経理規程と実務のずれを、規程の条文ごとに点検する
経理規程を条ごとの表にし、各条に「実際はどうしているか」を担当者が書き添えて、ずれを4種類(手段が変わっただけ/やっていない/規程にない作業/やめている)に分ける方法です。表にするのと分類はAI、「実際」を書くのと改定の決定は人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。経理規程は、10年前に作られました。その後、会計システムが変わり、承認がワークフローになり、経費精算がスマホになりました。規程は変わっていません。
- 規程には「伝票に上長の押印を受ける」と書いてある。押印は3年前になくなった。
- 監査法人から「規程と実際の運用が違う点を整理してください」と言われた。何が違うのか、全部は把握していない。
- 規程を読み直すのが億劫。40条ある。
- 直すにしても、どこから直すのか。全部直すと改定の手続きが大変。
やることは、規程の1条ずつに「実際はどうしているか」を書き添えること。それだけで、ずれの一覧になります。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 規程を条ごとに分ける … 40条を40行に。AIにやらせる。
(b) 各条に「実際はどうしているか」を人が書く … 「押印→ワークフローの承認」「紙の伝票→システム入力」。
(c) ずれを種類で分ける … 手段が変わっただけ(押印→承認ボタン)/規程のとおりやっていない/規程にない作業をやっている/規程の作業をやめている。
(d) 直す優先順位 … 「規程のとおりやっていない」を先に。
「実際はどうしているか」を書くこと。AIは規程を読めますが、貴社の実務は知りません。「実際は電子承認と推測される」のような補完は、点検の意味を無くします。実際の運用は、その作業をしている人が書きます。それから、規程をどう改定するかの決定。改定案の下書きはAIに任せてよいですが、決めるのは社内の手続き。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 規程を条ごとの表にする
- 人が書いた「実際」と規程の文言を並べ、ずれを4種類に分ける
- 「手段が変わっただけ」の条について、改定文案の下書き
- 監査法人に渡す「ずれの一覧」の形に整える
- 各条の「実際」
- ずれの種類の最終判断(特に「やっていない」の認定)
- 改定するか、運用を規程に戻すか
- 改定の手続き
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 規程の全文
経理規程の全文(社内文書なので、社名以外はそのまま貼ってよいか社内ルールで確認)。
往復1回目 ― AIが「実際」を埋めた
「実際の運用」列に、「(現在は電子承認と推測)」「(一般的にはシステム入力)」のような記述が入っていた。
推測が入ると、「実際」を書く人が、それを見て「そうそう」と流してしまいます。点検が、AIの推測の追認になります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『実際の運用』列を完全に空欄にしてください。( )書きも不要です。」
空欄になった。
40行の「実際」を、担当者ごとに分担して書きます。自分が知らない条は、その作業の担当に聞きます。書けない条は「不明」と書きます。不明も情報です。
往復2回目 ― ずれの分類
「実際」を埋めた表を貼って、次のように頼みます。「『実際の運用』を埋めました。各条について、規程の文言と実際のずれを、次の4種類に分けてください。①手段が変わっただけ(目的は同じ) ②規程のとおりやっていない ③規程にない作業を実際にはやっている ④規程の作業を実際にはやめている。ずれがない条は『ずれなし』。判断が難しいものは『要確認』としてください。」
分類は出た。ただし「押印→ワークフロー承認」が②「規程のとおりやっていない」に分類されていた。
文言どおりなら確かに「押印していない」。ただし目的(上長が承認する)は果たされています。これは①。②にすると、「承認していない」ように監査法人に見えます。
「文言の違いではなく、目的が果たされているかで分けてください。押印→電子承認のように、目的が同じで手段が変わったものは①です。」
①18条、②3条、③5条、④2条、ずれなし12条。
②の3条を先に見ます。この架空例では、「月次で上長が試算表を確認し署名する」が、確認はしているが記録が残っていませんでした。やっているのに記録がない、が②の典型です。記録を残す運用に戻すだけで解消します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 「実際」が書けない条が多い … その条の作業を誰もやっていないか、誰がやっているか誰も知らない。④か②の候補です。
- ③が多い … 規程が実務に追いついていない。③は規程に足す改定の候補です。
- 改定の手続きが重い … ①だけまとめて1回で改定します。②は運用を戻す(改定不要)。③④は次の改定で。
- 監査法人に「②が3条ある」と言いにくい … 言います。「把握して、運用を戻した」と言えるほうが、把握していないよりずっとよい。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 「実際の運用」列に、AIの推測が残っていないか。
- ②の各条について、運用を戻したか、改定するかを決めたか。
- 監査法人に「ずれの一覧」を渡し、説明できたか。
- 改定した条について、社内の手続きを経たか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「規程と運用が違う点」が、40行の表で答えられます。
- ②(やっていない)が3条に絞られ、運用を戻すだけで解消します。
- 規程の改定が「全部直す」ではなく「①をまとめて1回」で済みます。
- 表が毎年の点検の土台になり、次回は差分だけ見ればよくなります。
- 経理規程を開き、条ごとの表にさせる(「実際」は空欄)
- 自分の担当する作業の条だけ、「実際」を書く
- 「押印」「紙」「持参」の語がある条に印をつける(①の候補)
応用 ― 難易度を上げる場合
「実際の運用」を書く作業は、月次の作業を「誰が・いつ・何を見て・何を出すか」で棚卸しするの棚卸し表があれば、そこから転記できます。規程と棚卸し表を突き合わせると、③(規程にない作業)が自動的に見えます。