去年の事業報告・計算書類と今年の下書きを比べて、変わった箇所だけ洗い出す
去年の確定版と今年の下書きを章ごとに並べ、「変わった箇所」「出来事メモにあるのに反映されていない箇所」「文章と数字が合っていない箇所」をAIに出させる方法です。記載事項の要件は扱わず、文章の書き直しもAIにさせません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。株主総会の前、事業報告と計算書類(と注記)の下書きを作ります。去年のファイルをコピーして、数字と日付を今年のものに変える、というのが実際の作り方です。
- 去年のファイルを直しているので、「去年のまま残っている箇所」があるはず。役員の氏名、拠点の数、従業員数、主な取引先。
- 数字は直したが、文章が数字と合っていない箇所がある。「売上は前年比で増加した」が、今年は減っている。
- 去年と今年で、書くべき項目が増えた・減ったかどうかは、法務と監査法人が見る。ただ、その前に「自分たちの下書きの中で、去年と違うところ」を自分で把握しておきたい。
- ページ数が多い。事業報告だけで20ページ。目で比べるのは無理。
やることは、去年の確定版と今年の下書きを並べて、違う箇所と、違うべきなのに同じ箇所を出すこと。記載事項の要件は扱いません。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 去年の確定版と今年の下書きを、章ごとに並べる。
(b) 「変わった箇所」を出す … 数字・文章・項目の追加削除。AIにやらせる。
(c) 「変わっていないが、変わっているべき箇所」を出す … 今年あった出来事のメモ(決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出すで作ったもの)と突き合わせる。ここがいちばん効く。
(d) 数字と文章の整合 … 「増加した」と書いてあるのに数字が減っている、など。
記載すべき項目が足りているかの判断。それは法令の要件の話で、法務と監査法人の仕事です。AIに「記載事項に漏れはないか」と聞くと、もっともらしい項目を並べますが、根拠は確かめられません。AIに任せるのは、去年と今年の差分と、出来事メモとの突き合わせまで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 去年の確定版と今年の下書きの差分を、章ごとに一覧にする
- 出来事メモ(新事業、組織変更、役員異動、拠点の増減)と突き合わせ、「メモにあるのに下書きに反映されていない箇所」を出す
- 文章と数字の整合(「増加」「減少」「新設」「廃止」の語と、対応する数字)をチェックする
- 出来事メモの内容
- 反映されていない箇所を、どう書くか
- 記載事項の要件(法務・監査法人と)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 去年・今年・出来事メモ
去年の確定版と今年の下書き(社名・役員名は記号に。数字は下書きのままでよいですが、社内ルールで確認)。今年の出来事メモ(決算前の洗い出しで作ったもの)。
往復1回目 ― AIが文章を書き直した
③で不整合を指摘したあと、「修正案:『売上高は前年比3.2%減少した』」と書き直し案が付いていた。
書き直しは頼んでいません。開示文書の文章を、AIの案でそのまま差し替えると、法務・監査法人のレビュー前に、誰も見ていない文章が入ります。指摘まで。
「修正案は削除してください。指摘だけにしてください。」
指摘だけになった。③は4箇所。②は3箇所(子会社設立が「企業集団の状況」に未反映、拠点の統合が「主要な事業所」に未反映、役員の退任が一部反映)。
②③の7箇所を、担当者が直します。特に②は、去年のコピーでは絶対に出てこない箇所です。出来事メモがあったから見つかりました。
往復2回目 ― 「去年のまま」が残っていた
①で「従業員数:去年 312名 → 今年 312名(変更なし)」と一覧にあった。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。「変更なし」が並んでいる項目のうち、本当に変わっていないものと、直し忘れが混ざっています。人員は増えているはず(出来事メモで採用があった)。
「①のうち『変更なし』の項目だけを別に列挙してください。私が1つずつ確認します。」
「変更なし」の一覧を1つずつ見ます。従業員数は直し忘れでした。「変わった箇所」より「変わっていない箇所」のほうが、直し忘れが潜みます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- ページが多くて貼りきれない … 章ごとに分けて貼ります。1回に1章。
- 出来事メモがない … 決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出すを先に。メモがないと②が出ません。
- AIがまた書き直す … 削除。指摘だけ。
- 数字が下書き段階で未確定 … ③は数字が確定してからもう一度。①②は先にできます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- ②の各箇所が、下書きに反映されたか。
- ①の「変更なし」を、1つずつ確認したか。
- ③が、数字確定後にもう一度チェックされたか。
- 法務・監査法人のレビューで、「去年のまま」の指摘が0件か。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「去年のコピー」の直し忘れが、法務・監査法人のレビュー前に自分で見つかります。
- 出来事メモが、決算前から開示まで、同じメモで使い回せます。
- 「変わっていない箇所」を確認する習慣がつきます。
- レビューでの指摘が減り、法務・監査法人との往復が短くなります。
- 去年の事業報告の1章だけと、今年の下書きの同じ章を貼る
- 「変更なし」の項目を列挙させ、1つずつ本当に変わっていないか見る
- 直し忘れが1つでもあれば、他の章もやる価値がある
応用 ― 難易度を上げる場合
注記の文面そのものの前年比較は、注記の前年比較と、改正対応が必要な箇所を洗い出す(Claude Code)へ。決算前の出来事の洗い出しは決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出す。この活用例は、その2つの間にある「下書きの直し忘れ」を埋めます。