決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出す
去年の決算手順と「今年社内で変わったこと」を突き合わせ、影響する手順と新しく必要になる作業を決算前に洗い出す方法です。対応づけはAIに任せ、制度改正の確認は制度改正カレンダーと監査法人で行い、実際にどう変えるかは人が判断します。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。年次決算が来月から始まります。去年の決算資料は一式そろっています。担当者は去年も決算をやりました。だから、基本は「去年と同じ」でいけます。
ただ、去年と今年で、いくつか違うことが起きています。
- 新しい事業を始めた。サブスクリプション型のサービスが、今年から売上に立っている。
- 組織が変わった。部が2つ統合され、部門コードが変わった。
- 会計システムのバージョンが上がった。帳票の形式が一部変わった。
- 子会社を1社設立した。
- 制度改正がいくつかあった気がする。どれが自社に関係あるかは、調べていない。
去年と同じ手順で進めると、「去年はなかったもの」が、手順のどこにも出てきません。決算の途中で「あ、これどうするんだっけ」となります。それを、始まる前に洗い出したい。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
「変わったところ」には2つの種類があります。
(a) 社内で変わったこと … 新事業、組織、システム、子会社。これは自分が知っている。書き出せば出てくる。
(b) 社外で変わったこと … 制度改正。これは自分では網羅できない。サイトの制度改正カレンダーと、監査法人からの案内で確認する。
そして、変わったことが去年の手順のどこに効くかを対応づけます。ここをAIに手伝わせます。
制度改正の内容をAIに聞くこと。AIは、存在しない改正や、時期の違う改正を、もっともらしく答えます。制度改正は、このサイトの制度改正カレンダーと、監査法人・税理士からの案内、官公庁の原文で確認します。AIに任せるのは、社内で変わったことが、去年の手順のどこに効くかを対応づけることまで。AIが「制度改正」と書いてきたら、その行は読まずに消してください。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 去年の決算手順(チェックリスト・スケジュール)と、今年の社内の変化を突き合わせ、影響する手順を挙げる
- 去年の手順にない「今年新しく必要になりそうな作業」の候補を挙げる
- 変化ごとに「誰に確認するか」の候補を挙げる
- 社内で変わったことの書き出し
- 制度改正の確認(カレンダー・監査法人)
- 影響する手順を、実際にどう変えるか
- 監査法人に事前に相談する項目
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 2つのものを用意する
1つは、去年の決算手順。チェックリストやスケジュールの見出しを、1行ずつ貼ります(30〜50行)。数字は要りません。もう1つは、今年変わったことのメモ。
・サブスク型サービスを4月から開始。月額課金、前受あり
・7月に営業1部と2部が統合。部門コード変更
・会計システムを9月にバージョンアップ。帳票の形式が一部変更
・8月に子会社を1社設立(連結対象かは未確認)
往復1回目 ― AIが制度改正を書いた
①の中に「サブスク型サービス → 収益認識の注記:新しい会計基準への対応が必要」という行があり、さらに欄外に「なお、○○年度の改正により…」という一文があった。
禁止事項に書いていても、AIは制度改正を書きます。その内容が正しいかどうかは、この場では誰にもわかりません。正しく見える分、危ない。
「制度改正・基準の改正に触れた行と文をすべて削除してください。『新しい会計基準』『改正』という言葉を使わないでください。サブスク型サービスの影響は、去年の手順のどの見出しに効くか、だけを書いてください。」
「サブスク型サービス → 『売上の期間帰属チェック』『前受金の残高確認』『注記ドラフト(収益の内訳)』に影響。月額課金の前受と期間按分が新たに発生。確認する相手:営業企画・監査法人」になった。
サブスク型サービスの会計処理と注記への影響について、監査法人に決算前に相談する項目として書き出します。制度改正の有無は、このサイトの制度改正カレンダーで確認し、該当があれば同じく相談項目に足します。
往復2回目 ― 「新しく必要になりそうな作業」の精度
②に「子会社の連結パッケージの作成」「子会社との債権債務照合」「連結精算表の作成」が並んだ。
メモには「連結対象かは未確認」と書きました。AIは連結対象である前提で作業を並べています。未確認の前提で作業を増やすと、要らない準備をします。逆に、連結対象なのに準備しないのはもっと困る。だから、先に確認します。
「子会社に関する作業は、『まず連結対象かを確認する』の1行にまとめ、その結果によって分かれる作業を『対象の場合』『対象外の場合』に分けてください。」
「子会社:まず連結対象かを確認(確認する相手:上司・監査法人)。対象の場合 → パッケージ・照合・精算表。対象外の場合 → 関係会社の残高確認と注記の記載のみ」になった。
「まず確認する」の行を、決算前にやる項目の先頭に置きます。確認しないと分岐できない項目が、去年の手順にはなかったものです。
往復3回目 ― 決算前チェックリストにする
最後に、次のように頼みます。「①②をもとに、『決算が始まる前にやること』だけを抜き出して、チェックリストにしてください。決算中にやることは含めないでください。各項目に『確認する相手』を添えてください。」
□ 子会社が連結対象かを確認(上司・監査法人)
□ サブスク売上の期間按分の処理方針を監査法人に事前相談(監査法人)
□ 部門統合後の部門コードで、去年の前期比較表が出せるか確認(情シス)
□ システム更新後の帳票が、去年の資料と同じ形式で出るか確認(情シス)
□ 制度改正カレンダーで、今期に適用が始まるものを確認(自分)
このリストを上司に見せます。「決算前に、去年と違うところをこれだけ洗い出しました」と言えるかどうかが、この活用例の成果です。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- AIがまた制度改正を書く … 毎回削除させます。一度でも読んで納得しない。
- 社内の変化を思い出せない … 去年の決算後から今までの、部内の議事録・メール・稟議の件名だけを眺めます。件名で思い出します。
- 去年の手順が見出しになっていない … スケジュール表の行や、チェックリストの項目をそのまま貼ります。文章のままでも、AIは対応づけられます。
- 影響が多すぎる … 「確認する相手」が同じものをまとめます。監査法人に聞くことを1枚、情シスに聞くことを1枚。
- 上司が「去年と同じでいい」と言う … リストを見せます。「同じでいい」かどうかを判断するのは上司ですが、材料を出すのは自分です。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- ①②③に「改正」「新基準」という言葉が残っていないか。
- 社内の変化4つが、すべて①に現れているか。現れていない変化があれば、去年の手順に該当箇所がないということ。それ自体が②に入ります。
- 決算前チェックリストの各項目に、確認する相手が書かれているか。
- 決算が終わったあと、「始まる前に気づけたはずのこと」が何件あったか。0件なら、この洗い出しは十分でした。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 決算の途中で「これどうするんだっけ」が減ります。
- 監査法人への事前相談が、決算前に1枚のリストで済みます。
- 去年の手順に「今年足した項目」が残り、来年の手順になります。
- 「去年と同じ」を、変わったところを確かめたうえで言えます。
- 去年の決算後から今までに、社内で変わったことを4つ書く
- 去年のチェックリストの見出しと一緒に貼り、①だけ出させる
- 「改正」という言葉が出てきたら消す。それから制度改正カレンダーを開く
応用 ― 難易度を上げる場合
注記そのものの前年比較は、注記の前年比較と、改正対応が必要な箇所を洗い出すを参照してください。この活用例は決算前に「変わったところ」を洗い出す作業、あちらは注記の文面を前年と突き合わせる作業で、役割が違います。制度改正の確認は、このサイトの制度改正カレンダーから、影響する活用例に逆引きできます。