決裁基準(金額・承認者)と実際の承認記録を突き合わせ、基準と違う承認を出す
決裁基準(金額の区分ごとの承認者)と、ワークフローの承認記録(申請/金額/承認者/承認日)を突き合わせ、「基準より低い職位で承認された」「承認者が空欄」「分割して基準を下回っている可能性」をAIに出させる方法です。突合はAI、原因の確認と扱いは上司・所管部門。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。支払と発注の承認は、ワークフローで行われています。決裁基準(金額の区分ごとに、課長・部長・役員のどこまで承認が要るか)は規程にあります。
- ワークフローの承認ルートは、申請者が選んでいる。基準より低い職位で承認が終わっていても、システムは止めない。
- 監査法人から「決裁基準どおりに承認されているか、確かめていますか」と聞かれた。確かめていない。ワークフローがあるから大丈夫だと思っていた。
- 同じ相手への発注が、同じ月に何回も分かれている。合計すると基準を超える。意図的かどうかは分からない。
- 承認者が「代理」になっている記録がある。誰の代理で、権限があるのか、記録から読めない。
基準と違う承認をどう扱うかは、上司と所管部門の話。この記事でやるのは、決裁基準と承認記録を突き合わせ、基準と違う承認の候補を出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 決裁基準を表にする … 対象(発注・支払・契約)/金額の区分/必要な承認者の職位。規程から。
(b) 承認記録を出す … 申請番号/対象/相手記号/金額/承認者の職位/承認日/代理の有無。ワークフローから。
(c) 突き合わせる … 金額の区分に対して承認者の職位が足りない/承認者が空欄/代理の承認/同じ相手・同じ月で分割されている可能性。AI。
(d) 出た候補の原因を確かめ、扱いを決める … 人。上司・所管部門と。
基準と違う承認を「不正」「違反」と決めること。AIは「決裁権限の逸脱です」と書きますが、代理承認の取り決めがあったり、緊急時の事後承認が規程で認められていたりします。扱いは上司と所管部門が、規程と事情を見て決めます。それから、分割発注が「意図的」かどうかもAIには分かりません。分かれている事実を出すまで。原因は申請者と発注部門に聞きます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 決裁基準の表と承認記録を突き合わせ、職位が足りない承認・承認者空欄・代理承認を出す
- 同じ相手・同じ月の申請を合計し、合計が基準の区分を超える組み合わせを出す
- 月次の一覧の型に整える(件数・金額の集計つき)
- 申請者・承認者への確認文の下書き
- 候補の原因(代理の取り決め、事後承認、システムの設定)
- 基準と違う承認の扱い(上司・所管部門)
- 分割の意図(申請者・発注部門に聞く)
- ワークフローの設定を変えるかどうか
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 決裁基準と承認記録
決裁基準の表(規程から転記)と、今月の承認記録(ワークフローからExcelに出力。相手は記号、金額は千円単位、承認者は職位のみで氏名は不要)。
往復1回目 ― AIが「逸脱」と書いた
①の表の見出しが「決裁権限の逸脱一覧」になっていて、各行に「重大」「軽微」の列が付いていた。
「逸脱」も「重大・軽微」も評価です。代理承認の取り決めがあれば逸脱ではないし、重大かどうかは金額だけでは決まりません。この見出しのまま上司に渡すと、確認する前に「逸脱が○件」が独り歩きします。禁止事項に書いていてもこうなります。
「見出しを『基準と違う承認の候補』にし、『重大・軽微』の列と評価語をすべて削除してください。」
候補は、職位不足4件、空欄1件、代理承認6件。②は2組(同じ相手に同じ月に3回、合計が上の区分に入る)。
職位不足4件の申請を見ます。この架空例では、3件はワークフローのルート選択の誤り(本人が気づかず低いルートを選んだ)、1件は緊急の事後承認で、規程の手続きどおりでした。3件は事後に正しい職位の承認を取り直し、ルート選択をシステムで制限するかを所管部門と相談します。
往復2回目 ― 分割の候補
②の2組のうち1組に「意図的な分割発注の可能性があります」と付いていた。
意図はAIには分かりません。同じ相手への3回の発注が、3つの別案件なら分割ではありません。「意図的」が残ると、申請者を疑うところから会話が始まります。
「意図に関する記述を削除し、組み合わせと合計の事実だけにしてください。」
事実だけになった。
2組の申請者に、「3件は同じ案件ですか、別ですか」と事実を聞きます。この架空例では、1組は別案件、1組は同じ案件を月内に追加発注したものでした。後者は、追加発注の承認ルートをどうするかを所管部門と決めます。疑うのではなく、ルールの穴を埋める。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 承認記録に職位がなく、氏名しかない … 氏名と職位の対応表を人事からもらい、経理で職位に置き換えてから貼ります。氏名はAIに渡さない。
- 決裁基準が対象ごとに複雑 … 対象を1つ(支払だけ)に絞って始めます。慣れたら発注・契約に広げます。
- 代理承認が多すぎる … 代理の取り決め(誰が誰の代理になれるか)を所管部門に確認し、取り決めの範囲内かどうかを表の列に足します。
- AIがまた評価語を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 一覧に「違反」「逸脱」「意図的」の語が残っていないか。
- 候補の全件について、原因を確かめ、扱いを上司・所管部門と決めたか。
- 職位不足の承認について、取り直しか、規程どおりの事後承認かが記録されているか。
- 監査法人の「基準どおりに承認されているか」に、月次の一覧で答えられたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「ワークフローがあるから大丈夫」が、「毎月突き合わせて、候補○件を確認した」になります。
- ルート選択の誤りが、システムの制限か運用の変更で減ります。
- 追加発注・代理承認のような「ルールの穴」が、所管部門と埋められます。
- 月次の一覧が、監査法人への説明資料になります。
- 決裁基準の表を、対象1つ(支払)だけ書き出す
- 今月の承認記録から、金額の大きい順に5件を選び、承認者の職位が基準を満たしているか見る
- 満たしていない件があれば、申請者に「ルートはどう選びましたか」と聞く
応用 ― 難易度を上げる場合
規程の間の食い違いは経理に関わる規程(経理・購買・旅費・与信)の間で矛盾している箇所を洗い出す、規程と実務のずれは経理規程と実務のずれを、規程の条文ごとに点検するへ。毎月同じ突合なら、①②の抽出はPythonにさせてよいです(AI製ツールの運用)。原因の確認は変わらず人。