月次の作業を「誰が・いつ・何を見て・何を出すか」で棚卸しする
経理3名がそれぞれ書き殴った先月の作業メモを、1行1作業の「作業/誰が/いつ/何を見て/何を出すか」の表に整える方法です。表に整えるのはAI、作業そのものを書き出すのは本人。この表が、属人化・詰まり・仕分けを見る連作の土台になります。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。経理は3名(Aさん・Bさん・Cさん)。月次の締めは毎月なんとか回っています。ただ、こういう状態でもあります。
- 月次で何をやっているかの一覧が、どこにもない。それぞれの頭の中と、個人のメモにある。
- 「誰がやっているか」を、部長が把握していない。誰かが休むと、その日になって「これ誰がやるの」となる。
- 同じような作業を、2人が別々にやっている気がする。営業からの検収一覧を、AさんもBさんも確認している。
- 新しい人が入ったら何を教えるか、説明できない。手順書はあるが、手順書にない作業のほうが多い。
業務改善の話をする前に、いま何をやっているかが見えていません。見えていないものは、減らすことも、手放すことも、任せることもできません。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
月次の作業を、1行1作業で表にします。列は4つ。
誰が … 実際にやっている人(担当表ではなく、実態)
いつ … 月初/月中/締め日前/締め日後、のどれか。日付でなくてよい
何を見て … 入力になるもの(営業のExcel、銀行の明細、前月の仕訳)
何を出すか … 出力になるもの(仕訳、一覧、上司への報告)
この表を、人が書き出します。AIがやるのは、書き殴りを表に整えることと、抜けていそうな列を指摘することです。
作業そのものを書き出すこと。AIは貴社の月次を知りません。「月次決算の一般的な作業一覧」を出させると、それらしい表ができますが、貴社でやっていない作業が混ざり、貴社だけがやっている作業が抜けます。表は「やっているはずの作業」ではなく「やっている作業」で作ります。書き出すのは、その作業をしている本人です。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 3人がそれぞれ書き殴ったメモを、共通の4列の表に整える
- 4列のうち空いている欄を指摘する(特に「何を見て」が空きやすい)
- 同じ入力を使っている作業、同じ出力を出している作業を並べて見せる
- 「判断が入っていそうな作業」に印をつける(「確認する」「見て決める」と書かれた行)
- 作業の書き出し
- 空欄を埋める
- 並んで見えた作業が、本当に重複か
- 表を誰と共有するか
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 3人がそれぞれ書き殴る
先月やったことを、思い出せる順に書きます。文章でなくてよいです。AさんBさんCさんが別々に書きます(一緒に書くと、声の大きい人の作業だけになります)。
Aさんのメモ(抜粋)
・営業の検収一覧見て売上仕訳。月末
・前受の按分、前任者のExcel
・銀行の明細と帳簿の突合。月初
・この得意先だけ入金が2回に分かれるので手で消込
・部長に月次の数字を報告。締め日の翌日
往復1回目 ― AIが「理想の月次」を足した
表の中に「月次の締め後レビュー会議」「引当金の見直し」「予算実績比較」という行があった。
3人のメモに、この3つはありません。AIが一般的な月次決算の作業を補いました。禁止事項に書いていてもこうなります。この会社では予算実績比較は経営企画がやっていて、経理はやっていません。混ざると、「やっていない作業」が表に載り、後で「やることになっていたのに」と混乱します。
「メモに書かれていない作業をすべて削除してください。削除した行を、別に『メモになかったので削除した作業』として列挙してください。」
3行が消え、削除した3行が別に列挙された。
削除された3行を見て、「本当にやっていないか」を3人で確認します。この架空例では、「引当金の見直し」は年次だけで月次はやっていない、が正しかった。AIの補いは間違いでしたが、「やっていないことを確認する」材料にはなりました。
往復2回目 ― 暗黙の判断工程が落ちた
Aさんのメモの「この得意先だけ入金が2回に分かれるので手で消込」が、表では「入金消込」の1行にまとめられていた。
「この得意先だけ」という例外が消えました。表の「入金消込」を見た新しい人は、全部同じ手順だと思います。そして、その得意先の入金で止まります。棚卸しでいちばん落ちやすいのが、この「〜だけ」「〜の場合は」という判断工程です。
「メモに『だけ』『の場合』『によって』のような条件が書かれている作業は、条件ごとに別の行にしてください。まとめないでください。」
「入金消込(通常)」と「入金消込(得意先Xは2回に分かれるため手で消込)」の2行になった。
「判断が入っていそうな作業」の一覧を見て、それぞれの判断の中身を、1行ずつ「何を見て決めているか」に書き足します。判断の中身が書けない行は、書けないこと自体を記録します(今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにするへ)。
| 作業 | 誰が | いつ | 何を見て | 何を出すか |
|---|---|---|---|---|
| 売上仕訳 | A | 締め日前 | 営業の検収一覧 | 売上仕訳 |
| 前受金の按分 | A | 締め日前 | 前任者の按分Excel | 振替仕訳 |
| 銀行明細と帳簿の突合 | A | 月初 | 銀行の明細、帳簿 | 差異一覧 |
| 入金消込(通常) | A | 月中 | 入金明細 | 消込結果 |
| 入金消込(得意先Xは2回に分かれるため手で消込) | A | 月中 | 入金明細、得意先Xの請求 | 消込結果 |
| 部長への月次報告 | A | 締め日後 | 月次試算表 | 報告資料 |
棚卸し表の例(架空。抜粋)
往復3回目 ― 同じ入力・同じ出力を並べる
続けて、次のように頼みます。「表の中で、『何を見て』が同じ作業と、『何を出すか』が同じ作業を、それぞれ並べて見せてください。重複かどうかの判断はしないでください。並べるだけにしてください。」
「何を見て」が同じ:営業の検収一覧 → Aさん「売上仕訳」、Bさん「検収一覧の妥当性確認」
「何を出すか」が同じ:(該当なし)
並んだ2行を、AさんとBさんで話します。この架空例では、Bさんの確認はAさんの仕訳の前にやるべき工程で、順番が決まっていなかっただけでした。重複ではなく、順番が決まっていない2工程。それを表に「Bさんの確認 → Aさんの仕訳」と書きます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 書き出しが薄い … 「先月のカレンダーを見ながら」書きます。日付ごとに何をしたかを思い出すと、作業が出てきます。
- 3人のメモの粒度が違う … Aさんは10行、Bさんは40行、のようになります。揃えません。粒度が違うこと自体が、Bさんの作業が細かく分かれている(または属人化している)という情報です。
- 「いつ」が書けない … 「締め日前」「締め日後」の2つだけで書きます。それでも書けない作業は、時期が決まっていない作業です。
- 表が長すぎる(100行超) … それが実態です。減らしません。次の連作②〜④で扱います。
- AIがまた一般論を足す … 「削除して、削除した行を列挙」を毎回入れます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 表の全行に「誰が」が入っているか。空いていれば、誰もやっていないか、誰がやっているか誰も知らない作業です。
- メモにない行が残っていないか。
- 「だけ」「の場合」の作業が、別行になっているか。
- 3人が表を見て「自分の作業は全部載っている」と言えるか。言えなければ、まだ抜けています。これが本当の検証です。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 月次の全作業が1枚の表になり、部長が「誰が何をやっているか」を初めて見ます。
- 誰かが休む日に、「これ誰がやるの」が表を見れば済みます。
- 新しい人に渡す資料が、手順書の前に「この表」になります。
- この表が、連作②(属人化)・③(詰まり)・④(仕分け)の土台になります。
- 先月のカレンダーを見ながら、自分の月次作業を10行だけ書き出す
- 4列の表にさせ、「(未記入)」がいくつあるか数える
- 「だけ」「の場合」が入っている作業が、別行になっているか見る
応用 ― 難易度を上げる場合
表ができたら、次は連作②一人しかできない作業を見つけて、1つだけ手放すへ。表に「できる人」の列を1つ足すだけで、属人化が見えます。判断の中身を残す型は今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにするを参照してください。