月次を締める前に、自分で10分だけ見直したいとき
試算表の前月比と「今月あった出来事のメモ」を突き合わせ、出来事で説明がつかない動きだけをAIに抜かせる方法です。動きの理由を作るのはAIではなく、元帳を見る人の仕事です。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。月次の仕訳は一通り入れ終わり、あとは締めるだけ。ここで、いつもこう思います。
- 「何か忘れていないか」が漠然と不安。でも、どこを見ればいいかがわからない。
- 試算表を前月と並べても、数字が多すぎて目が滑る。全部の科目を見る時間はない。
- 締めたあとに上司から「これ何?」と聞かれて、初めて気づくことがある。そのときには修正仕訳が要る。
- 今月あった出来事は、頭の中にはある。採用が3名、オフィスの移転で前払、大型案件の検収。ただ、それが試算表のどこに出ているべきかを、1つずつ確かめてはいない。
やりたいのは「上司に聞かれる前に、自分で気づく」ことです。そのための10分を、どう使うか。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 前月比で動いた科目を出す
Excelで差額列を作れば、AIは要らない。
(b) 今月あった出来事を書き出す
頭の中にあるものを、5〜10行にする。ここは人にしかできない。
(c) 動いた科目のうち、出来事で説明がつかないものだけを抜く
ここをAIにやらせる。「説明がつく」ものは、見なくてよい。
(d) 説明がつかないものを、元帳で見る
人がやる。
動きの理由を作ること。AIは「外注費が増えたのは案件が増えたため」のような、もっともらしい理由を平気で書きます。しかし、あなたが書いた出来事メモに「案件が増えた」がなければ、それはAIが作った理由です。締め前の点検で、作られた理由に安心するのがいちばん危ない。AIに任せるのは「説明がつかないものを抜く」ことだけで、理由を探すのは元帳を見る人の仕事です。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 前月比の一覧と出来事メモを突き合わせ、「出来事で説明がつく動き」と「つかない動き」に分ける
- 説明がつかない動きを、金額の大きい順に並べる
- 出来事メモにあるのに、試算表に動きが出ていない科目を指摘する(「あるはずのものがない」)
- 出来事メモの内容
- 説明がつかない動きを、元帳で確認する
- 修正するかどうか、誰に確認するか
- 締めるかどうか
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 2つのものを用意する
1つは、試算表の前月比(科目名/前月/当月/差額の4列。Excelで作ります。金額は千円単位で丸め、科目名は一般的な名前に直します)。もう1つは、今月あった出来事のメモ。たとえば次のような5〜10行です。
・オフィス移転の敷金と前払家賃を9月に支払
・A案件(大型)の検収が9月末に完了
・8月に計上した未払の外注費を9月に支払
・役員1名が9月末で退任
往復1回目 ― AIが理由を作った
①はよくできていた。ただし②に「広告宣伝費 +800:新規キャンペーンの実施によるものと考えられます」と書かれていた。
出来事メモに「キャンペーン」はありません。AIが理由を作りました。禁止事項に書いてあっても、こうなります。これを読んで「ああキャンペーンか」と納得したら、点検の意味がありません。
「②には理由を一切書かないでください。科目と差額だけにしてください。理由は私が元帳で調べます。」
②は「広告宣伝費 +800」「通信費 +150」「雑費 +90」のように、科目と金額だけになりました。
②の上から3つを元帳で見ます。この架空例では、広告宣伝費の800は前月の請求書を今月に二重で計上していたものでした。締める前に見つかりました。
往復2回目 ― 「あるはずのものがない」
③に「役員1名が退任 → 役員報酬に減少があるはず」が挙がった。試算表を見ると、役員報酬は前月と同額。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。退任は月末なので今月の報酬は満額かもしれないし、日割りかもしれない。どちらが正しいかはAIにはわかりませんが、「確認すべき場所」として挙がったことが重要です。追加の指示は不要で、この行は人が確認します。
役員報酬の扱いを人事に確認します。この架空例では、月末退任で満額支給が正しいものでした。確認して「問題なし」と言えることと、見ていないから何も言えないことは、別です。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- ②が多すぎる … 差額の小さいものまで全部出ています。「差額が○千円未満、または前月比○%未満は除く」と、自分で線を引いて指示します。線の引き方は会社の規模で違います。
- 出来事メモが薄い … ②が増えます。メモを書く時間を惜しまないでください。メモを書く5分が、この点検の質を決めます。
- AIが①に無理やり入れる … 「入社3名 → 交際費増」のように、遠い出来事に結びつけます。「対応する出来事が直接の原因と言えないものは②に入れてください」と指示します。
- 元帳を見ても理由がわからない … その科目は締める前に上司に相談します。締めてから直すより、締める前に聞くほうが安い。
- 時間が10分で足りない … ②の上位3つだけ見ます。全部は見ません。全部見ようとして結局見ないより、3つ確実に見る。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- ②の上位3つを、元帳で実際に見たか。見た結果を、1行ずつ「問題なし/修正した/確認中」で書きます。
- ③に挙がったものを、1つずつ確認したか。
- 修正した仕訳があれば、修正後の前月比でもう一度①②③を出し、②から消えたか。
- 締めた後に上司から「これ何?」と聞かれた回数が、先月より減ったか。これが、この点検の本当の検証です。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「何か忘れていないか」が、「②の上位3つを見たか」に変わります。不安が、作業になります。
- 締めたあとに聞かれて直す回数が減ります。
- 出来事メモが月ごとにたまり、それ自体が月次の記録になります。来年の同じ月に、何があったかを思い出せます。
- 締め後の変動分析コメントを書くとき、①がそのまま材料になります。
- 今月あった出来事を、5行だけ書き出す
- 試算表の前月比と一緒に貼って、②だけ出させる
- ②の一番上を、元帳で見る
応用 ― 難易度を上げる場合
締め後に上司や経営向けのコメントを書く段階は、月次決算の変動分析コメントを下書きするを参照してください。この活用例は締める前に自分で気づくための点検、あちらは締めたあとに人に説明するための文章で、役割が違います。慣れてきたら、出来事メモを月初から書き溜めておくと、締め前の5分が1分になります。