監査法人の資料依頼リストを、前期の提出実績と突き合わせて仕分ける
今年の資料依頼リスト(80項目)を去年の提出実績と突き合わせ、「同じ/少し違う/新しい」に仕分けて、担当と提出の記録を残す方法です。仕分けと文言の差分はAI、依頼の意図は推測せず監査法人に聞き、頼まれていない資料は足しません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。期末監査の前、監査法人から「資料依頼リスト」がExcelで届きます。80項目。
- 去年も同じようなリストが来て、同じように集めた。ただ、去年何を出したかは、去年のメールを遡らないと分からない。
- 「前期と同じ資料でよいもの」と「今年新しく頼まれたもの」が、リストの中で混ざっている。
- 80項目の担当を決めるだけで半日かかる。決めた後も、誰がどこまで出したかが見えない。
- 監査法人から「まだ出ていません」と言われた項目が、実は出していて、先方が見落としていた。提出の記録がないので、言い返せない。
やりたいのは、今年のリストを去年の提出実績と突き合わせ、「去年と同じ/去年と少し違う/今年新しい」に仕分けて、提出の記録を残すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 去年の提出実績を、1項目1行にする … 依頼の文言/出したファイル名/担当/提出日。去年のリストに「提出済み」列を足していれば、それがそのまま実績。
(b) 今年のリストと(a)を突き合わせる … AIにやらせる。「同じ」「文言が少し違う」「去年にない」。
(c) 仕分けごとに動きを変える … 同じ→去年のファイルの今年版を担当が出す/少し違う→何が違うかを見て、必要なら監査法人に聞く/新しい→担当を決めて、所在を探す。
(d) 提出したら、ファイル名・提出日・提出方法を表に書く。
依頼の意図を読むこと。「文言が少し違う」項目について、AIに「去年と何が違いますか」と聞くと文言の差は出ますが、なぜ変えたか(今年の重点か、単なる書き直しか)は監査法人に聞かないと分かりません。推測で資料を変えると、頼まれていないものを出すことになります。それから、「この資料を出すと何を見られるか」も考えない。頼まれたものを、頼まれた形で出す。説明が要る項目は、監査法人からの質問への回答ドラフトを作るの型で別に扱います。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 今年のリストと去年の提出実績を突き合わせ、「同じ/少し違う/新しい」に仕分ける
- 「少し違う」項目について、文言の差分を並べる
- 担当ごとの項目一覧と、進捗表(未着手/作成中/提出済み)を作る
- 監査法人への確認文の下書き(「少し違う」項目の意図を聞く)
- 「少し違う」項目の扱い(監査法人に聞くか、去年と同じで出すか)
- 「新しい」項目の担当と所在
- 提出の実行と、記録
- 説明が必要な項目の回答内容
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 今年のリストと去年の実績
今年の依頼リスト(No./依頼の文言/対象期間/期限)と、去年の提出実績(依頼の文言/出したファイル名/担当/提出日)。社名・取引先名は記号に。
往復1回目 ― AIが意図を推測した
仕分けはできた(同じ58/少し違う14/新しい8)。ただし「少し違う」の各行に「今年は収益認識の検討を強化する意図と思われます」のような一言が付いていた。
意図はAIには分かりません。この一言が残ると、担当者が「じゃあ収益認識の資料を厚めに」と、頼まれていないものを作り始めます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「意図に関する記述をすべて削除してください。『違う語』の列だけにしてください。」
「去年:主要な売上契約の一覧/今年:主要な売上契約の一覧(契約書の写しを含む)/違う語:契約書の写しを含む」のように、差分だけになった。
「少し違う」14項目を見て、差分が明らかに「追加の資料」なら(写しを含む、など)そのまま用意し、意味が取れないものだけ監査法人に聞きます。この架空例では、14項目中3項目を聞きました。
往復2回目 ― 「新しい」8項目の所在
続けて、次のように頼みます。「『新しい』8項目について、当社の決算資料の所在一覧(資料名/保存場所/担当)を貼ります。同じ名前か、明らかに同じ資料があれば、保存場所と担当を転記してください。なければ空欄にしてください。」
8項目中5項目に転記があった。うち1項目が「固定資産の実査記録 → 所在:固定資産台帳/担当:経理A」と転記されていた。
台帳と実査記録は別物です。台帳は帳簿、実査記録は「実際に現物を確認した記録」。AIは名前が近いので同じにしました。転記のままだと、担当Aが台帳を出して「これではない」と返されます。
「『固定資産の実査記録』の転記を取り消してください。名前が部分的に一致するだけのものは、転記せず空欄にしてください。」
4項目に転記、4項目は空欄。
空欄4項目の所在を探します。この架空例では、実査記録は総務が持っていました。「新しい」項目は、経理の外にあることが多い。早めに担当を決めます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 去年の提出実績がない … 今年のリストに「提出済み/ファイル名/提出日」の列を足して、記録しながら進めます。それが来年の実績になります。
- 「同じ」なのに去年のファイルが見つからない … 去年の担当に聞きます。去年の提出ファイルは、監査用のフォルダに年度ごとにまとめておきます(決算資料の地図に載せる)。
- 監査法人の担当者が変わり、リストの形式が全然違う … 突き合わせは文言ではなく資料名で。「新しい」が増えますが、去年のファイルは同じ場所にあります。
- 提出したのに「未提出」と言われる … 表の提出日・提出方法を見せます。記録があれば、それで済みます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 表に、依頼の意図の推測が残っていないか。
- 「少し違う」14項目について、用意する/聞く、のどちらかに決めたか。
- 80項目すべてに担当と提出日が入ったか。
- 監査法人からの「未提出」の指摘が、記録で即答できたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 80項目の担当決めが、半日から30分になります。
- 「去年と同じ」58項目は、去年のファイルの今年版を出すだけになります。
- 「新しい」8項目に、初日から集中できます。
- 提出の記録が残り、来年の「去年の実績」になります。「未提出」の指摘に、記録で答えられます。
- 去年の監査で出した資料のうち、思い出せるものを10個書く
- それぞれ「ファイルが今どこにあるか」を書いてみる
- 書けないものが、今年「新しい」扱いになりかねないもの
応用 ― 難易度を上げる場合
質問(資料ではなく説明を求められる項目)は監査法人からの質問への回答ドラフトを作るへ。所在一覧は初めて見る決算資料の束が、どうつながっているかわからないとき。税務調査の依頼リストは税務調査の資料依頼リストを、所在・担当・期限の表にすると同じ表の型で、依頼元だけが違います。