AIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残す
AIを使った作業ごとに「AIに任せたこと/確認したこと(粒度つき)/直したこと/誰が・いつ」の4行を、成果物の先頭に残す方法です。メモの型と月末の一覧はAI、確認そのものと粒度の決定は人。「十分に確認した」は記録ではなく感想です。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。AIを使った作業が増えました。消費税区分のチェック、変動分析のコメント、問い合わせの回答下書き。どれも、最後は人が確認しています。ただ。
- 「確認した」という記録が、どこにもない。AIの出力をそのまま使ったのか、直して使ったのか、あとから分からない。
- 監査法人に「AIを使った作業の確認はどうしているか」と聞かれて、「見ています」としか答えられなかった。
- 同僚が作った資料が、AIの出力そのままなのか、確認済みなのか、見分けがつかない。
- 半年前の自分が、何を確認して何を確認しなかったかを、思い出せない。
このサイトのすべての活用例に「検証」の章があります。検証したことを、残すのが、この活用例です。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
残すのは、作業ごとに4項目だけ。
何をAIに任せたか … 「消費税区分の候補出し」「コメントの下書き」
何を確認したか … 「候補のうち例外300件を自分で判定」「数字を試算表と照合」
何を直したか … 「区分を12件修正」「断定表現を3か所削除」
誰が、いつ … 名前と日付
これを、作業の成果物(Excel・文書)の中か、横に残します。別の台帳を作ると、書かれなくなります。
確認そのもの。当たり前ですが、「AIの出力をAIに確認させた」は確認になりません。この活用例で扱うのは、人が確認したことを残す方法であって、確認をAIに肩代わりさせる方法ではありません。それから、「確認した」の粒度を決めること。全件見たのか、上位10件を見たのか、合計だけ見たのか。粒度は作業ごとに人が決め、記録にはその粒度を書きます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 4項目の記録を、成果物の先頭や末尾に置く「確認メモ」の型にする
- 各活用例の「検証」の章から、その作業で確認すべき項目を拾って、メモの下書きにする
- 月末に、その月の確認メモを一覧にする
- 確認そのもの
- 確認の粒度
- 記録を残す場所
- 監査法人への説明
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 成果物を1つ
AIを使った作業の成果物(例:消費税区分チェックの結果Excel)。
往復1回目 ― AIが「十分に確認」と書いた
「確認したこと:出力結果を十分に確認し、問題がないことを確かめた。」
これは記録ではなく感想です。監査法人が読んで、何を見たか分かりません。「十分」「問題ない」は、粒度を隠す言葉。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『十分』『問題ない』を削除し、『何を、何件、何と照合したか』だけを書いてください。」
「確認したこと:AIが『ルール表外』とした300件を全件、取引内容と請求書で判定。ルール表内の1,200件は、区分ごとの合計額を前月と比較(明細は未確認)。」
「明細は未確認」と書けるかどうか。確認していないことを書くのが、記録の価値です。書けたら、この記録は監査法人に見せられます。
往復2回目 ― 月末の一覧
月末に、その月の確認メモ(5作業分)を貼って、次のように頼みます。「一覧にしてください。列は、作業/AIに任せたこと/確認の粒度/直した件数/誰が・いつ。」
一覧はできた。末尾に「全体として、確認体制は適切に運用されています」。
それを言うのは監査法人であって、AIではありません。評価語は一覧から消します。
「末尾の評価を削除してください。」
一覧を見て、確認の粒度が「合計のみ」に偏っている作業がないかを自分で見ます。あれば、来月は粒度を上げるか、そのままでよいかを上司と決めます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 書く時間がない … 4行。2分。書く時間がないなら、確認する時間もなかった可能性を疑います。
- 粒度を書くのが怖い(「合計のみ」と書きたくない) … 書きます。「合計のみ」が問題なら、粒度を上げる。書かないと、上げるべきかどうかも分かりません。
- 同僚が書かない … 自分の分だけ書きます。監査法人に「私の分はこう残しています」と言えれば、部全体の話になります。
- AIがまた評価語を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 確認メモに「十分」「問題ない」「適切」が残っていないか。
- 確認の粒度(全件/上位○件/合計のみ)が、すべての作業に書かれているか。
- 「未確認」と書いた項目があるか。0件なら、本当に全部確認したのか、書けていないのか。
- 監査法人に一覧を見せて、「何を見たか」を質問なしで理解してもらえたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 監査法人の「確認はどうしているか」に、一覧を見せて答えられます。
- 同僚の資料が、AIの出力そのままか、確認済みかが、先頭シートで分かります。
- 半年前の自分が、何を確認して何を確認しなかったかが、分かります。
- 確認の粒度が「合計のみ」に偏っている作業が見え、上げるべきところが決まります。
- 今日AIを使った作業を1つ選ぶ
- 「AIに任せたこと/確認したこと(粒度つき)/直したこと/誰が・いつ」を4行で書く
- 「未確認」と書ける項目があるか、自分に聞く
応用 ― 難易度を上げる場合
部のルールとしての位置づけは経理部門のAI利用ルールを、1枚で決めるの「出力の扱い」へ。ツール化した作業(Python)の確認は、AIが作った業務ツールを、翌月も別の人も使える状態にするの仕様表(VALIDATION)に、この4項目を組み込みます。考え方はAI時代のセキュリティとガバナンス。