月次決算 › 変動分析・報告活用案

月次を締める前に、自分で10分だけ見直したいとき

試算表の前月比と「今月あった出来事のメモ」を突き合わせ、出来事で説明がつかない動きだけをAIに抜かせる方法です。動きの理由を作るのはAIではなく、元帳を見る人の仕事です。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。月次の仕訳は一通り入れ終わり、あとは締めるだけ。ここで、いつもこう思います。

  • 「何か忘れていないか」が漠然と不安。でも、どこを見ればいいかがわからない。
  • 試算表を前月と並べても、数字が多すぎて目が滑る。全部の科目を見る時間はない。
  • 締めたあとに上司から「これ何?」と聞かれて、初めて気づくことがある。そのときには修正仕訳が要る。
  • 今月あった出来事は、頭の中にはある。採用が3名、オフィスの移転で前払、大型案件の検収。ただ、それが試算表のどこに出ているべきかを、1つずつ確かめてはいない。

やりたいのは「上司に聞かれる前に、自分で気づく」ことです。そのための10分を、どう使うか。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 前月比で動いた科目を出す
Excelで差額列を作れば、AIは要らない。

(b) 今月あった出来事を書き出す
頭の中にあるものを、5〜10行にする。ここは人にしかできない。

(c) 動いた科目のうち、出来事で説明がつかないものだけを抜く
ここをAIにやらせる。「説明がつく」ものは、見なくてよい。

(d) 説明がつかないものを、元帳で見る
人がやる。

ここはAIを使わない

動きの理由を作ること。AIは「外注費が増えたのは案件が増えたため」のような、もっともらしい理由を平気で書きます。しかし、あなたが書いた出来事メモに「案件が増えた」がなければ、それはAIが作った理由です。締め前の点検で、作られた理由に安心するのがいちばん危ない。AIに任せるのは「説明がつかないものを抜く」ことだけで、理由を探すのは元帳を見る人の仕事です。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 前月比の一覧と出来事メモを突き合わせ、「出来事で説明がつく動き」と「つかない動き」に分ける
  • 説明がつかない動きを、金額の大きい順に並べる
  • 出来事メモにあるのに、試算表に動きが出ていない科目を指摘する(「あるはずのものがない」)
人が判断する
  • 出来事メモの内容
  • 説明がつかない動きを、元帳で確認する
  • 修正するかどうか、誰に確認するか
  • 締めるかどうか

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 2つのものを用意する

1つは、試算表の前月比(科目名/前月/当月/差額の4列。Excelで作ります。金額は千円単位で丸め、科目名は一般的な名前に直します)。もう1つは、今月あった出来事のメモ。たとえば次のような5〜10行です。

・9月1日付で3名入社(営業2、開発1)
・オフィス移転の敷金と前払家賃を9月に支払
・A案件(大型)の検収が9月末に完了
・8月に計上した未払の外注費を9月に支払
・役員1名が9月末で退任
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。月次を締める前に、自分で見落としがないかを10分で点検したいと考えています。読み手は私自身です。 【事実/入力】 ・以下に、試算表の前月比(科目/前月/当月/差額、千円単位)を貼ります ・以下に、今月あった出来事のメモを貼ります ・出来事メモに書いていないことは、起きていないものとして扱ってください 【依頼】 前月比の動きを、出来事メモで「説明がつく動き」と「説明がつかない動き」に分けてください。あわせて、出来事メモにあるのに試算表に動きが見えない科目を挙げてください。 【出力の型】 ①説明がつく動き:科目/差額/対応する出来事 ②説明がつかない動き:科目/差額(金額の大きい順) ③出来事にあるのに動きがない:出来事/動きがあるはずの科目 【禁止事項】 ・②について、理由を推測して書かないでください ・出来事メモにない出来事を補わないでください ・「問題ありません」「妥当です」という評価は書かないでください

往復1回目 ― AIが理由を作った

AIの初稿

①はよくできていた。ただし②に「広告宣伝費 +800:新規キャンペーンの実施によるものと考えられます」と書かれていた。

ここが問題

出来事メモに「キャンペーン」はありません。AIが理由を作りました。禁止事項に書いてあっても、こうなります。これを読んで「ああキャンペーンか」と納得したら、点検の意味がありません。

追加で出した指示

「②には理由を一切書かないでください。科目と差額だけにしてください。理由は私が元帳で調べます。」

修正版

②は「広告宣伝費 +800」「通信費 +150」「雑費 +90」のように、科目と金額だけになりました。

人が最後にやること

②の上から3つを元帳で見ます。この架空例では、広告宣伝費の800は前月の請求書を今月に二重で計上していたものでした。締める前に見つかりました。

往復2回目 ― 「あるはずのものがない」

AIの初稿

③に「役員1名が退任 → 役員報酬に減少があるはず」が挙がった。試算表を見ると、役員報酬は前月と同額。

ここが問題

問題ではなく、これがこの往復の価値です。退任は月末なので今月の報酬は満額かもしれないし、日割りかもしれない。どちらが正しいかはAIにはわかりませんが、「確認すべき場所」として挙がったことが重要です。追加の指示は不要で、この行は人が確認します。

人が最後にやること

役員報酬の扱いを人事に確認します。この架空例では、月末退任で満額支給が正しいものでした。確認して「問題なし」と言えることと、見ていないから何も言えないことは、別です。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • ②が多すぎる … 差額の小さいものまで全部出ています。「差額が○千円未満、または前月比○%未満は除く」と、自分で線を引いて指示します。線の引き方は会社の規模で違います。
  • 出来事メモが薄い … ②が増えます。メモを書く時間を惜しまないでください。メモを書く5分が、この点検の質を決めます。
  • AIが①に無理やり入れる … 「入社3名 → 交際費増」のように、遠い出来事に結びつけます。「対応する出来事が直接の原因と言えないものは②に入れてください」と指示します。
  • 元帳を見ても理由がわからない … その科目は締める前に上司に相談します。締めてから直すより、締める前に聞くほうが安い。
  • 時間が10分で足りない … ②の上位3つだけ見ます。全部は見ません。全部見ようとして結局見ないより、3つ確実に見る。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. ②の上位3つを、元帳で実際に見たか。見た結果を、1行ずつ「問題なし/修正した/確認中」で書きます。
  2. ③に挙がったものを、1つずつ確認したか。
  3. 修正した仕訳があれば、修正後の前月比でもう一度①②③を出し、②から消えたか。
  4. 締めた後に上司から「これ何?」と聞かれた回数が、先月より減ったか。これが、この点検の本当の検証です。

7. 注意点

試算表には会社の数字がそのまま入っています。千円単位に丸め、科目名を一般的な名前にしてからAIに貼ります。どこまで渡してよいかは社内ルールで確認してください。
AIの①(説明がつく)も、鵜呑みにしません。「入社3名 → 給与増」は自然ですが、金額が3名分として妥当かまでは、AIは見ていません。
この点検は、締めの承認を代替しません。自分で気づくための10分であって、上司のレビューの代わりではありません。
この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 「何か忘れていないか」が、「②の上位3つを見たか」に変わります。不安が、作業になります。
  • 締めたあとに聞かれて直す回数が減ります。
  • 出来事メモが月ごとにたまり、それ自体が月次の記録になります。来年の同じ月に、何があったかを思い出せます。
  • 締め後の変動分析コメントを書くとき、①がそのまま材料になります。
明日の仕事で試すこと
  • 今月あった出来事を、5行だけ書き出す
  • 試算表の前月比と一緒に貼って、②だけ出させる
  • ②の一番上を、元帳で見る

応用 ― 難易度を上げる場合

締め後に上司や経営向けのコメントを書く段階は、月次決算の変動分析コメントを下書きするを参照してください。この活用例は締める前に自分で気づくための点検、あちらは締めたあとに人に説明するための文章で、役割が違います。慣れてきたら、出来事メモを月初から書き溜めておくと、締め前の5分が1分になります。