株主総会の想定問答のうち数字の質問を、計算書類のどこで答えるかに紐づける
過去の株主総会で出た質問と今年の想定質問のうち「数字に関するもの」を、計算書類・事業報告・注記のどの箇所で答えられるかに紐づけ、資料に該当箇所がない質問を先に出す方法です。紐づけはAI、回答の中身は法務・IR・経営、開示してよい範囲は法務と。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。株主総会の想定問答を、総務・法務・IRが作ります。経理には「数字に関する質問の答えの根拠を用意して」と回ってきます。
- 去年の想定問答が50問ある。そのうち数字に関するものがいくつあるか、数えたことがない。
- 「売上が伸びた理由は」「配当の考え方は」「役員報酬の総額は」。答えの根拠が計算書類のどこにあるか、質問ごとに探している。
- 去年、想定していなかった数字の質問が出て、その場で計算書類をめくった。該当箇所がなく、「後日お答えします」になった。
- 回答の文案は法務とIRが書く。経理の仕事は「その数字は資料のどこにあるか」「資料にない数字は何か」を先に出すこと。
回答の中身と、開示してよい範囲は、法務・IR・経営の話。この記事でやるのは、数字の質問を資料の該当箇所に紐づけ、該当箇所がない質問を先に出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 過去の質問と今年の想定質問から、「数字に関する質問」を抜く … AI。
(b) 各質問を、計算書類・事業報告・注記の該当箇所(項目名)に紐づける … AI(候補として)。
(c) 該当箇所がない質問を出す … 資料にない数字は、答えるかどうかを法務・経営が決める。
(d) 該当箇所がある質問について、数字の根拠資料(元データ)を経理が揃える … 人。
回答の文案を書くこと、開示してよいかを決めること。AIに「この質問への回答を作って」と頼むと、もっともらしい文章が出ますが、それは株主総会で会社が答えるべき内容でも、答えてよい範囲でもありません。回答は法務・IR・経営が作り、説明の範囲は法令の原文と法務で決めます。AIに任せるのは、質問を資料の該当箇所に紐づけるところまで。紐づけも候補で、該当箇所が本当に答えになっているかは人が読んで確かめます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 質問一覧から「数字に関する質問」を抜き出す
- 各質問を、資料の項目名(計算書類のどの表・事業報告のどの章・注記のどの項目)に紐づける候補を出す
- 該当箇所のない質問を別に列挙する
- 質問ごとに「根拠資料(元データ)」の欄を持つ表の型にする
- 紐づけが本当に答えになっているか(資料を読んで)
- 該当箇所のない質問に答えるかどうか(法務・経営)
- 根拠資料の準備
- 回答の文案(法務・IR・経営)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 質問一覧と、資料の目次
過去2年の質問(議事録から)と今年の想定質問の一覧。計算書類・事業報告・注記の「目次と項目名」(数字そのものは要りません)。社名・人名は記号に。
往復1回目 ― AIが回答案を書いた
②の各行に「回答案:当期の売上高は前期比○%増となりました。主な要因は…」と文案が付いていた。
文案は頼んでいません。数字も貼っていないので「○%」は空欄のはずが、もっともらしい文が入っています。これが総務に渡ると、法務・IRが書くべき回答の下敷きになってしまいます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「回答案をすべて削除してください。②は候補の項目名だけにしてください。」
数字に関する質問は50問中22問。うち18問に候補の項目名、4問が「該当箇所なし」。
18問の候補を、資料を読んで確かめます。「項目名は合っているが、質問の粒度が資料より細かい」ものが3問ありました(部門別の売上を聞かれているが、資料はセグメント別)。これも「該当箇所なし」に近い扱いで、法務・経営に上げます。
往復2回目 ― 「該当箇所なし」の質問
「該当箇所なし」4問のうち「役員1人あたりの報酬額は」について、「注記の役員報酬総額を人数で割れば算出可能です」と付いていた。
計算の方法は事実ですが、「算出して答えるかどうか」は開示の判断で、法務・経営が決めることです。AIの「算出可能」が残ると、総務が計算して回答に載せかねません。
「算出方法や答え方の記述を削除し、『該当箇所なし』のままにしてください。」
4問とも「該当箇所なし」だけになった。
「該当箇所なし」4問+粒度が合わない3問の計7問を、法務・経営に「資料にない数字を聞かれる可能性がある質問」として渡します。答えるか、答えるならどの範囲かは、そちらで決めます。経理は、決まった範囲の数字の根拠を揃えます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 過去の質問の記録がない … 今年の想定質問だけで①②をやり、今年の総会の質問を記録するところから始めます。
- 資料の目次が確定していない … 去年の資料の目次を使い、確定後にもう一度紐づけます。項目名が変わったところだけ見直せば済みます。
- 総務から「回答案も作って」と言われる … 数字の根拠資料は経理、文案は法務・IR、と役割を分けて伝えます。経理が文案を書くと、開示の判断を経理がしたことになります。
- AIがまた回答案を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 表に、回答案や開示の可否に関するAIの記述が残っていないか。
- 候補の項目名を、資料を読んで1問ずつ確かめたか。粒度が合わないものを見つけたか。
- 「該当箇所なし」の質問を、法務・経営に渡したか。
- 総会当日、数字の質問で「後日お答えします」が0件か。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 数字の質問22問の根拠が、資料の項目名つきの一覧になります。
- 資料にない数字を聞かれる可能性が、総会の前に法務・経営に届きます。
- 総会当日に計算書類をめくることが減ります。
- 質問と該当箇所の一覧が、来年の想定問答の土台になります。
- 去年の想定問答から、数字に関する質問を5つ選ぶ
- それぞれ「計算書類・事業報告・注記のどこに答えがあるか」を自分で探す
- 見つからない質問が、今年「該当箇所なし」になる候補
応用 ― 難易度を上げる場合
文書間の数字の整合は事業報告・計算書類・有価証券報告書の同じ数字を、突き合わせ表で揃える、日程は計算書類の作成日程を、取締役会・監査役・監査法人の日付から逆算した表にするへ。監査法人からの質問に答える型は監査法人からの質問への回答ドラフトを作るですが、株主総会の回答は法務・IR・経営が作る点が違います。