事業報告・計算書類・有価証券報告書の同じ数字を、突き合わせ表で揃える
事業報告・計算書類・有価証券報告書(や決算短信)に出てくる同じ数字(売上高・従業員数・設備投資額・主要な取引先など)を、文書ごとに抜き出して並べ、一致しない箇所と単位・時点の違いをAIに出させる方法です。抜き出しと突合はAI、どちらが正しいかは担当部署と法務・監査法人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。株主総会に向けた事業報告・計算書類と、有価証券報告書の下書きを、経理・総務・法務で分担して作っています。同じ数字が、複数の文書に出てきます。
- 従業員数が、事業報告では「312名」、有価証券報告書では「318名」になっていた。時点が違う(期末と提出日)のか、集計の範囲が違う(臨時を含むか)のか、間違いか。
- 設備投資額が、事業報告は百万円単位、有価証券報告書は千円単位。四捨五入の違いで、足すと合わない。
- 主要な取引先の名前が、文書によって順番も表記も違う。
- 監査法人と法務のレビューで、毎年「文書間の不整合」を指摘される。自分たちで先に見つけたい。
記載事項の要否は法令と法務の話。この記事でやるのは、複数の文書に出てくる同じ数字を並べて、一致しない箇所を先に出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 文書をまたいで出てくる項目を決める … 売上高、営業利益、当期純利益、総資産、純資産、従業員数、設備投資額、研究開発費、主要な取引先、主要な事業所、役員の氏名。
(b) 各文書から、その項目の数字・文言・単位・時点を抜き出す … AI。
(c) 並べて、一致しない箇所を出す … 単位の違い、時点の違い、集計範囲の違い、単純な不一致。AI。
(d) 不一致の原因と、どちらに揃えるかを担当部署と決める … 人。法務・監査法人と。
どちらの数字が正しいか、どちらに揃えるか。AIは「有価証券報告書の数字が正しいと思われます」と書きますが、時点や集計範囲の定義が文書ごとに違うことがあり、それは各文書の記載ルールと担当部署にしか分かりません。揃え方は担当部署(人事・総務・経理)と法務・監査法人で決めます。AIに任せるのは、抜き出して並べ、違いの種類を分けるところまで。それから、記載事項が足りているかの判断も範囲外(去年との比較と同じ)。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 各文書から、決めた項目の数字・文言・単位・時点を抜き出して表にする
- 一致しない箇所を「単位の違い」「時点の違い」「文言の違い」「数字の不一致」に分ける
- 単位を揃えたときに一致するかを示す(四捨五入の範囲内か)
- 担当部署への確認文の下書き
- 突き合わせる項目の選定
- 不一致の原因(担当部署に確認)
- どちらに揃えるか(法務・監査法人と)
- 記載事項の要否(法令の原文・法務・監査法人)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 各文書の該当箇所
事業報告・計算書類・有価証券報告書の下書きから、突き合わせる項目が出てくる箇所(全文でなくてよい)。社名・役員名・取引先名は記号に。公表前の情報なので、貼る範囲は社内ルールで確認します。
往復1回目 ― AIが「正しい方」を決めた
②の従業員数の行に「事業報告 312名/有価証券報告書 318名/数字の不一致。有価証券報告書の数値が正しいと考えられます(提出日時点の最新値のため)」とあった。
時点が違えば、どちらも「正しい」可能性があります。事業報告は期末、有価証券報告書は提出日、と記載ルールが違うなら、両方そのままでよい。AIの「正しい方」が残ると、担当が一方を書き換えてしまいます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『正しい』『揃えるべき』の記述を削除し、②は不一致の種類と内容だけにしてください。従業員数は『時点の違いの可能性』と分類してください。」
従業員数は「時点の違いの可能性(事業報告:記載なし/有価証券報告書:提出日時点)」。設備投資額は「単位の違い(百万円 vs 千円。揃えると四捨五入の範囲で一致)」。主要な取引先は「表記の違い(記号Aの表記が2通り)」。
従業員数は人事に「各文書の時点と集計範囲」を確認します。この架空例では、事業報告が期末、有価証券報告書が提出日、と記載ルールどおりで、両方正しかった。ただし事業報告に「期末時点」の断りがなかったので、法務と相談して添えました。
往復2回目 ― 「数字の不一致」が1つ残った
②で「研究開発費:事業報告 420百万円/有価証券報告書 386百万円/数字の不一致(単位・時点の違いでは説明できない)」が残った。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。単位も時点も同じなのに数字が違う。追加の指示は出しません。
経理で元データを見ます。この架空例では、事業報告が去年の数字のまま直し忘れでした(去年のコピーの直し忘れの典型)。3文書を並べたから、1文書だけの見直しでは気づけなかった直し忘れが見つかりました。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 文書の下書きの進み方がばらばら … 揃った項目から突き合わせます。未記載は「(未記載)」として、記載されたらもう一度。
- 項目の定義が文書ごとに違う(従業員数に臨時を含むか等) … 定義を各文書の記載ルールで確認し、表の「時点・範囲」欄に書きます。定義が違えば数字が違って当然。
- 決算短信も加えたい … 同じ表に列を足します(決算短信の数字を、計算書類・連結精算表の数字と突き合わせる表にする)。
- AIがまた「正しい方」を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- ②に「正しい」「揃えるべき」の記述が残っていないか。
- 不一致の全件について、原因(単位・時点・範囲・直し忘れ)を担当部署と確かめたか。
- 時点・範囲が違う項目について、各文書に断りが必要かを法務と確認したか。
- 法務・監査法人のレビューで、「文書間の不整合」の指摘が0件か。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 文書間の不整合が、レビューで指摘される前に自分たちで見つかります。
- 「時点が違う」「範囲が違う」を、表の欄で説明できます。
- 去年のコピーの直し忘れが、3文書を並べることで浮かびます。
- 突き合わせる項目の一覧が、来年の型になります。
- 事業報告と有価証券報告書の下書きから、従業員数の箇所だけを探す
- 2つの数字と、それぞれの時点・範囲を書き出す
- 違っていたら、人事に「時点と範囲」を聞く。同じなら、次は設備投資額で
応用 ― 難易度を上げる場合
1文書の去年との比較は去年の事業報告・計算書類と今年の下書きを比べて、変わった箇所だけ洗い出す、日程は計算書類の作成日程を、取締役会・監査役・監査法人の日付から逆算した表にするへ。株主総会で数字を聞かれたときの備えは株主総会の想定問答のうち数字の質問を、計算書類のどこで答えるかに紐づける。