経理部門の改善 › ツール運用活用案

経理システムのマスタ(取引先・科目・部門)の変更を、月次で「誰が・何を・なぜ」の一覧にする

会計システムのマスタ変更ログ(取引先・勘定科目・部門の追加・変更・削除)を月に1回出力し、変更依頼の記録と突き合わせて「依頼のない変更」「振込先の変更」「追加してすぐ削除」「似た名前の取引先の追加」をAIに出させる方法です。整理と抽出はAI、変更が妥当かの確認は担当者と上司、マスタの権限の見直しは責任者。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★☆☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。会計システムの取引先・勘定科目・部門のマスタは、経理の何人かが変更できます。変更の依頼は、部門からメールやチャットで来ます。気づくと、こうなっていました。

  • 取引先マスタに、同じ会社が3件ある。「(株)」「株式会社」「英字」で別々に登録され、支払の集計が割れる。
  • 振込先が変わった取引先があるが、誰がいつ変えたか分からない。変更ログはあるが、誰も見ていない(振込先の変更の確認は支払のとき個別に)。
  • 使っていない勘定科目や部門が残っている。新しい人が間違えて使う。
  • 変更の依頼と、実際の変更が突き合わされていない。依頼なしに変わったものがあっても分からない。

マスタの設計を変える話ではありません。この記事でやるのは、月に1回、変更ログと依頼の記録を突き合わせて、「見るべき変更」だけを一覧にすることです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 会計システムからマスタ変更ログ(日付/マスタの種類/コード/変更の種類:追加・変更・削除/変更した項目/変更者)を月次で出す … 人。
(b) 変更依頼の記録(日付/依頼元/マスタの種類/内容/承認者)を集める … 人。
(c) ログと依頼を突き合わせ、①依頼のない変更、②振込先・支払条件の変更、③追加して同月に削除、④既存と似た名前の取引先の追加、を出す … AI。
(d) 出てきた変更が妥当かを確かめる … 担当者と上司。
(e) 依頼のない変更が続くなら、変更できる人と手順を見直す … 責任者。

ここはAIを使わない

変更が妥当だったかを決めること。「依頼のない変更」は、依頼の記録が漏れているだけかもしれないし、緊急で口頭だったかもしれません。妥当かどうかは、変更した人に聞いて、上司が確かめます。それから、振込先の口座番号などの中身はAIに渡しません。渡すのは「振込先の項目が変わった」という事実と日付・変更者の職位だけ。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 変更ログと変更依頼の突き合わせ(依頼のない変更・変更のない依頼)
  • 振込先・支払条件など「支払に影響する項目」の変更の抽出
  • 追加して同月に削除された行、既存と似た名前の取引先の追加の抽出
  • 月次の一覧の書式(見るべき変更/確認者/確認結果)
人が判断する
  • 変更が妥当だったかの確認(変更者に聞く・依頼元に聞く)
  • 似た名前の取引先が同じ会社かどうか
  • 使っていない科目・部門を止めるかどうか
  • マスタを変更できる人と手順の見直し(責任者)

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― ログと依頼の記録

変更ログは、口座番号など中身の値を落として、「どの項目が変わったか」だけ残します。取引先は記号でもよいのですが、似た名前の抽出には名前が要るので、取引先名は残します(社内ルールで確認)。変更者は職位。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。渡すのは変更ログの項目名と依頼の記録だけで、口座番号などの値は渡しません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。会計システムのマスタ変更ログと変更依頼の記録を月次で突き合わせ、確認すべき変更を一覧にしたいと考えています。読み手は私と上司です。 【事実/入力】 ・以下に、今月のマスタ変更ログ(日付/マスタの種類/コード/名前/変更の種類/変更した項目名/変更者の職位)を貼ります(約120件。値は含みません) ・以下に、今月の変更依頼の記録(日付/依頼元の部門/マスタの種類/内容/承認者の職位)を貼ります(約90件) ・以下に、既存の取引先マスタの名前一覧を貼ります(約800件) ・変更が妥当かどうかは、私と上司が確かめます 【依頼】 ①変更ログのうち、対応する依頼が見つからない変更を出してください ②依頼のうち、対応する変更ログが見つからない依頼を出してください ③変更した項目名が「振込先」「支払条件」「支払サイト」のいずれかである変更を出してください ④追加して同月内に削除されたコードと、追加された取引先の名前が既存の名前と表記だけ違うものを出してください 【出力の型】 ①②:表:日付/マスタの種類/コード/名前/変更の種類/依頼または変更が見つからない旨 ③:表:日付/コード/名前/項目名/変更者の職位/依頼の有無 ④:表:追加日/コード/名前/似ている既存の名前/違いの種類(法人格・全角半角・英字など) 【禁止事項】 ・変更の意図や不正の可能性について書かないでください ・特定の変更者を評価する記述を入れないでください ・貼っていない変更や依頼を推測で足さないでください

往復1回目 ― AIが「不正の可能性」と書いた

AIの初稿

③で振込先の変更が4件、うち1件は①にも該当(依頼が見つからない)。その行に「依頼なしの振込先変更は不正リスクが高く、早急な調査を推奨」と付いていた。

ここが問題

依頼なしの振込先変更を出したのは、これが見たかったもの。「不正リスク」「早急な調査」は意図の推測で、依頼の記録が漏れていただけの可能性が高い。禁止事項に書いていてもこうなります。この一言が一覧に残ると、変更者への聞き方が変わってしまいます。

追加で出した指示

「意図やリスクの記述を削除し、③は事実の表だけにしてください。」

修正版

①は7件、②は3件、③は4件、④は追加即削除が2件と似た名前が5組。

人が最後にやること

③の依頼なし1件を変更者に聞くと、取引先から電話で変更の連絡があり、その場で変えて、依頼の記録を残していなかったとのこと。取引先に折り返して口座を確かめ(支払前の確認の手順どおり)、記録を後から起こします。上司と、「振込先は電話では変えない。書面で受けて記録してから」を手順に足しました。

往復2回目 ― 似た名前の5組

AIの初稿

④の似た名前5組に、「重複登録のため、新しい方を削除して既存に統合することを推奨」と付いていた。

ここが問題

5組の抽出はよい。「削除して統合」はマスタの変更の判断で、既存の方が古い住所のまま止まっていて、新しい方が正しいのかもしれません。同じ会社かどうかも確かめていません。

追加で出した指示

「統合や削除の推奨を削除し、④は表だけにしてください。」

修正版

表だけになった。

人が最後にやること

5組のうち3組は同じ会社の重複。どちらを残すかは、支払実績のある方を残し、もう一方を「使用停止」にします(削除はしない。過去の仕訳が参照しているため)。2組は別会社(支店と本社)。決めたのは担当者と上司。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 会計システムから変更ログが出せない … 出せる範囲(更新日・更新者だけでも)から始めます。ログが出せないこと自体を責任者に伝えます。
  • 依頼の記録がメールに散っている … 「マスタ変更依頼」の件名か、依頼の型(1行)を決めて、まず来月から集めます。今月は突き合わせできる分だけ。
  • ①が多すぎる … 依頼の記録の方が漏れています。変更者に「変えるときは依頼を先に」を頼み、来月の①が減るかを見ます。
  • AIがまた意図や推奨を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 今月の変更ログのすべてに、依頼の記録か、確認済みの記録があるか。
  2. 振込先・支払条件の変更が、すべて上司の確認を通っているか。
  3. 似た名前の取引先が、「同じ・別」の確認済みになっているか。放置されていないか。
  4. 一覧に、AIの意図の推測や変更の推奨が混ざっていないか。

7. 注意点

口座番号などの値はAIに渡しません。渡すのは「どの項目が変わったか」と日付・職位だけ。取引先名を渡してよいかは社内ルールで確認してください。
「依頼のない変更」を、不正と決めつけません。記録の漏れがほとんど。変更者に聞き、上司が確かめます。
マスタの削除はしません。過去の仕訳が参照しています。止めるなら「使用停止」。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • マスタの変更が、月に1回、依頼と突き合わされて確認されます。
  • 振込先の変更が、支払のときだけでなく、変更の時点でも確認されます。
  • 似た名前の取引先が、増えた月のうちに見つかります。
  • 「依頼のない変更」の件数が、変更の手順が守られているかの目安になります。
明日の仕事で試すこと
  • 会計システムで、取引先マスタを「更新日が今月」で絞る
  • 1件ずつ、変更の依頼がどこにあるかを思い出す
  • 思い出せない変更が1つでもあれば、それが来月の一覧の最初の行

応用 ― 難易度を上げる場合

支払のときの振込先確認は支払う前に、二重払いと振込先の変更を自分で止める、グループ会社のコードの揃え方はグループ間取引の相手先コードと取引種類を、各社の帳簿で揃える対応表を作るへ。変更できる人の見直しは決裁基準(金額・承認者)と実際の承認記録を突き合わせ、基準と違う承認を出す。