税務調査の資料依頼リストを、所在・担当・期限の表にする
税務調査の資料依頼リストを「所在・担当・期限・状況」の管理表にし、集める作業と税理士と相談する作業を分ける方法です。表化と他部署への依頼文はAI、所在・担当・仕分けは人、回答内容と依頼にない資料を足すかどうかは税理士と決めます。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。税務調査の事前連絡が来ました。税理士と日程を調整し、初日に向けて「用意しておく資料」のリストが届きました。20項目あります。
- 「総勘定元帳」「売上の請求書控え」「契約書一式」「役員報酬の決定に関する議事録」……。どれがどこにあるか、すぐには言えない。3期分。
- 経理だけでは揃わない。議事録は総務、契約書は法務、外注先の資料は事業部。
- 誰が何をいつまでに集めるかが決まらないまま、初日が近づく。
- 「この資料を出すとどう見られるか」を考え始めて、手が止まる。それは税理士と相談する話であって、資料を集める話とは別。
やりたいのは、依頼リストを「所在・担当・期限・状況」の表にして、集める作業と、税理士と相談する作業を分けることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 依頼リストを1項目1行にする … 項目名/対象期間/原文のまま。
(b) 各項目に「所在(どのシステム・フォルダ・部署)」「担当」「期限」を書く … 所在と担当は人。決算資料の地図があれば転記できる。
(c) 「経理だけで揃うもの」「他部署に頼むもの」「税理士と相談してから出すもの」に仕分ける … 仕分けは人。
(d) 進捗を毎日更新する。
AIに任せるのは、(a)の表化と、(b)で依頼の文言から「どの種類の資料か」を整理すること、(c)の他部署への依頼文の下書きです。
「この資料を出すとどう見られるか」「どう説明するか」。それは調査対応の方針で、税理士と協議して決めることです。AIに「この取引は指摘されますか」と聞いても、法令とその年の事実に照らした答えは得られません。AIに任せるのは、依頼リストを表にして、集める作業を回すところまで。それから、依頼リストにない資料を「念のため」と足すかどうかも、税理士と相談して決めること。AIに「他に用意すべき資料は」と聞かない。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 依頼リストを「項目/対象期間/原文」の表にする
- 各項目を「資料の種類」(帳簿・証憑・契約・議事録・その他)で整理する
- 他部署への依頼文の下書き(項目・期限・渡し方)
- 毎日の進捗一覧(未着手/収集中/揃った/税理士確認中)
- 所在・担当・期限
- 「税理士と相談してから出す」に仕分ける項目
- 回答内容・説明の仕方(税理士と)
- 依頼リストにない資料を用意するかどうか(税理士と)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 依頼リストの原文と所在一覧
依頼リストの原文(社名を記号に)。決算資料の地図があれば、それも。
往復1回目 ― AIが「念のため」の資料を足した
表の下に「補足:あわせて、次の資料も準備しておくことを推奨します」として5項目が並んでいた。
依頼されていない資料を用意するかどうかは、税理士と相談して決めることです。AIの「推奨」には、貴社の事情も、調査の論点も反映されていません。この5項目が管理表に混ざると、集める側は依頼と区別できません。禁止事項に書いていてもこうなります。
「補足を削除してください。依頼リストの20項目だけにしてください。」
20行だけになった。
20行の「保存場所/担当」の空欄を埋めます。この架空例では、20項目中12項目は所在一覧から転記され、残り8項目は経理以外の部署(議事録=総務、契約書=法務、外注の検収記録=事業部)でした。
往復2回目 ― 他部署への依頼文
続けて、次のように頼みます。「表の『担当』が総務・法務・事業部になっている項目について、それぞれの部署宛ての依頼文を下書きしてください。項目・対象期間・期限・渡し方(PDFで共有フォルダに)を含め、理由は『税務調査の資料として』とだけ書いてください。」
依頼文はできた。ただし法務宛ての文に「契約書のうち、関連当事者との取引に関するものは特に重要です」と付いていた。
「特に重要」は、調査の論点についてのAIの推測です。これが法務に伝わると、法務が「何かあるのか」と身構えます。依頼文は、項目と期限だけ。
「重要度や論点に関する記述を削除してください。項目・期間・期限・渡し方だけにしてください。」
そのとおりになった。
依頼文を送る前に、税理士に「この依頼の出し方でよいか」を一度見せます。社内への伝え方も、調査対応の一部です。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 所在一覧がない … 決算資料の地図を先に作るのが理想ですが、時間がないなら、この表の「保存場所/担当」を埋めること自体が地図の第1版になります。
- 3期分のうち、古い期の資料が見つからない … 見つからないことを、隠さず税理士に伝えます。「探し中」のまま初日を迎えない。
- 他部署の提出が遅い … 提出が遅い相手に、角を立てずに出してもらうときの型で。期限の根拠が「税務調査の初日」なので、催促の理由は明確です。
- 依頼リストが初日以降に追加される … 同じ表に行を足します。「追加分」と分かるように日付を書きます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 表に、依頼リストにない資料が混ざっていないか。
- 20項目すべてに、保存場所・担当・期限が入ったか。
- 「税理士と相談してから出す」に仕分けた項目を、税理士と確認したか。
- 初日に「揃っていない」項目が0か、あれば税理士に事前に伝えたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 依頼リストが届いた当日に、「誰が・何を・いつまでに」の表ができます。
- 集める作業と、税理士と相談する作業が分かれ、手が止まりません。
- 他部署への依頼が、論点を含まない事務的な文で出せます。
- 表がそのまま「次の調査のための所在一覧」になります。
- 前回の税務調査(または監査法人の往査)で頼まれた資料を5つ思い出す
- それぞれ「今、どこにあるか」「誰に聞けば出るか」を書いてみる
- 書けないものが、次の調査で最初に困るもの
応用 ― 難易度を上げる場合
所在一覧は初めて見る決算資料の束が、どうつながっているかわからないとき、申告書の根拠資料は去年の別表を手がかりに、今年の加算・減算項目の元データを集めると共通です。監査法人からの資料依頼は監査法人の資料依頼リストを、前期の提出実績と突き合わせて仕分けるへ。同じ表の型で、依頼元だけが違います。