年次決算・開示 › 収益認識活用案

進捗度の計算に使う見積原価総額の変更を、案件ごとに履歴として残す

受託案件の進捗度を「発生原価÷見積原価総額」で計算している会社で、見積原価総額が変わった案件・日付・変更前後・承認者を履歴表にし、履歴のない変更を見つける方法です。表と抽出はAI、変更の理由は案件責任者、進捗度の計算方法と収益の計上は基準の原文と監査法人。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★★☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。受託開発の案件が常時20件ほどあり、四半期ごとに案件別の進捗度を計算しています。進捗度は「発生原価÷見積原価総額」。見積原価総額は、案件責任者が案件管理システムに入れています。

  • 見積原価総額が、いつの間にか変わっている。四半期末に数字を取ると、前回と違う案件がある。誰が、いつ、なぜ変えたかは、システムに残っていない(上書き)。
  • 変わると、進捗度が動く。見積が増えれば進捗度は下がり、収益の計上額も動く。経理は結果しか見ていない。
  • 監査法人から「見積原価総額の変更の根拠を示してください」と言われた。案件責任者に聞いて回った。半日かかった。
  • 変更が「四半期末に一気に」起きている案件がある。期中に見直していないのか、期末に合わせて調整しているのか、区別がつかない。

やりたいのは、見積原価総額の変更を、案件ごとの履歴として残し、履歴のない変更をその四半期のうちに見つけることです。進捗度の計算方法そのものと、収益の計上は、基準と監査法人の話。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 四半期末ごとに、案件別の見積原価総額を「スナップショット」として保存する … 案件管理システムからExcelに出すだけ。
(b) 前回と今回のスナップショットを並べ、変わった案件を出す … AIにやらせる。
(c) 変わった案件について、案件責任者に「いつ・なぜ・誰の承認で」を聞き、履歴表に書く … 人。
(d) 履歴表を監査法人に渡す … 変更の妥当性は監査法人と。

ここはAIを使わない

見積原価総額が妥当かどうか、変更の理由が正しいかどうか。AIに変更前後の数字を見せると「スコープ拡大による増額と考えられます」と書きますが、案件の中で何が起きたかはAIには分かりません。理由は案件責任者に聞きます。それから、進捗度の測定方法と、収益をいくら計上するかはこの記事の範囲外です。基準の原文と監査法人と。AIに任せるのは、変わった案件を出し、履歴の型に整えるまで。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 前回と今回のスナップショットを並べ、見積原価総額が変わった案件・変更額・変更率を出す
  • 変更額の大きい順、変更率の大きい順に並べる
  • 案件責任者に聞く質問文の下書き(いつ・なぜ・誰の承認で)
  • 履歴表(案件/変更日/変更前/変更後/理由/承認者/記録日)の型に整える
人が判断する
  • 変更の理由と承認の事実(案件責任者に聞く)
  • 履歴に残っていない変更をどう扱うか(上司・監査法人と)
  • 進捗度の計算と収益の計上(基準・監査法人と)

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 前回と今回のスナップショット

前回四半期末と今回四半期末の案件別一覧(案件記号/見積原価総額/発生原価累計/契約金額)。金額は千円単位。案件名・顧客名は記号に。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。案件名・顧客名は記号、金額は千円単位にして貼ります。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。受託案件の進捗度計算に使う見積原価総額について、前回の四半期末から変わった案件を見つけ、変更の履歴を残したいと考えています。読み手は私・上司・監査法人です。 【事実/入力】 ・以下に、前回四半期末と今回四半期末の案件別一覧(案件記号/見積原価総額/発生原価累計/契約金額、千円単位)を貼ります ・変更の理由は、私が案件責任者に確認します ・進捗度の計算方法と収益の計上は、監査法人と別途協議します 【依頼】 ①見積原価総額が変わった案件を、変更額の大きい順に出してください ②各案件について、案件責任者に聞く質問文を1行添えてください(いつ・なぜ・誰の承認で) 【出力の型】 ①表:案件記号/前回の見積原価総額/今回/変更額/変更率/発生原価累計(今回) ②表:案件記号/質問文(1行) 【禁止事項】 ・変更の理由を推測して書かないでください ・進捗度や収益の金額を計算して書かないでください ・見積が妥当かどうかの評価を書かないでください

往復1回目 ― AIが理由を書いた

AIの初稿

①は正確だった(変更あり6件)。ただし各行に「スコープ拡大による増額と考えられる」「工数の見積り誤りの修正と推定」と理由が付いていた。

ここが問題

理由は貼っていません。「スコープ拡大」なら契約金額も変わっているはずで、変わっていなければ別の理由です。AIの推測が履歴表に転記されると、監査法人に「案件責任者に確認した理由」として渡してしまいます。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「理由に関する記述をすべて削除してください。①は数字の表だけ、②は質問文だけにしてください。」

修正版

6件の表と質問文だけになった。最大は案件Fで、見積原価総額 48,000 → 63,000(+31%)。契約金額は変わっていない。

人が最後にやること

6件の案件責任者に、質問文をそのまま送ります。この架空例では、案件Fは「追加の仕様変更を顧客から受けたが、契約金額の交渉は未着手」でした。見積原価総額の変更と、契約金額の未変更が、同時に見えた。これは経理が知っておくべき事実で、監査法人にも伝えます。

往復2回目 ― 変更が「一気に」起きている案件

続けて、過去4四半期分のスナップショットを貼って、次のように頼みます。「案件ごとに、4四半期の見積原価総額を並べ、変更が起きた四半期に印をつけてください。変更が最後の四半期にだけ集中している案件を別に挙げてください。」

AIの初稿

案件ごとの4期分の並びと、印ができた。「最後の四半期にだけ変更」は3案件。末尾に「期末の一括見直しは見積りの精度に問題がある可能性があります」とあった。

ここが問題

3案件の抽出は、これが見たかったもの。ただし「精度に問題」は評価で、期中に見直す機会がなかっただけかもしれません。評価は履歴と理由を見た人と監査法人が行います。

追加で出した指示

「末尾の評価を削除してください。案件の並びと印だけにしてください。」

修正版

表だけになった。

人が最後にやること

3案件の責任者に「期中に見積りを見直す機会があったか」を聞きます。期中に見直しがなかった案件は、来期から「月次で見積原価総額を確認する」を案件管理の手順に入れます。手順に入れるかどうかは、上司と案件管理部門と決めます。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 案件管理システムが上書きで、過去の値が残らない … 四半期末(できれば月末)にExcelへ出して保存する運用にします。スナップショットがあれば、システムに履歴機能がなくても履歴は作れます。
  • 案件責任者が「覚えていない」 … 「変更日:不明/理由:不明」と履歴に書きます。不明が多い案件は、監査法人に「履歴が取れていない」と伝えます。隠さない。
  • 変更が多すぎる(毎月全案件) … 変更額・変更率の上位だけ理由を聞きます。残りは「小さな更新」としてまとめて記録。線引きは上司と。
  • AIがまた理由や評価を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 履歴表の「理由」が、すべて案件責任者から聞いたものか(AIの推測が混ざっていないか)。
  2. 今回変わった案件の全部に、履歴の行があるか。
  3. 監査法人の「変更の根拠を」に、履歴表を見せて答えられたか。
  4. 次の四半期、「いつの間にか変わっていた」案件が0件か。

7. 注意点

案件別の見積りと発生原価は、顧客名と結びつくと機密性が高い情報です。案件名・顧客名は記号、金額は千円単位に。社内ルールで確認してください。
見積りの妥当性と、進捗度・収益の計算は、この活用例の範囲外です。基準の原文と監査法人との協議によります。
履歴は「変更があった事実」の記録です。変更の当否を経理が決めるものではありません。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 「いつの間にか変わっていた」が、「今期は6件変わり、理由と承認者を記録した」になります。
  • 監査法人への根拠の説明が、半日かけて聞いて回るから、履歴表を渡す1分になります。
  • 見積原価総額の変更と契約金額の未変更のような、経理が知るべき事実が四半期のうちに見えます。
  • 期末に一気に見直していた案件が、月次で見直す運用に変わります。
明日の仕事で試すこと
  • 今日の案件別一覧を、Excelに出して日付をつけて保存する(これが最初のスナップショット)
  • 前回の四半期末の一覧が残っていれば並べて、変わった案件を数える
  • 1件だけ、案件責任者に「いつ・なぜ・誰の承認で」を聞いてみる

応用 ― 難易度を上げる場合

契約の内容から収益認識の論点を洗い出す段階は契約書から収益認識の論点を洗い出すへ。「前回と今回を並べて変わったところを出す」型は他部署から来た数字が、合っているのかわからないときと共通で、この活用例はそれを見積原価総額に当てはめたものです。決めた理由を残す型は今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにする。