経理部門のAI利用ルールを、1枚で決める
部内3名で決めた「貼ってよいもの/いけないもの」「使ってよいツール」「出力の扱い」「迷ったら誰に聞くか」を、AIにA4一枚に整えさせる方法です。ルールの中身は人が決め、全社規程との整合は情報システム・法務に確認します。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。経理部でAIを使い始めて半年。使っている人と使っていない人がいて、使っている人も、使い方はばらばらです。
- 「取引先名を貼っていいのか」を、人によって違う判断でやっている。
- 全社の情報セキュリティ規程はあるが、AIについての記述は「業務での利用は所属長の判断による」の一文だけ。
- 上司から「経理部としてのルールを作って」と言われた。ただ、10ページの規程を作る時間はないし、作っても読まれない。
- 監査法人から「AIを使った作業の確認はどうしているか」と聞かれた。答えられなかった(→AIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残す)。
必要なのは、読まれる長さで、迷ったときに見るルール。1枚です。考え方はAI時代のセキュリティとガバナンスにあります。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
1枚に入れるのは、4つだけ。
(a) 貼ってよいもの/貼ってはいけないもの … 具体的に。「取引先名は記号に」「口座番号は貼らない」「金額は千円単位に丸める」。
(b) 使ってよいツール … 会社が契約しているもの、個人アカウントの可否。
(c) AIの出力をどう扱うか … 「判断はしない」「原文で確認する」「確認した人を残す」。
(d) 迷ったら誰に聞くか … 名前。
ルールの中身を決めること。AIに「AI利用ガイドラインを作って」と頼むと、10ページの立派な文書が出てきます。それは一般論で、貴社の情報セキュリティ規程とも、経理部の実際の使い方とも合っていません。中身は部内3名で決め、AIには「1枚に収める」「読みやすくする」だけを任せます。全社の規程との整合は、情報システム部門か法務に確認します。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 部内で決めた項目を、1枚(A4)に収まる形に整える
- 「貼ってよい/いけない」の例を、部内の実際の作業(活用例で使っているもの)から拾って表にする
- 全社規程の該当箇所と、経理部のルールの対応表を作る(規程を貼った場合)
- ルールの中身すべて
- 全社規程との整合(情報システム・法務に確認)
- 部長の承認
- 半年ごとの見直し
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 部内3名で30分
部内3名で、(a)〜(d)を箇条書きで決めます(30分)。全社の情報セキュリティ規程のAI・外部サービスに関する箇所があれば、それも。
往復1回目 ― AIがルールを足した
「出力の扱い」に、部内で決めていない「AIの出力は必ず2名で確認すること」「利用ログを月次で提出すること」が入っていた。
2名確認も月次提出も、経理3名の部では回りません。守れないルールは、ルール全体を形骸化させます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「部内で決めた内容以外の項目をすべて削除してください。削除した項目を別に列挙してください(検討の参考にします)。」
決めた内容だけになった。削除した項目は別に並んだ。
削除された項目を見て、「これは取り入れたい」があれば部内で決め直します。AIの提案を、決める材料として使うのはよい。決めていないものをルールにしない。
往復2回目 ― 「貼ってよい」の例が抽象的
「貼ってよいもの:機密性の低い情報」「貼ってはいけないもの:機密情報」。
これでは、迷ったときに判断できません。「取引先名は?」「金額は?」に答えられない1枚は、貼る意味がありません。
「『機密』という語を使わず、経理の実際の作業で出てくるもの(取引先名、口座番号、金額、従業員名、契約書、試算表)ごとに、『そのまま貼る/記号にして貼る/丸めて貼る/貼らない』の4つで書いてください。」
表になった。「取引先名:記号にして貼る/口座番号:貼らない/金額:千円単位に丸めて貼る/従業員名:貼らない/契約書:該当条項のみ、相手先は記号/試算表:科目名は一般名、千円単位」。
この表を情報システム部門に見せて、全社規程と矛盾しないか確認します。確認が取れたら、部長の承認をもらって、共有フォルダの一番上に置きます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 全社規程で外部AIの利用が禁止されている … 経理部のルールは作れません。情報システム部門に「業務での利用の可否と条件」を確認するところから。AI時代のセキュリティとガバナンスも参照。
- 1枚に収まらない … 決めた項目が多すぎます。「迷ったときに見る」ものだけ残し、残りは「詳細は全社規程」とします。
- 守られない … ルールが実際の作業と合っていません。半年ごとに、「実際にどう使っているか」を聞いて直します。
- 監査法人に見せる … 見せてよいです。「1枚しかない」は問題ではありません。「決めて、守っている」が問題。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 1枚に、部内で決めていない項目が入っていないか。
- 「貼ってよい/いけない」が、具体的なもの(取引先名、口座番号…)で書かれているか。
- 情報システム部門・法務に、全社規程との整合を確認したか。
- 部員が、迷ったときにこの1枚を見ているか(半年後に聞く)。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「取引先名を貼っていいのか」に、1枚を見れば答えられます。
- 部員ごとにばらばらだった使い方が、揃います。
- 監査法人に「ルールはこれです」と1枚で見せられます。
- 半年ごとに1枚を直すことで、ルールが実際の使い方に追いつき続けます。
- 経理の作業で出てくるもの(取引先名、口座番号、金額、従業員名、契約書、試算表)を6つ書く
- それぞれ「そのまま/記号/丸める/貼らない」のどれかを、自分の判断で書いてみる
- 同僚と答えが違うものがあれば、それが部内で決めるべきこと
応用 ― 難易度を上げる場合
「出力の扱い」の中身(誰が何を確認したかを残す)は、AIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残すへ。全社的な考え方はAI時代のセキュリティとガバナンス。ルールが定着したら、このサイトの各活用例の「準備」に書いてある置き換え方(記号化・丸め)を、そのまま1枚の例として使えます。