月次のどこが詰まっているかを見つける
棚卸し表に「前の工程」「待つ相手」の列を足し、締め日から逆にたどった「いちばん長い鎖」と、待たずに始められる作業を見つける方法です。つながりの整理はAI、日数は先月の実績から人が入れ、どの提出物をどれだけ早めてもらうかは人が決めます。
1. Before ― 手元はどうなっているか
サンライズソリューションズ株式会社。月次の締めは、営業日で7日目。部長は5日目にしたい。経理3名は「無理です」と言います。ただ、なぜ無理なのかを説明できません。
- 締め日前の3日間が、いつも修羅場。何かを待っていて、来たら一気にやる。
- 何を待っているのかは、人によって違う。Aさんは営業の検収一覧、Bさんは銀行の明細、Cさんは経費精算の締め。
- 早く始められる作業と、待たないと始められない作業が、混ざっている。待たなくていい作業を、待ってからやっている気がする。
- 「早くして」と各部署に言っても、何をどれだけ早くすればいいかが言えない。
締めを早くするには、どの作業が、何を待って、どれだけ止まっているかが見えないといけません。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
棚卸し表に列を2つ足します。
前の工程 … この作業の前に、終わっていないといけない作業(表の中の別の行)
待つ相手 … 経理の外から来るもの(営業の一覧、銀行の明細、他部署の提出)
これで、作業の「つながり」が見えます。つながりを追うと、締め日から逆にたどって、いちばん長い鎖が見つかります。その鎖の先頭が、締めを決めています。
日数を入れること。AIに「つながり」を渡すと、「通常、検収一覧の確認は1営業日、仕訳は0.5営業日」のように、伝えていない日数を作ります。それを足し合わせた「7営業日」は、貴社の7営業日とは無関係です。日数は、先月の実績(いつ来て、いつ終わったか)から人が入れます。AIに任せるのは、つながりの整理と、鎖の抽出までです。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 棚卸し表の「前の工程」「待つ相手」から、作業のつながりを矢印で整理する
- 締め日から逆にたどった、いちばん長い鎖を抜き出す
- 「待つ相手」が同じ作業をまとめる(同じ提出物を待っている作業)
- 「前の工程がなく、待つ相手もない」作業(=いつでも始められる作業)を抜き出す
- 「前の工程」「待つ相手」の記入
- 先月の実績日付の記入
- どの提出物を、どれだけ早めてもらうか
- 早く始められる作業を、実際に早く始めるか
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 2列を埋める
70行すべてでなくてよいです。締め日前の作業(連作②で数えた「締め日前」の行)だけ、「前の工程」と「待つ相手」を埋めます。あわせて、先月の実績として「待つ相手からいつ来たか」「その作業がいつ終わったか」を日付で書いておきます(AIには渡しません)。
| 作業 | 誰が | いつ | 何を見て | 何を出すか | できる人 | 前の工程 | 待つ相手 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 検収一覧の妥当性確認 | B | 締め日前 | 営業の検収一覧 | 確認済み一覧 | B | — | 営業(検収一覧) |
| 売上仕訳 | A | 締め日前 | 確認済み一覧 | 売上仕訳 | A・C | 検収一覧の妥当性確認 | — |
| 前受金の按分 | B | 締め日前 | 契約一覧、前月の按分Excel | 振替仕訳 | B・C | 売上仕訳 | — |
| 銀行明細と帳簿の突合 | A | 締め日前 | 銀行の明細、帳簿 | 差異一覧 | A・B・C | — | — |
| 経費集計 | C | 締め日前 | 経費精算システム | 経費仕訳 | C | — | 各部署(経費精算の締め) |
棚卸し表の例(架空。抜粋)
往復1回目 ― AIが日数を作った
鎖は正しく抜き出された。ただし鎖の各作業に「(約1営業日)」と付いていて、末尾に「合計約6営業日」とあった。
日数は伝えていません。AIが一般的な感覚で作りました。「6営業日」は正しそうに見えますが、この会社の実績とは無関係です。しかも部長がこれを見ると「6日でできるのか」となります。
「日数・営業日・合計をすべて削除してください。作業名と矢印だけにしてください。」
日数が消えた。いちばん長い鎖は「営業の検収一覧が届く → Bさんが妥当性確認 → Aさんが売上仕訳 → 前受の按分 → 売上の締め → 月次試算表 → 部長報告」の7段。
この7段に、先月の実績日付を人が書き込みます。この架空例では、検収一覧が届いたのが5営業日目の夕方でした。そこから2日で締めていた。つまり、締めが7日目なのは経理が遅いのではなく、検収一覧が5日目に来るから。これが、部長に言えなかった「なぜ無理か」の答えです。
往復2回目 ― いつでも始められる作業
④に「銀行明細との突合」「経費精算の集計」「固定資産の月次償却」など9件が挙がった。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。9件は、何も待たずに始められるのに、実際には締め日前の3日間にまとめてやっていました。「締め日前にやるもの」と思い込んでいただけ。追加の指示は出しません。
9件を、来月から「月初〜月中」に動かします。締め日前の3日間から9件が消えます。検収一覧が来てからやる作業だけが残ります。
往復3回目 ― 待つ相手ごとにまとめる
最後に、次のように頼みます。「③の『待つ相手』ごとに、その相手からの提出が1日早まったら、どの作業が1日早く始められるかを一覧にしてください。日数は『1日早まったら』の仮定だけで、他の日数は書かないでください。」
営業の検収一覧が1日早まったら → 妥当性確認・売上仕訳・前受按分・売上締め・試算表・部長報告(鎖のすべて)
経費精算の締めが1日早まったら → 経費集計・未払計上の2件
銀行明細が1日早まったら → 影響なし(すでに月初に来ている)
営業に「検収一覧を1日早く」と頼む理由が、この一覧で説明できます。頼み方は提出が遅い相手に、角を立てずに出してもらうときの事前依頼の型で。「1日早くもらえると、締めが1日早まり、売上の速報が1日早く営業に戻ります」と、相手の都合で書きます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 「前の工程」が書けない … その作業が、実は何にも依存していない(④に入る)か、依存関係を本人が意識していません。「この作業の前に、何が終わっていないと困るか」と聞き直します。
- 鎖が複数ある … 全部出します。いちばん長い鎖だけ見る。2番目の鎖は、1番目を短くしてから。
- AIがまた日数を書く … 毎回削除させます。一度でも見て納得しない。
- 提出を早めてもらえない … 鎖の中で、経理の内側でできること(Bさんの確認とAさんの仕訳を同じ日にやる、など)を先にやります。外に頼むのは、内側を直してから。
- ④の作業を月初に動かしたら、月初が忙しくなった … それが正しい。締め日前の修羅場が、月全体に平らになりました。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 鎖に日数が残っていないか。残っていれば、AIが作った日数です。
- 鎖の各作業に、先月の実績日付が人の手で入っているか。
- ④の作業を、来月実際に月初〜月中に動かしたか。何件動かせたか。
- 締め日が1日でも早まったか。早まっていなければ、鎖の先頭(待つ相手)が変わっていません。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「なぜ7日かかるか」が、鎖の絵1枚で部長に説明できます。
- 締め日前の3日間から、待たなくていい9件が消えます。
- 営業に頼むことが「早くして」から「検収一覧を1日早く。理由はこれ」に変わります。
- 締めが1日早まったとき、どこが効いたかがわかります。次に何を早めればいいかもわかります。
- 自分の締め日前の作業について、「前の工程」「待つ相手」を書く
- AIにつながりを描かせ、日数が出てきたら消す
- 「待つ相手がいない作業」を1つ、来月は月初にやると決める
応用 ― 難易度を上げる場合
棚卸し表がまだない場合は連作①月次の作業を「誰が・いつ・何を見て・何を出すか」で棚卸しするから。待つ相手への頼み方は提出が遅い相手に、角を立てずに出してもらうとき。鎖が見えたら、次は連作④経理の仕事を「やめる・減らす・まとめる・任せる」に仕分けるで、鎖の中の作業そのものを見直します。