期中の会計処理の相談を、監査法人に「事実・自社の案・確認したいこと」の型で出し、回答を一覧に残す
期中に出てくる「この取引、どう処理する?」を、決算のときにまとめて聞くのではなく、発生のたびに「取引の事実/関係する契約・資料/自社の処理案/確認したいこと」の型で監査法人に出し、回答と回答日を一覧に残す方法です。型の下書きと一覧の整理はAI、処理案と確認したいことは経理、会計処理の判断は基準の原文と監査法人との協議。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。期中に、初めての種類の取引が出てきます。新しい契約の形、初めての補助金、初めての固定資産の売却。そのたびに「どう処理する?」となるのですが。
- 決算のときにまとめて監査法人に聞いて、期中の処理を直すことになる。「期中に聞いておけば」を毎年。
- 聞くときの形がその場しのぎで、監査法人から「契約書はありますか」「自社ではどう考えていますか」と聞き返される。1往復が2往復に。
- 回答をメールで受けて、そのメールが担当者の受信箱にしかない。次の年に同じ取引が出て、また聞く。
- 「監査法人がこう言った」と口頭で伝わり、何を前提に言ったのかが残っていない。
会計処理そのものは基準と監査法人の話。この記事でやるのは、相談を発生のたびに同じ型で出し、回答を一覧に残すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 相談の型を決める … 取引の事実(いつ・誰と・何を・金額の規模)/関係する契約・資料の名前/自社の処理案(どの科目・どの期・どの区分に、と自社はこう考えている)/確認したいこと(1つずつ)/回答の期限の希望。
(b) 取引が出てきたら、経理が型に沿って書く … 担当者。処理案は責任者が見る。
(c) 書いたものが型どおりか(事実と案が分かれているか、確認したいことが1つずつか)を整える … AI。
(d) 監査法人に出し、回答を一覧(相談No./日付/取引/案/回答の要旨/回答日/回答を踏まえた処理)に残す … 担当者。
(e) 決算のときに、一覧の相談が処理に反映されているかを確かめる … 責任者。
処理案を作ること、会計処理を決めること。AIに「この取引はどう処理する?」と聞くのは、この記事の範囲外です。処理案は経理が基準の原文を読んで書き、判断は監査法人との協議で決まります。AIに任せるのは、書いた相談が型どおりかを整えることと、一覧の管理だけ。それから、取引の相手先名と金額はAIに渡しません。記号と規模(「数千万円台」など)で。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 書いた相談を型に沿って整える(事実と案の分離、確認したいことの分割)
- 相談に足りない要素(契約の名前がない、案がない)の指摘
- 相談と回答の一覧の書式と、未回答の抽出
- 決算前に、一覧の相談が処理に反映されたかを確かめるチェック表(項目だけ)
- 処理案(経理が基準の原文を読んで、責任者が見る)
- 会計処理の決定(監査法人との協議)
- 相談を出すタイミングと出し方(責任者)
- 回答の受け止めと、処理への反映
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 経理が書いた相談の下書き
担当者が型に沿って書いた相談(相手先は記号、金額は規模)。AIに渡すのはこの下書きだけで、契約書そのものは渡しません。
往復1回目 ― AIが「別の案」を足した
③の処理案の下に、「なお、代替案として〜という処理も考えられます。監査法人には両案を提示することをお勧めします」と足されていた。
型への整理は使えるものでした。「代替案」は処理案の提案で、この記事の範囲外です。しかも、AIの代替案には根拠がなく、監査法人に出すと「自社の考えはどちらですか」と聞き返されます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「代替案の記述を削除し、③は私が書いた案だけにしてください。」
①〜⑤に整った相談文。②で「確認したいこと」が2つに分かれた(計上の期と、区分)。③で「契約の名前はあるが、契約の中の関係する条項の場所が書かれていない」の指摘。
契約の条項の場所を足します(契約書を見て、経理が)。責任者が処理案を見て、「この案で相談する」と決めてから監査法人に出します。一覧に1行。
往復2回目 ― 回答の一覧
回答が来たので、一覧の「回答」欄を埋めるために回答の要旨を頼んだ(回答メールは相手先を記号にして渡した)。要旨の末尾に「監査法人の回答は自社の案を支持しており、この処理で確定してよいと考えられます」とあった。
要旨は使えるものでした。「確定してよい」は判断で、監査法人の回答には「契約の追加資料を確認の上で」という条件が付いていました。AIは条件を要旨から落としていた。
「判断の記述を削除し、回答に付いている条件や留保をすべて要旨に含めてください。」
要旨に「追加資料の確認が条件」が入った。
一覧の「回答」に条件つきで書き、「回答を踏まえた処理」は追加資料を出して再回答をもらってから埋めます。責任者が回答メールの原文も一覧のリンク先に置きます。要旨は入口、原文が根拠。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 処理案が書けない(分からない) … 案がないまま出さず、責任者と基準の原文を読んでから。「分からないので教えてほしい」は相談ではなく丸投げで、監査法人も答えにくい。
- 監査法人の回答が遅い … ⑤の期限を書いていたか確かめます。書いていれば、期限の翌日に相談No.で催促。
- 同じ取引が翌年も出た … 一覧を見て、去年の回答と条件を確かめます。前提(契約の内容)が同じなら同じ処理、違えば再相談。
- AIがまた案や判断を書く、条件を落とす … 削除・追加。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 期中に出てきた新しい取引が、一覧に相談として残っているか。決算で初めて聞く取引がなかったか。
- 一覧の相談すべてに、回答・回答日・回答を踏まえた処理があるか。条件つきの回答が、条件の解消まで追われているか。
- 回答の原文が、一覧から辿れる場所にあるか。
- 相談文に、AIの代替案や判断が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「期中に聞いておけば」が、発生のたびに聞くに変わります。
- 型があるので、監査法人からの聞き返しが減り、1往復で済むことが増えます。
- 回答が一覧に残り、翌年の同じ取引で「去年こう聞いた」から始められます。
- 条件つきの回答が、条件の解消まで追われます。
- 今期に出てきた「初めての取引」を1つ思い出す
- それを「事実/契約/自社の案/確認したいこと」の4つで書いてみる
- 「自社の案」が書けなければ、まず基準の原文を読むところから。書けたら、それが最初の相談
応用 ― 難易度を上げる場合
監査法人からの質問への回答は監査法人からの質問への回答ドラフトを作る、指摘の対応表は監査法人からの指摘・改善提案を、翌期の対応表にして四半期ごとに進捗を残すへ。自分の案を反対側から見るのは自分の会計処理案を、AIに反対側からレビューさせる。