提出が遅い相手に、角を立てずに出してもらうとき
月次の提出物の催促を「事前の依頼/1回目/2回目」の3段階の型にする方法です。文面の型を作るのはAIに任せ、相手の事情をどこまで汲むか、エスカレーションの相手と時期、毎月遅れる相手に仕組みを変えるかは人が判断します。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。月次の締めに必要な提出物が、毎月遅れます。
- 経費精算:締切は翌月3営業日。営業部の一部が、毎月5営業日を過ぎてから出す。
- 請求書の回付:取引先から届いた請求書を、担当者が机に置いたまま1週間。
- 検収予定一覧:営業部からの提出が、催促しないと来ない。
- 催促のメールは毎月書いている。毎月、同じ人に、同じような文面で。
経理側の困りごとは、締めが遅れること。ただ、それ以上に困っているのは、催促のたびに関係が少しずつ悪くなることです。強く書けば反発され、弱く書けば無視されます。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
催促には3つの段階があり、段階ごとに文面が違います。
(a) 事前の依頼 … 締切の前に、締切と「出さないとどうなるか」を伝える。ここが一番効く。
(b) 1回目の催促 … 締切当日か翌日。短く、事実だけ。
(c) 2回目の催促 … それでも来ないとき。相手の上司に共有するか、自分の上司から言ってもらう。
そして、毎月同じ人が遅れるなら、文面の問題ではなく仕組みの問題です。それは(d)として別に扱います。
誰にエスカレーションするか、いつするかの判断。相手の上司に伝えるかどうかは、社内の関係と、その人の事情(繁忙期、異動直後)で決まります。AIは知りません。また、「なぜこの人はいつも遅いのか」をAIに推測させない。推測は当たらないし、当たっても関係を壊します。AIに任せるのは、段階ごとの文面の型を作ることと、締切の一覧を整えることまでです。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 提出物ごとの締切・提出先・出さないとどうなるか、の一覧を整える
- 事前依頼・1回目・2回目の文面の型を作る
- 過去に自分が送った催促メールから、きつすぎる表現・長すぎる部分を指摘する
- 相手別・提出物別に、型に事情を差し込んだ下書きを作る
- 相手の事情をどこまで汲むか
- エスカレーションの相手と時期
- 実際に送る文面
- 毎月遅れる相手に対して、仕組みを変えるかどうか
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 過去の催促メールを集める
過去3か月の催促メールを、宛先の名前を消して5〜10通貼ります。あわせて、提出物ごとの締切を表にしておきます(提出物/締切/出さないと何が止まるか)。
往復1回目 ― AIの文面が「丁寧すぎて長い」
事前依頼の本文が12行あった。「日頃より経理業務にご協力いただき誠にありがとうございます。さて、来月の月次決算に向けて…」から始まる。
読まれません。忙しい営業は最初の2行で閉じます。締切が本文の8行目に書いてあると、締切が伝わりません。禁止事項に「5行以内」と書いたのに、AIは丁寧さを優先しました。
「挨拶は1行以内。2行目に締切。3行目に出ないと何が止まるか。4行目に出し方。それだけにしてください。」
件名:【9月分】経費精算の提出 締切 10/3(金)
お疲れさまです。9月分の経費精算は 10/3(金)17時 が締切です。
締切を過ぎると、10月の月次締めに間に合わず、精算の振込が翌月にずれます。
提出は【システム名】から。不明点は経理まで。
「出ないと何が止まるか」を、相手にとって困ることで書き直します。「月次締めが遅れる」は経理の都合。「精算の振込が翌月にずれる」は相手の都合。相手の都合で書いた方が、出してもらえます。
往復2回目 ― 2回目の催促が「脅し」になった
2回目の催促に「本日中にご提出いただけない場合、上長に報告させていただきます」と書かれていた。
事実としてそうするとしても、書くと関係が終わります。禁止事項に「条件つきの言い回しは使わない」と書いたのに出てきました。エスカレーションは「する」か「しない」かで、予告するものではありません。
「上長への報告や、しない場合の結果を書かないでください。2回目は『まだ届いていません。今日中に出せそうか、一言ください』の趣旨で、相手が返事しやすい形にしてください。」
件名:【再送】9月分 経費精算 まだ届いていません
お疲れさまです。9月分の経費精算がまだ届いていません。
今日中に出せそうか、難しければいつになりそうか、一言いただけると助かります。
間に合わない場合の扱いは、こちらで調整します。
2回目でも返事がない相手について、自分の上司に相談します。相手の上司に直接言うかどうかは、自分の上司と決めます。文面には書きません。
往復3回目 ― 毎月遅れる相手を「仕組み」で解く
続けて、次のように頼みます。「過去3か月の催促メールから、同じ提出物で毎月催促している相手(宛先は記号で構いません)と提出物の組み合わせを一覧にしてください。理由は推測しないでください。」
毎月催促している組み合わせ:①営業部・経費精算(3か月連続)②コンサル部・請求書回付(2か月)
①について、文面ではなく仕組みを変えます。たとえば、締切の3日前にシステムから自動で通知が出るようにする、営業部の締切を経理の締切より2日早く設定する、営業部のアシスタントにまとめて出してもらう。3か月連続の相手に、4通目の催促メールを書いても変わりません。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 文面を変えても出てこない … 文面の問題ではありません。仕組み(往復3回目)へ。
- 相手が「聞いていない」と言う … 事前依頼を送っていない可能性があります。事前依頼は、催促より効きます。
- 自分の上司が動いてくれない … 「締めが○日遅れる」という事実だけを、月次の報告に書きます。責めず、事実を残す。
- 相手に事情があった(休職・繁忙) … 事情がわかったら、その月は催促しません。代わりに誰が出せるかを相手の部署に聞きます。
- AIが「関係構築のために」と長文を書き始める … 断ります。関係は文面ではなく、締切を守ったときに「ありがとうございます」と返すことで作ります。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 事前依頼を送った提出物と、送らなかった提出物で、締切内の提出率が違うか。違えば、事前依頼が効いています。
- 1回目の催促で出てくる割合が、先月より上がったか。
- 2回目の催促を送った件数が減ったか。
- 毎月催促している相手が、仕組みの変更で減ったか。減っていなければ、変えた仕組みが相手に届いていません。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 催促メールを一から書く時間がなくなります。型に提出物と締切を入れるだけ。
- 事前依頼が定着して、催促の回数そのものが減ります。
- 2回目の催促が「返事しやすい形」になり、関係が悪くなりにくくなります。
- 毎月遅れる相手が「文面の問題」から「仕組みの問題」に移り、経理の月次に一つずつ効いてきます。
- 来月の締切が近い提出物を1つ選び、事前依頼を4行で書く(挨拶1行・締切・出ないと相手が困ること・出し方)
- 「出ないと何が止まるか」を、経理の都合ではなく相手の都合で書けているか見る
- 送る
応用 ― 難易度を上げる場合
提出物の締切一覧が整ったら、それをそのまま「月次の提出カレンダー」として社内に公開します。全部署が同じカレンダーを見ている状態が、いちばん催促が減ります。問い合わせ対応の型(同じ問い合わせに、また一から答えているとき)と組み合わせると、経理から社内への発信が「催促」と「回答」の両方で揃います。