えてください。 【出力の型】 種類/案件記号/先月の値/今月の値/確認する質問(1行) 金額の大きい順に並べてください。 【禁止事項】 ・数字が妥当かどうかの評価は書かないでください ・案件の中身や理由を推測して書かないでください ・私が貼っていない案件を作らないでください

往復1回目 ― AIが「妥当です」と言った

AIの初稿

4種類の一覧は出た。ただし冒頭に「全体として先月と大きな乖離はなく、妥当な範囲と考えられます」と書かれていた。

ここが問題

一覧を見ただけで「妥当」と言える人はいません。営業の事情も顧客の事情もAIは知りません。この一文を読んで安心してはいけません。禁止事項に書いていても出てきます。

追加で出した指示

「冒頭の評価は不要です。一覧だけを出してください。」

修正版

一覧だけになりました。A:3件、B:2件、C:4件、D:6件。

人が最後にやること

Dの6件を見ます。先月も「今月検収予定」で、今月も「今月検収予定」の案件。先月、この6件を計上していたら、今月また計上すると二重になります。逆に、先月計上していなければ、今月が本当の検収か、また延びるのか。

往復2回目 ― 質問文を営業向けに整える

「Dの6件について、営業担当者に送る確認メールの下書きを作ってください。責める調子にならないように、『先月も予定に入っていたので、状況を教えてください』という趣旨で、案件ごとに1行ずつ。」と頼みます。

AIの初稿

「先月の検収予定が未達となった理由をご説明ください」という文面。

ここが問題

事実として間違ってはいませんが、受け取った営業は責められたと感じます。関係が悪くなると、次から一覧の質が下がります。

追加で出した指示

「『未達』『理由を説明』という言い方を避けて、『先月からの持ち越しになっているようなので、今月の見込みを教えてください』という趣旨にしてください。」

修正版

案件ごとに「案件A-07:先月から持ち越しのようです。今月中の検収見込みで変わりありませんか」の形になりました。

人が最後にやること

6件のうち、金額の大きい3件を送ります。残りは営業と話す機会があれば聞きます。全部聞くと、営業も経理も疲れます。

往復3回目 ― 次回用の3行メモ

「今回わかったことを、来月この確認をする人向けの3行メモにしてください。」と頼みます。

AIが出したメモ

2026-09 検収予定一覧メモ:①先月と今月の両方に載っている案件(持ち越し)は、必ず営業に確認する。9月は6件、うち2件は10月にずれた。②Bの「先月にあり今月にない」は、検収済みか失注かを確認する。③営業への確認は金額上位3件まで。

人が最後にやること

このメモを、一覧を保存しているフォルダに月ごとに置きます。たまってくると、どの案件が持ち越しやすいかが見えてきます。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 案件の記号が先月と今月で揃わない … 案件名の表記ゆれ(全角半角、末尾のスペース)が原因です。貼る前にExcelで揃えます。揃えないと、同じ案件がAとBに分かれて出ます。
  • 差分が多すぎる … 先月から40件中30件が変わっているなら、一覧の作り方自体が月ごとに違う可能性があります。営業に「一覧の作り方」を聞く方が先です。
  • 営業から返事が来ない … 返事がない案件は計上しない、と部内で決めておきます。返事がないまま計上して、あとで修正する方が高くつきます。
  • AIが「持ち越しは計上を見送るべき」と言い出す … 判断はさせません。持ち越しでも今月検収なら計上します。答えは営業が持っています。
  • 顧客名を消したら案件が識別できない … 記号の対応表を手元に置きます。AIには記号だけ渡します。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. Dの案件について、営業の回答を1件ずつ記録したか。「今月検収」「来月にずれた」「失注」のどれか。
  2. 先月の一覧で計上した案件が、今月の一覧でどうなったかを追えるか。追えない案件があれば、Bに入っているはずです。
  3. 確認した結果と、実際の計上が一致しているか。
  4. 翌月、「やっぱりずれました」が減ったか。減っていなければ、聞く相手か聞き方を変えます。

7. 注意点

検収予定一覧には顧客名・案件名・金額が入っています。記号に置き換えてから貼ります。どこまで渡してよいかは社内ルールで確認してください。
AIの差分一覧は「違いがある」という事実だけです。違いが問題かどうかは、営業の回答で決まります。
営業との関係を大事にします。質問の文面ひとつで、次の一覧の質が変わります。
売上計上の可否そのものは、この活用例の範囲外です。会計上の要件は別の話です。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 40行を眺めて不安になる時間が、「Dを見る」に変わります。
  • 営業への確認が、責める形ではなく「状況を教えてください」の形に定着します。
  • 「やっぱりずれました」の修正が減ります。
  • 3行メモが月ごとにたまり、どの案件が持ち越しやすいかが見えてきます。
明日の仕事で試すこと
  • 他部署から毎月来る一覧を1つ選び、先月分と今月分を並べる
  • 記号に置き換えて貼り、A〜Dに分けさせる
  • Dが何件あるか数える。それだけで、今月聞くべきことが決まる

応用 ― 難易度を上げる場合

同じ型が、人事からの賞与見込み、購買からの発注残、開発からの外注費見込みなど、他部署が作って経理が使う一覧すべてに使えます。変えるのは4種類の名前だけです。慣れてきたら、Dの案件だけを抜き出すExcelの数式を作っておくと、AIに貼る前に自分で見られるようになります。