セキュリティとガバナンス › 出力の検証と責任活用案

AIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残す

AIを使った作業ごとに「AIに任せたこと/確認したこと(粒度つき)/直したこと/誰が・いつ」の4行を、成果物の先頭に残す方法です。メモの型と月末の一覧はAI、確認そのものと粒度の決定は人。「十分に確認した」は記録ではなく感想です。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★☆☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。AIを使った作業が増えました。消費税区分のチェック、変動分析のコメント、問い合わせの回答下書き。どれも、最後は人が確認しています。ただ。

  • 「確認した」という記録が、どこにもない。AIの出力をそのまま使ったのか、直して使ったのか、あとから分からない。
  • 監査法人に「AIを使った作業の確認はどうしているか」と聞かれて、「見ています」としか答えられなかった。
  • 同僚が作った資料が、AIの出力そのままなのか、確認済みなのか、見分けがつかない。
  • 半年前の自分が、何を確認して何を確認しなかったかを、思い出せない。

このサイトのすべての活用例に「検証」の章があります。検証したことを、残すのが、この活用例です。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

残すのは、作業ごとに4項目だけ。

何をAIに任せたか … 「消費税区分の候補出し」「コメントの下書き」
何を確認したか … 「候補のうち例外300件を自分で判定」「数字を試算表と照合」
何を直したか … 「区分を12件修正」「断定表現を3か所削除」
誰が、いつ … 名前と日付

これを、作業の成果物(Excel・文書)の中か、横に残します。別の台帳を作ると、書かれなくなります。

ここはAIを使わない

確認そのもの。当たり前ですが、「AIの出力をAIに確認させた」は確認になりません。この活用例で扱うのは、人が確認したことを残す方法であって、確認をAIに肩代わりさせる方法ではありません。それから、「確認した」の粒度を決めること。全件見たのか、上位10件を見たのか、合計だけ見たのか。粒度は作業ごとに人が決め、記録にはその粒度を書きます。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 4項目の記録を、成果物の先頭や末尾に置く「確認メモ」の型にする
  • 各活用例の「検証」の章から、その作業で確認すべき項目を拾って、メモの下書きにする
  • 月末に、その月の確認メモを一覧にする
人が判断する
  • 確認そのもの
  • 確認の粒度
  • 記録を残す場所
  • 監査法人への説明

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 成果物を1つ

AIを使った作業の成果物(例:消費税区分チェックの結果Excel)。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。渡すのは「任せた範囲/確認した範囲/直した内容/担当・日付」のメモだけで、成果物の中身は渡しません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。AIに手伝わせた作業について、誰が何を確認したかを成果物に残す型を作りたいと考えています。読み手は私・同僚・監査法人です。 【事実/入力】 ・以下に、今回の作業の内容を貼ります(AIに任せた範囲/私が確認した範囲/直した内容/担当・日付) ・成果物はExcelです。確認メモは、その先頭シートに置きます 【依頼】 上の内容を、4項目(AIに任せたこと/確認したこと/直したこと/誰が・いつ)の確認メモにしてください。確認したことには、粒度(全件/上位○件/合計のみ)を必ず含めてください。 【出力の型】 4行。各行1〜2文。全体で10行以内。 【禁止事項】 ・私が書いていない確認を足さないでください ・「十分に確認した」「問題ない」のような評価語を使わないでください ・確認の粒度を推測して補わないでください

往復1回目 ― AIが「十分に確認」と書いた

AIの初稿

「確認したこと:出力結果を十分に確認し、問題がないことを確かめた。」

ここが問題

これは記録ではなく感想です。監査法人が読んで、何を見たか分かりません。「十分」「問題ない」は、粒度を隠す言葉。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「『十分』『問題ない』を削除し、『何を、何件、何と照合したか』だけを書いてください。」

修正版

「確認したこと:AIが『ルール表外』とした300件を全件、取引内容と請求書で判定。ルール表内の1,200件は、区分ごとの合計額を前月と比較(明細は未確認)。」

人が最後にやること

「明細は未確認」と書けるかどうか。確認していないことを書くのが、記録の価値です。書けたら、この記録は監査法人に見せられます。

往復2回目 ― 月末の一覧

月末に、その月の確認メモ(5作業分)を貼って、次のように頼みます。「一覧にしてください。列は、作業/AIに任せたこと/確認の粒度/直した件数/誰が・いつ。」

AIの初稿

一覧はできた。末尾に「全体として、確認体制は適切に運用されています」。

ここが問題

それを言うのは監査法人であって、AIではありません。評価語は一覧から消します。

追加で出した指示

「末尾の評価を削除してください。」

人が最後にやること

一覧を見て、確認の粒度が「合計のみ」に偏っている作業がないかを自分で見ます。あれば、来月は粒度を上げるか、そのままでよいかを上司と決めます。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 書く時間がない … 4行。2分。書く時間がないなら、確認する時間もなかった可能性を疑います。
  • 粒度を書くのが怖い(「合計のみ」と書きたくない) … 書きます。「合計のみ」が問題なら、粒度を上げる。書かないと、上げるべきかどうかも分かりません。
  • 同僚が書かない … 自分の分だけ書きます。監査法人に「私の分はこう残しています」と言えれば、部全体の話になります。
  • AIがまた評価語を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 確認メモに「十分」「問題ない」「適切」が残っていないか。
  2. 確認の粒度(全件/上位○件/合計のみ)が、すべての作業に書かれているか。
  3. 「未確認」と書いた項目があるか。0件なら、本当に全部確認したのか、書けていないのか。
  4. 監査法人に一覧を見せて、「何を見たか」を質問なしで理解してもらえたか。

7. 注意点

確認メモは、確認をした証拠であって、確認の代わりではありません。
粒度を書きます。「十分」は粒度ではありません。
未確認を書きます。書けることが、記録の信頼になります。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 監査法人の「確認はどうしているか」に、一覧を見せて答えられます。
  • 同僚の資料が、AIの出力そのままか、確認済みかが、先頭シートで分かります。
  • 半年前の自分が、何を確認して何を確認しなかったかが、分かります。
  • 確認の粒度が「合計のみ」に偏っている作業が見え、上げるべきところが決まります。
明日の仕事で試すこと
  • 今日AIを使った作業を1つ選ぶ
  • 「AIに任せたこと/確認したこと(粒度つき)/直したこと/誰が・いつ」を4行で書く
  • 「未確認」と書ける項目があるか、自分に聞く

応用 ― 難易度を上げる場合

部のルールとしての位置づけは経理部門のAI利用ルールを、1枚で決めるの「出力の扱い」へ。ツール化した作業(Python)の確認は、AIが作った業務ツールを、翌月も別の人も使える状態にするの仕様表(VALIDATION)に、この4項目を組み込みます。考え方はAI時代のセキュリティとガバナンス。