一人しかできない作業を見つけて、1つだけ手放す
棚卸し表に「できる人」の列を足し、1人しかできない作業のうち「その人が休んだら締めが止まる」ものから、今月1つだけ手放す方法です。抜き出しと手順書の骨組みはAI、優先順位と「やめる」の判断は人が行います。
1. Before ― 手元はどうなっているか
サンライズソリューションズ株式会社の経理3名。連作①で月次の棚卸し表ができました(約70行)。表を眺めていて、部長が言いました。「Bさんが休んだら、締まらないんじゃないか」。
- Bさんしかできない作業が、たぶん多い。ただ、何個あるかは数えていない。
- Bさん本人は「大丈夫です」と言う。本人は手順を知っているので、難しさを感じていない。
- 手順書を全部書け、と言われても、Bさんにその時間はない。月次の合間に70行分の手順書は書けない。
- 過去に、Cさんの担当を引き継ごうとして失敗した。一度に全部引き継ごうとして、どれも中途半端になった。
属人化をなくす、という話はよく聞きます。ただ実務では、全部を一度になくすことはできません。1つずつ、確実に手放します。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
棚卸し表に列を1つ足します。
できる人 … その作業を、いま実際にできる人。「教えればできる」は含めない。
これで、「できる人」が1人だけの行が見えます。そのうえで、優先順位をつけます。基準は1つだけ。
その人が休んだら、締めが止まるか。
止まる作業から、1つだけ手放します。手放し方は3つ。
手順書を書く(その人が)/ペアでやる(次の月次で2人でやる)/やめる(実はやらなくてよかった作業)
優先順位を決めること。AIに「属人化している作業を挙げて」と言うと、「できる人」が1人の行を全部挙げて、「すべて標準化を推奨します」と言います。それでは、去年の失敗(一度に全部)の繰り返しです。どれを先に手放すかは、「休んだら締めが止まるか」を知っている人が決めます。それから、「やめる」の判断もAIに任せません。やめてよいかは、その作業の出力を誰が使っているかで決まり、AIは知りません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 棚卸し表に「できる人」列を足した状態で、1人だけの行を抜き出す
- 抜き出した行を、「いつ」の列で並べ替える(締め日前に集中していないか)
- 1人だけの行について、「何を見て/何を出すか」から、手順書に書くべき項目の骨組みを作る
- ペアでやるときの「見る側のチェックリスト」の下書き
- 「できる人」の記入(本人と、周りの両方で)
- 「休んだら締めが止まるか」の判断
- 今月手放す1つを選ぶ
- 手放し方(手順書・ペア・やめる)の選択
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 「できる人」列を埋める
3人で一緒に埋めます。本人が「Cさんもできる」と言っても、Cさんが「できない」と言えば「できない」。できる人の判定は、できる側ではなく、できない側の申告を優先します。
| 作業 | 誰が | いつ | 何を見て | 何を出すか | できる人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上仕訳 | A | 締め日前 | 営業の検収一覧 | 売上仕訳 | A・C |
| 前受金の按分 | B | 締め日前 | 契約一覧、前月の按分Excel、当月の新規契約 | 振替仕訳 | B |
| 検収一覧の妥当性確認 | B | 締め日前 | 営業の検収一覧 | 確認済み一覧 | B |
| 銀行明細と帳簿の突合 | A | 月初 | 銀行の明細、帳簿 | 差異一覧 | A・B・C |
棚卸し表の例(架空。抜粋)
往復1回目 ― AIが「全部」を提案した
抜き出しは正確だった(Bさん18件、Aさん6件、Cさん4件、計28件)。ただし末尾に「28件すべてについて手順書の作成を推奨します。優先度の高いものから順に…」と続いていた。
28件の手順書は、Bさんには書けません。「すべて」は、何もしないのと同じです。禁止事項に書いていてもこうなります。
「提案は不要です。表と件数だけにしてください。」
表と件数だけになった。Bさんの18件のうち、「締め日前」が11件。
Bさんの11件を見て、3人で「Bさんが休んだら締めが止まるか」を1件ずつ答えます。この架空例では、止まるのは4件でした。28件が、4件になりました。
往復2回目 ― 1つ選んで、手順書の骨組み
4件のうち、今月手放す1つを選びます。この架空例では「前受金の按分(前任者のExcel)」。続けて、次のように頼みます。「次の作業について、手順書に書くべき項目の骨組みを作ってください。手順の中身は書かないでください(それはBさんが書きます)。項目名だけです。作業:前受金の按分/何を見て:契約一覧、前月の按分Excel、当月の新規契約/何を出すか:当月の振替仕訳」
骨組みは出た。ただし「1. 前受金の按分とは(会計上の意義)」という項目が最初にあった。
手順書に「意義」は要りません。Bさんが書く時間が、意義の説明に消えます。手順書は「何を開いて、どこを見て、何をするか」だけでよい。
「意義・目的・背景の項目は削除してください。『開くもの』『見る場所』『すること』『できあがりの確認』の4項目だけにしてください。」
4項目の骨組みになった。「開くもの:契約一覧、前月の按分Excel/見る場所:新規契約の行、契約期間の列/すること:期間列を追加して月額を計算/できあがりの確認:前月の振替後残高と当月の期首残高が全件一致」。
Bさんが4項目を埋めます。30分で書ける分量にします。書けたら、来月の月次でCさんがその手順書だけを見てやります。Bさんは横で見るが、手は出しません(ペア)。
往復3回目 ― ペアでやるときのチェックリスト
最後に、次のように頼みます。「来月、Cさんがこの手順書を見てやり、Bさんが横で見ます。Bさんが『見る側』として確認する項目のチェックリストを、5項目以内で作ってください。」
見る側チェック:□ Cさんが手順書だけで「開くもの」を全部開けたか □ 「見る場所」で迷った箇所はどこか □ Bさんが口を出したくなった箇所はどこか(そこが手順書に足りない) □ できあがりの確認が一致したか □ 手順書に書き足す項目
Bさんが口を出したくなった箇所を、手順書に書き足します。口を出したくなった箇所が、属人化の正体です。2か月目にCさんが一人でできたら、その作業は手放せました。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 本人が「自分しかできない」を認めない … 「できる人」列を、本人以外の2人に先に埋めてもらいます。
- 「止まる」が4件より多い … それでも1つずつ。今月1つ、来月1つ。1年で12件。
- 手順書を書いてもCさんができない … 手順書が悪いのではなく、「見る場所」の判断が手順書に書けていません。その判断を判断メモの型(事実・判断・理由・次回)で残します。
- ペアでやる時間がない … 締め日前でない作業から始めます。締め日前の作業は、時間があるときにやります。
- 「やめる」に見える作業が出てきた … すぐにやめません。出力を誰が使っているかを1か月追います。誰も使っていなければ、やめる(連作④へ)。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 「できる人」列が、できない側の申告で埋まっているか。
- 「休んだら締めが止まる」作業の数が、3人で一致しているか。
- 今月選んだ1つについて、手順書が4項目で書けたか。30分で書けたか。
- 翌月、Cさんが手順書だけでできたか。Bさんが口を出した回数は何回か。0回になったら、手放せました。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「Bさんが休んだら締まらない」が、「止まる作業は4件、うち1件は今月手放した」という具体的な状態になります。
- 手順書が、「全部書け」ではなく「今月1つ」で積み上がります。
- ペアでやることで、手順書に書けない判断が見えます。
- 1年後、締め日前の属人化がほぼなくなっています。急がないほうが、結局早い。
- 棚卸し表に「できる人」列を足し、自分の作業だけ埋める(自分しかできない作業に印)
- 印のついた作業のうち、「自分が休んだら締めが止まる」ものを数える
- そのうち1つを選んで、「開くもの・見る場所・すること・できあがりの確認」を書く
応用 ― 難易度を上げる場合
棚卸し表がまだない場合は連作①月次の作業を「誰が・いつ・何を見て・何を出すか」で棚卸しするから。手放した先で、締めのどこが詰まっているかを見るのが連作③月次のどこが詰まっているかを見つける。手順書に書けない判断は今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにするの型で残します。