今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにする
月次のあいだに起きた小さな判断を、月末10分で「事実/判断/理由/次回」の4項目に整える方法です。頭の中のメモを型に整えるのはAIに任せ、理由を自分の言葉で書くことと「次回」をどうするかは人が行います。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。経理は2名。月次のあいだに、こういう「小さな判断」がいくつも起きます。
- 営業から「この案件の売上、今月に入れていいですか」と聞かれ、上司に確認して来月に回した。
- 取引先から届いた請求書の日付が先月で、金額も大きかったので、先月分として未払計上した。
- 交際費の領収書に参加者の名前がなく、営業に聞いて5名と確認して処理した。
- システムの取込でエラーになった3行を、手で直して取り込んだ。
どれも、その場では正しく処理しました。問題は3か月後です。
- 「なぜ来月に回したんだっけ」が思い出せない。上司に確認したことは覚えているが、上司が何と言ったかは覚えていない。
- 監査法人に「この未払、根拠は」と聞かれて、メールを探す。30分かかる。
- 同僚が同じ案件で逆の処理をしていた。判断が共有されていなかった。
- 手で直した3行が、翌月も同じエラーを出した。直したことを誰も覚えていない。
判断は毎月起きているのに、判断の記録だけが残っていません。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
判断を残すには、4つの項目があればよいです。
事実 … 何が起きたか(営業から質問/請求書の日付が先月)
判断 … どうしたか(来月に回した/未払計上した)
理由 … なぜそうしたか(上司が「検収書がまだ」と言った/金額が大きく期間帰属を優先)
次回 … 次に同じことが起きたらどうするか(検収書を先に確認する)
この4つを、月末に10分で書きます。書くのは人。AIは、頭の中にあるものを4項目の形に整える係です。
理由を書くこと。「なぜ来月に回したか」は、あなたと上司の会話の中にあります。AIは知りません。AIに理由を書かせると、「会計上の適切な期間帰属を考慮し」のような、もっともらしいが実際には誰も言っていない理由が出てきます。3か月後にそれを読んだ自分が、本当の理由だと思い込むのがいちばん危ない。理由は、自分の言葉で、会話に近い形で書きます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 頭の中の出来事を書き殴ったメモを、「事実/判断/理由/次回」の4項目に整理する
- 4項目のうち、空いているものを指摘する(特に「理由」と「次回」が空きやすい)
- 1か月分の判断メモを、種類ごとに並べ直す
- 3か月分がたまったら、繰り返し起きている判断を抜き出す
- 判断そのもの
- 理由を自分の言葉で書く
- 「次回」をどうするか
- メモを誰と共有するか(同僚・上司)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 書き殴りでよい
月末に、今月起きた判断を思い出して、順不同で書きます。文章でなくてよいです。
・A案件の売上、営業が今月と言ったけど上司に聞いて来月にした。検収書がまだって
・B社の請求書、日付8月で金額大きいから8月の未払にした
・交際費、名前なかったから営業に聞いた。5名
・取込エラー3行、手で直した。全角スペースが入ってた
往復1回目 ― AIが理由を美化した
A案件の「理由」が「収益認識の観点から、検収の完了をもって売上計上するのが適切であるため」となっていた。
メモに書いたのは「上司に聞いて来月にした。検収書がまだって」。それが「収益認識の観点から」に化けています。もっともらしいが、誰もそう言っていません。3か月後にこれを読むと、「上司と相談した」という事実が消えて、自分が基準に照らして判断したことになってしまいます。
「理由は、私のメモの言葉をそのまま使ってください。言い換えないでください。メモに『上司に聞いて』とあれば、理由は『上司に確認。検収書が未着のため』のように、誰に聞いたかを残してください。」
「理由:上司に確認。検収書が未着のため来月に回すとの指示」になった。
4つの判断の「次回」を自分で埋めます。A案件なら「営業から売上の相談が来たら、まず検収書の有無を聞く」。「次回」を書いた瞬間に、メモが手順に変わります。
往復2回目 ― 「次回」が空いている
4件のうち3件の「次回」が「(未記入)」だった。指示どおりなので、これは正しい。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。空欄が「自分がまだ考えていないこと」を見せてくれます。取込エラーの「次回」を考えると、「取込前に全角スペースを置換する」という1行が出てきました。来月のエラーが1つ減ります。追加の指示は出しません。空欄は人が埋めます。
埋めた「次回」のうち、手順として定着させるものを、部内の手順書かチェックリストに1行足します。
往復3回目 ― 3か月分を束ねる
3か月たったら、3か月分の判断メモを貼って、次のように頼みます。「3か月分の判断メモを貼ります。同じ種類の判断が繰り返し起きているものを抜き出し、『毎月起きている判断』として一覧にしてください。判断の中身は変えないでください。」
毎月起きている判断:①営業からの売上計上時期の相談(3か月で5件。すべて検収書の有無で判断)②請求書の日付と到着月のずれ(3か月で4件)③取込エラーの手修正(毎月)
毎月起きている判断は、判断ではなく手順にします。①なら「売上計上時期は検収書の日付」を営業に先に伝える。③なら取込前の置換を手順に入れる。判断が減ると、来月のメモが短くなります。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 月末に思い出せない … その場でメモする癖をつけます。1行でよい。「A案件、来月に。上司」だけでも、月末に4項目にできます。
- 理由が「なんとなく」しかない … それも書きます。「なんとなく(未記入)」は、3か月後に「ここは根拠がなかった」と気づけます。書かないより、書いた方が安全です。
- 判断が多すぎて10分で終わらない … 金額の大きいものと、他部署が絡むものだけ書きます。全部書こうとして書かないより、3つ書く。
- 同僚が書かない … 自分の分だけ書きます。共有フォルダに置いておくと、同僚が「あの件どうした?」と聞いてきたときに、見せるだけで済みます。それを見て書き始める人もいます。
- AIが「判断は適切です」と言う … 無視します。判断の当否は、上司と監査法人が見ます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 4項目のうち「理由」に、自分のメモにない言葉が入っていないか。入っていれば、AIが足しています。
- 「次回」が埋まっているか。空欄のまま3か月たてば、同じ判断をまた一からします。
- 3か月後に、メモを見て30秒で経緯を説明できるか。監査法人に聞かれたときが、本当の検証です。
- 毎月起きている判断が、手順に変わって減ったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「なぜそうしたんだっけ」が、メモを開く30秒に変わります。
- 監査法人への説明が、メールを探す30分から、メモを見せる1分になります。
- 同僚と判断が揃います。逆の処理をしていた、が減ります。
- 毎月起きている判断が手順に変わり、判断そのものが減ります。これがいちばん大きい。
- 今週やった判断を、思い出せるだけ1行ずつ書く(3つでよい)
- 4項目に整理させ、「理由」に自分の言葉以外が入っていないか見る
- 「次回」を1つだけ埋める
応用 ― 難易度を上げる場合
判断メモが半年たまると、それがその業務の「判断基準集」になります。新しく入った人に渡す資料として、手順書より役に立つことが多いです。毎月の「前回と同じ」作業の記録は前回と同じようにやったけど、今回も同じでいいのか不安なときの3行メモと組み合わせると、作業の記録と判断の記録が揃います。