自社が適用している会計基準の一覧を作り、改正を追う担当と確認先を決める
注記の「重要な会計方針」と監査法人への提出資料から、自社が適用している会計基準・適用指針の一覧(名称・番号・関係する科目・確認先)を作り、改正情報を追う担当を決める方法です。一覧の整理はAI、改正の有無と内容はASBJの原文と監査法人で確認し、AIには改正を語らせません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。監査法人から「来期から適用が始まる基準への対応は進んでいますか」と聞かれました。どの基準のことか、すぐには分かりませんでした。
- 自社がどの会計基準を適用しているか、一覧がない。注記の「重要な会計方針」には書いてあるが、基準の名前と番号で整理したことはない。
- 改正の情報は、監査法人のニュースレターと、税理士の話と、たまに見るサイト。誰がどれを読んで、誰に伝えるかが決まっていない。
- 「うちに関係あるか」を判断する前に、「うちが何を使っているか」が分かっていない。
- 去年、適用が始まった基準への対応が、監査法人に言われてから始まった。
改正の内容と適用の要否は、基準の原文と監査法人の話。この記事でやるのは、自社が適用している基準の一覧を作り、改正を追う担当と確認先を決めることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 注記の「重要な会計方針」と、監査法人への提出資料(会計方針の説明)から、基準の名称を拾う … AI。
(b) 名称を、正式名称・番号・公表元に揃える … AIが下書き、人がASBJの原文で確認。
(c) 基準ごとに「関係する科目・取引」「社内の担当」「確認先(監査法人の担当・税理士)」を書く … 人。
(d) 「改正情報の確認先」と「確認の頻度」を決める … ASBJのサイト・制度改正カレンダー・監査法人。人。
改正の有無・内容・適用時期を答えさせること。AIに「この基準は最近改正されましたか」と聞くと、存在しない改正や、時期の違う改正を、もっともらしく答えます。改正の有無と時期は、ASBJの原文と制度改正カレンダー、監査法人で確認します。それから、「自社に関係あるか」の判定も監査法人と。AIに任せるのは、注記や資料から基準の名称を拾って一覧の型に整えるところまで。名称・番号もAIの出力を原文で確かめます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 注記・提出資料の文章から、会計基準・適用指針の名称を拾い出す
- 拾った名称を一覧の型(名称/番号/公表元/関係する科目・取引/担当/確認先)に整える(番号は「要確認」の印つき)
- 同じ基準が別の名前で書かれている箇所を指摘する
- 「担当」「確認先」の空欄を人が埋めるための表を作る
- 名称・番号をASBJの原文で確認する
- 関係する科目・取引、社内の担当
- 改正情報の確認先と頻度
- 改正の有無・内容・自社への影響(ASBJの原文・監査法人)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 注記と提出資料
直近の注記の「重要な会計方針」の全文と、監査法人に出した会計方針の説明資料。社名は記号に。数字は要りません。
往復1回目 ― AIが「改正」を語った
②の表に「備考」列が付き、「リースに関する基準:新基準が公表されており、○年○月から適用」「金融商品に関する基準:改正の公開草案あり」のような趣旨の記述が並んでいた。番号の欄にも数字が入っていた。
改正の有無と時期は、その時点のASBJの原文でしか確かめられません。AIの記述は古いか、間違っているか、正しいかが分からず、正しく見える分だけ危ない。番号も同じ。この一覧を監査法人に見せて、番号や時期が違っていたら、一覧全体の信用がなくなります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「備考列と、改正・適用時期に関する記述をすべて削除してください。番号の欄はすべて『要確認』に戻してください。」
名称と公表元、関係する科目だけの表になった。拾い出された基準は14件。③で「収益認識の基準」が2通りの呼び方で書かれていた箇所が1つ。
14件の名称と番号を、ASBJのサイトで1件ずつ確認して埋めます。時間はかかりますが、この一覧の価値は「原文で確認した」ことにあります。確認した日付も一覧に書きます。
往復2回目 ― 「文章に出てこない基準」
表の下に「注記には記載がありませんが、一般に適用されている可能性のある基準」として3件が挙がっていた。
「可能性のある」基準を一覧に入れると、適用しているかどうかが分からないものが混ざります。ただし、注記に書いていないだけで適用している基準はあり得るので、「監査法人に聞く候補」としては使えます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「その3件を一覧から外し、『監査法人に確認する候補』として別に列挙してください。」
一覧は14件のまま。候補3件が別に。
候補3件を監査法人に「当社に適用がありますか」と聞きます。この架空例では、1件は適用していて注記に書く必要がなかったもの、2件は関係なし、でした。一覧は15件になり、「監査法人と確認済み」の印がつきました。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 注記の記載が簡略で、基準の名前が出てこない … 監査法人への提出資料か、去年の監査で使った「会計方針の説明」から拾います。それでもなければ、監査法人に「当社が適用している基準の一覧はありますか」と聞くのが早い。
- 確認先が決まらない … ASBJのサイト(公表資料の一覧)を四半期に1回見る担当を1人決め、見た日を一覧に書きます。それだけで「誰も見ていない」がなくなります。
- 改正が多くて追いきれない … 一覧の「関係する科目・取引」で自社に関係する基準に絞ります。関係の有無の判断は監査法人と。
- AIがまた改正を語る … 削除。毎回。「改正はASBJの原文で」と最初に書いても出てきます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 一覧の名称・番号が、すべてASBJの原文で確認済みか。確認日が書いてあるか。
- 一覧に、改正の有無・時期に関するAIの記述が残っていないか。
- 「担当」「確認先」「確認の頻度」が埋まっているか。
- 監査法人の「来期から適用が始まる基準は」に、一覧とカレンダーで答えられたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「うちは何を適用しているか」が、原文で確認した一覧で答えられます。
- 改正情報を見る担当と確認先が決まり、「言われてから始める」がなくなります。
- 監査法人との会話が、「この基準のこの改正は当社に関係ありますか」と具体的になります。
- 一覧が、注記の「重要な会計方針」を書くときの下敷きになります。
- 直近の注記「重要な会計方針」を開き、基準の名前がいくつ出てくるか数える
- 1つ選んで、ASBJのサイトで正式名称と番号を確かめる
- その基準の「改正情報を誰が見ているか」を自分に聞く
応用 ― 難易度を上げる場合
改正が注記に与える影響は注記の前年比較と、改正対応が必要な箇所を洗い出す、決算前の変化の洗い出しは決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出すへ。このサイトの制度改正カレンダーは、一覧の「確認先」の1つとして使えます。