決算短信の数字を、計算書類・連結精算表の数字と突き合わせる表にする
決算短信のサマリーと添付資料に載る数字を、元になる連結精算表・計算書類・注記の下書きと1つずつ突き合わせ、一致しない箇所と「元の資料がまだない数字」をAIに出させる方法です。突合はAI、数字の確定と開示の判断は経理責任者・開示担当・監査法人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社(上場している設定)。決算短信は、経理が数字を作り、開示担当が様式に流し込み、開示日の前に経理責任者が確認します。開示日は決まっていて、動きません。
- サマリーの数字と添付資料の数字が、違っていたことがある。添付資料を直したあと、サマリーに反映し忘れた。開示の直前に開示担当が気づいた。
- 「前年同期比」の計算が、去年の短信の数字ではなく、去年の計算書類の数字から計算されていた。組替があった年は合わない。
- 連結精算表の最終版と、短信の下書きの元になった版が違う。どの版から数字を持ってきたか、下書きに書いていない。
- 開示日の前日に「この数字の元はどれ」を追いかけている。時間がない中で、いちばん危ない作業をしている。
様式と記載要件は、作成要領と開示担当・監査法人の話。この記事でやるのは、短信の数字1つ1つに「元の資料と版」を紐づけ、一致しない箇所と元のない数字を先に出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 短信に載る数字を、1つ1行で書き出す … サマリーの各項目、添付資料の各表の主要な数字、前年同期比。AI。
(b) 各数字に「元の資料」「版(日付・ファイル名)」を人が書く … 連結精算表の最終版、計算書類の下書き、去年の短信。
(c) 元の資料の数字と、短信の数字を突き合わせる … 一致/不一致/元の資料なし。AI。
(d) サマリーと添付資料の間で、同じ数字が一致しているかを突き合わせる … AI。
(e) 不一致と「元なし」を、経理責任者と開示担当で解消する … 人。
どの数字が正しいかを決めること、様式や記載要件を判断すること。AIに「サマリーと添付が違う。どちらが正しいか」と聞くと答えますが、どの版が最終かを知っているのは経理責任者だけです。数字の確定は経理責任者、様式・要件は作成要領の原文と開示担当・監査法人。AIに任せるのは、数字を書き出して、元の資料と突き合わせ、不一致を出すまで。それから、開示してよい範囲や、注記の文言もAIに作らせません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 短信の下書きから、数字を1つ1行で書き出す(項目/数字/単位/載っている箇所)
- 人が書いた「元の資料と版」の数字と突き合わせ、一致/不一致/元なし を出す
- サマリーと添付資料の間の同じ項目の一致を確かめる
- 前年同期比の計算を、去年の短信の数字で再計算して一致を確かめる
- 各数字の元の資料と版(最終版はどれか)
- 不一致の原因と、どちらに直すか(経理責任者)
- 様式・記載要件(作成要領の原文・開示担当・監査法人)
- 開示の可否と注記の文言
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 短信の下書きと元の資料
短信の下書き(サマリー・添付資料)、連結精算表の最終版の主要数字、計算書類の下書きの主要数字、去年の短信の数字。公表前の決算情報なので、貼る範囲と方法は社内ルールで必ず確認します。金額は千円単位、社名は記号に。
往復1回目 ― AIが「正しい方」を決めた
①で「営業利益:短信 1,842,000/連結精算表(9/10版)1,857,000/不一致。連結精算表の数値が正しいため短信を修正」と書かれていた。
連結精算表の9/10版が最終版かどうか、AIは知りません。9/12に修正した版があれば、短信の方が新しいかもしれない。どちらが正しいかは、版を管理している経理責任者が決めます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『正しい』『修正』の記述を削除し、①は一致・不一致・元なしの事実だけにしてください。」
不一致3件、元なし2件(添付資料の「設備投資額」「減価償却費」に元の資料の記載がなかった)。②はサマリーと添付で1件不一致(当期純利益)。③は一致。
経理責任者に不一致3件と②の1件を見せ、最終版がどれかを確認して直します。この架空例では、連結精算表に9/12版があり、短信は9/10版から作られていました。短信を9/12版に合わせ、②の当期純利益の不一致も同じ原因でした。
往復2回目 ― 「元なし」の数字
「元なし」の2件について、「設備投資額はキャッシュ・フロー計算書の投資活動の支出から、減価償却費は損益計算書の販管費内訳から取得できます」と付いていた。
取り方の候補としては参考になります。ただし短信に載せる「設備投資額」の定義(有形だけか、無形を含むか、発生ベースか支払ベースか)は、作成要領と去年の短信の作り方で決まっていて、AIの候補がそれに合っているかは分かりません。「取得できます」で埋めると、去年と定義が変わります。
「取得方法の記述を削除し、『元なし』のままにしてください。」
「元なし」2件だけになった。
去年の短信の作成資料を開き、去年その2つの数字をどこから取ったかを確認します。同じ取り方で今年の数字を出し、「元の資料」の欄に書きます。来年から「元なし」にならないよう、短信の作成資料に「各数字の元」の列を持ちます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 元の資料の版が管理されていない … 今期から、連結精算表・計算書類の下書きにファイル名で版の日付を入れます。「最終」「最終2」を作らない(決算資料の地図と同じ)。
- 組替があって前年同期比が合わない … 去年の短信の数字と、組替後の去年の数字を両方書き、どちらで比率を出すかを開示担当・監査法人と確認します。経理が決めない。
- 開示日の前日に不一致が見つかった … 経理責任者と開示担当にすぐ伝えます。直す時間がないなら、開示を延ばすかどうかの判断も含めて責任者が決めます。
- AIがまた「正しい方」を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 短信の数字すべてに「元の資料と版」が書かれ、一致が確かめられているか。「元なし」が0か。
- サマリーと添付資料の同じ項目が、すべて一致しているか。
- 不一致の解消を、経理責任者が最終版を確認したうえで行ったか(AIの判断で直していないか)。
- 開示後に訂正が出なかったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 開示前日の「この数字の元はどれ」が、一覧の「元の資料と版」で即答できます。
- サマリーと添付の不一致が、開示担当が気づく前に経理で見つかります。
- 版の違いによる不一致が、原因つきで解消されます。
- 短信の作成資料に「各数字の元」の列が育ち、四半期ごとの作業が同じ型で回ります。
- 直近の短信のサマリーから、数字を5つ選ぶ
- それぞれ「元の資料と版」を書いてみる。書けない数字に印をつける
- 印のついた数字が、次の短信で「元なし」になる候補
応用 ― 難易度を上げる場合
事業報告・計算書類・有価証券報告書との数字の整合は事業報告・計算書類・有価証券報告書の同じ数字を、突き合わせ表で揃えると同じ型で、短信を列に足せば1枚になります。決算資料の版の管理は初めて見る決算資料の束が、どうつながっているかわからないときへ。