監査法人からの指摘・改善提案を、翌期の対応表にして四半期ごとに進捗を残す
監査で受けた指摘(未修正の差異、改善提案、持ち帰った質問)を、指摘の原文/担当/期限/対応の証拠/状況の表にし、四半期ごとに進捗を更新する方法です。表化と抽出はAI、対応策の決定と証拠の確認は人、指摘の重要度の評価は監査法人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。期末監査のあと、監査法人から「指摘事項と改善提案」の一覧が届きます。未修正の差異、手続の改善提案、監査中に持ち帰りになった質問。20項目ほど。
- 届いたときは読むが、その後どこにも管理されていない。翌期の監査で「去年の指摘はどうなりましたか」と聞かれて、思い出すところから始まる。
- 「対応済み」と答えたが、証拠(変えた手順書、直した仕訳)を示せなかった。
- 改善提案のうち、やるかやらないかを決めていないものがある。決めていないまま、次の監査が来る。
- 持ち帰りの質問は、担当者のメールに埋もれている。
指摘の重要度と、対応が十分かの評価は、監査法人の話。この記事でやるのは、指摘を対応表にして、四半期ごとに進捗と証拠を残すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 指摘の一覧を1項目1行にする … 指摘の原文/種類(未修正の差異・改善提案・持ち帰り質問)/関係する科目・業務。AI。
(b) 各項目に「担当」「対応の方針(やる・やらない・検討中)」「期限」を書く … 人。上司と。
(c) 四半期ごとに「状況」と「証拠(ファイル名・仕訳番号)」を更新する … 人。
(d) 次の監査の前に、監査法人に対応表を渡す … 対応が十分かは監査法人。
対応策を決めること、指摘の重要度を評価すること。AIに指摘一覧を見せると「二重チェックの導入を推奨します」「重要度:高」と書きますが、貴社の人数と業務でその対応が回るか、その指摘がどれだけ重いかは、AIには分かりません。対応策は上司と決め、重要度は監査法人に聞きます。AIに任せるのは、指摘を表に整え、進捗の更新を型にするところまで。「対応済み」と書くのも、証拠を確かめた人。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 指摘一覧を1項目1行の表にし、種類と関係する科目・業務で整理する
- 四半期ごとの進捗更新のとき、前回の表と今回の状況を並べ、「状況が変わっていない項目」「期限を過ぎた項目」を出す
- 「対応済み」なのに証拠の欄が空欄の項目を出す
- 監査法人に渡す対応表の形に整える
- 対応の方針(やる・やらない・検討中)と担当・期限(上司と)
- 「対応済み」の証拠の確認
- やらない指摘の理由の記録
- 指摘の重要度と対応の十分性(監査法人と)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 指摘一覧と、前期の対応表
監査法人からの指摘一覧(原文)。前期の対応表があればそれも。社名・取引先名は記号に。
往復1回目 ― AIが対応策を書いた
①の「方針」列に「二重チェック体制の構築を推奨」「月次レビューの導入を推奨」と入り、「優先度:高/中/低」の列も付いていた。
方針は上司と決めるもので、優先度は監査法人に聞くもの。経理3名で「二重チェック体制」は回りません。AIの推奨が表に残ると、監査法人に「こう対応します」と言ったことになります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『方針』列を空欄に戻し、『優先度』列を削除してください。提案や評価の記述をすべて消してください。」
今期の指摘は18件。種類は未修正の差異3件、改善提案11件、持ち帰り質問4件。②で、前期と同じ内容の指摘が2件あった(同じ改善提案が2年続けて出ている)。
18件の方針・担当・期限を上司と決めます。2年続けて出ている2件は、「やらない」と決めるなら理由を書き、監査法人に伝えます。「検討中」のまま2年は、検討していないのと同じです。
往復2回目 ― 「対応済み」の証拠がない
③で、前期「対応済み」の9件のうち、証拠の欄が空欄のものが5件挙がった。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。「対応済み」と書いたが、何をどう変えたかの証拠が残っていない項目が5件。監査法人に「どうなりましたか」と聞かれて示せなかったのは、これです。追加の指示は出しません。
5件について、変えた手順書・直した仕訳・送ったメールを探して証拠の欄に書きます。見つからないものは「対応済み(証拠なし)」に直し、今期の表で改めて証拠を残します。「対応済み」を「証拠つき対応済み」にする。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 指摘が口頭だけで、文書がない … 監査法人に「一覧をいただけますか」と頼みます。なければ、経理で聞いたことを書き起こし、監査法人に「この理解でよいか」を確認します。
- 「やらない」と決めた指摘がある … 理由を書いて監査法人に伝えます。やらない理由が書いてあれば、翌期に同じ指摘は減ります。
- 担当が退職した … 対応表があれば引き継げます。なければ、この記事の最初からです。
- AIがまた方針や優先度を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 対応表に、AIの提案や優先度が残っていないか。方針が、すべて上司と決めたものか。
- 「対応済み」の全項目に、証拠(ファイル名・仕訳番号)が書いてあるか。
- 四半期ごとに更新した記録(更新日)が残っているか。
- 次の監査で「去年の指摘はどうなりましたか」に、対応表で即答できたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「去年の指摘はどうなりましたか」に、対応表と証拠で答えられます。
- 2年続けて同じ指摘が出る、が減ります。やらないなら理由が伝わっています。
- 持ち帰りの質問が、メールに埋もれず対応表に載ります。
- 四半期ごとの更新で、次の監査の前にあわてなくなります。
- 直近の監査法人からの指摘一覧を探す(メール・議事録)
- 「対応済み」と答えた項目を1つ選び、証拠(変えたもの)を探してみる
- 見つからなければ、それが対応表の最初の「証拠なし」
応用 ― 難易度を上げる場合
資料依頼の管理は監査法人の資料依頼リストを、前期の提出実績と突き合わせて仕分ける、質問への回答は監査法人からの質問への回答ドラフトを作るへ。改善提案のうち規程に関わるものは経理規程と実務のずれを、規程の条文ごとに点検する、業務の変更は経理の仕事を「やめる・減らす・まとめる・任せる」に仕分けると組み合わせます。