会計処理の判断メモを「事実・適用した基準の名前・判断・確認先」の型で残し、去年のメモと並べて変わったものを出す
決算で行った会計処理の判断(見積りの前提、区分の選択、重要性の扱いなど)を、1件ずつ「対象/事実/適用した基準の名前/判断と理由/確認先(監査法人・税理士)と確認日/来年見直す条件」の型でメモに残し、去年のメモと並べて「今年新しく判断したもの」「去年と判断を変えたもの」「去年あって今年ないもの」をAIに出させる方法です。整理と抽出はAI、判断そのものは経理責任者と監査法人との協議、基準の内容は原文で。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。決算では、いくつもの判断をしています。引当の見積りの前提、資産計上か費用かの線、注記に載せるかどうかの重要性。判断はしている。でも。
- 去年「なぜそう判断したか」を、今年誰も説明できない。担当者が変わった。メモは監査法人とのメールの中。
- 今年、去年と違う判断をしたが、変えた理由を残していない。監査法人に「去年と違いますね」と言われて、思い出しながら答える。
- 判断が「前回と同じ」で回っているが、前提が変わっていないかを誰も見ていない(同じでいいのか不安)。
- 判断メモの形が人によって違い、並べて比べられない。
判断そのものは責任者と監査法人の話。この記事でやるのは、判断を同じ型のメモで残して、去年と並べて「変わったもの」を見えるようにすることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) メモの型を決める … 対象(何の処理か)/事実(前提となる数字の規模・契約・状況)/適用した基準の名前(番号と公表元。内容は書かない)/判断と理由/確認先と確認日/来年見直す条件(この前提が変わったら見直す)。
(b) 決算のたびに、判断1件につき1枚を書く … 担当者が下書き、責任者が確定。
(c) 去年のメモと今年のメモを対象で突き合わせ、①今年新しい判断、②去年と判断が違うもの、③去年あって今年ないもの、④「来年見直す条件」に当てはまる事実が今年起きているもの、を出す … AI。
(d) ①②④を監査法人との協議の議題にする … 責任者。
(e) 協議の結果をメモに書き足し、来年の「去年のメモ」にする … 担当者。
判断すること、判断が妥当かを評価すること、基準の内容を確かめること。メモは判断を残す道具で、判断は責任者が基準の原文を読み、監査法人と協議して決めます。AIに「この判断は正しいか」を聞きません。それから、メモの「事実」は規模と記号で書き、実際の金額・相手先はAIに渡しません。基準は名前と番号だけで、内容の要約をAIに書かせません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 去年と今年のメモを対象で突き合わせ、新しい判断・変わった判断・消えた判断を出す
- 「来年見直す条件」と今年の事実を照らして、条件に当てはまりそうなものを候補として出す
- メモの型に足りない要素(確認先が空欄、見直す条件がない)の指摘
- 監査法人との協議の議題の一覧(メモの番号と対象だけ)
- 判断と理由(責任者。基準の原文を読んで)
- 監査法人との協議と、その結果の反映
- 「来年見直す条件」の設定
- 判断を変えるかどうか
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 去年と今年のメモ(型に沿ったもの)
メモは対象/事実(規模・記号)/基準の名前/判断と理由/確認先と確認日/見直す条件。実際の金額・相手先名は入れません。基準の内容の要約も入れません。
往復1回目 ― AIが「妥当性」を書いた
①で「去年と判断が違うもの」が3件。そのうち貸倒引当金の見積りの前提について、「今年の前提は去年より保守的であり、妥当と考えられます」と付いていた。
3件が見えたのは、これが見たかったもの。「妥当」は判断の評価で、保守的かどうかも、それがよいかどうかも、責任者と監査法人が決めることです。禁止事項に書いていてもこうなります。
「妥当性や評価の記述を削除し、①は要旨の対比だけにしてください。」
①は新しい判断5件、変わった判断3件、消えた判断2件。②は見直す条件に当てはまりそうなものが4件。③は空欄が6件(確認日が空欄3件、見直す条件が空欄3件)。④は議題12件。
変わった3件は、責任者が「変えた理由」をメモに書き足してから監査法人との協議に持っていきます。理由が書けない1件は、去年の判断に戻すか協議で決めます。消えた2件は、取引がなくなったので「対象消滅」と記録。
往復2回目 ― 「見直す条件」の候補
②の4件のうち、資産除去債務の見積りについて、「今年の変化『オフィスの契約更新』が条件『賃貸契約の変更』に該当するため、見直しが必要です」とあった。
候補として出たのはよい。「該当するため見直しが必要」は判断で、契約更新が条件でいう「変更」に当たるかは、契約の中身を見て責任者が決めることです。
「『必要です』の記述を削除し、②は『当てはまりそう』の候補と、その理由(条件の語と変化の語の対応)だけにしてください。」
候補と対応の語だけになった。
契約更新の内容を見ると、原状回復の条項は変わっていないので、見直しは不要と責任者が判断し、メモに「条件を確認、変更なし」と書きます。4件のうち2件は本当に見直しが要り、協議の議題に。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 去年のメモがない(今年から始める) … 今年のメモを型で書くだけ。来年から比較できます。去年の判断は、監査法人とのメールから分かる範囲で「去年の判断の要旨」に書きます。
- 「見直す条件」が書けない … 「この判断は何が変わったら変わるか」を責任者に聞きます。書けない判断は、前提が曖昧な判断。
- メモが多すぎる … 金額の規模と、見積りを含むかで優先順位を付けます。全部を協議の議題にはしません。
- AIがまた妥当性や「必要」を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 今年の判断メモすべてに、確認先・確認日・見直す条件があるか。空欄が決算までに埋まっているか。
- 去年と違う判断すべてに、変えた理由と監査法人との協議の記録があるか。
- 「見直す条件」に当てはまった判断が、見直されたか、見直さない理由が書かれているか。
- メモに、AIの妥当性の評価や基準の要約が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「なぜそう判断したか」が、担当者が変わってもメモで答えられます。
- 去年と違う判断に、変えた理由が最初から付きます。
- 「前回と同じ」が、見直す条件を確かめた上での「同じ」になります。
- メモの一覧が、監査法人との協議の議題になり、決算の終盤の慌てが減ります。
- 去年の決算で行った判断を1つ思い出し、「事実/基準の名前/判断と理由/確認先/見直す条件」の5つで書いてみる
- 書けない要素が、今年のメモで埋めるべき要素
- 「見直す条件」に、今年当てはまる変化があったかを自分に聞く
応用 ― 難易度を上げる場合
自分の案を反対側から見るのは自分の会計処理案を、AIに反対側からレビューさせる、「同じでいいのか」は前回と同じようにやったけど、今回も同じでいいのか不安なときへ。期中の相談は期中の会計処理の相談を、監査法人に「事実・自社の案・確認したいこと」の型で出し、回答を一覧に残す。