監査対応・内部統制 › 規程整備活用案

決裁基準(金額・承認者)と実際の承認記録を突き合わせ、基準と違う承認を出す

決裁基準(金額の区分ごとの承認者)と、ワークフローの承認記録(申請/金額/承認者/承認日)を突き合わせ、「基準より低い職位で承認された」「承認者が空欄」「分割して基準を下回っている可能性」をAIに出させる方法です。突合はAI、原因の確認と扱いは上司・所管部門。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。支払と発注の承認は、ワークフローで行われています。決裁基準(金額の区分ごとに、課長・部長・役員のどこまで承認が要るか)は規程にあります。

  • ワークフローの承認ルートは、申請者が選んでいる。基準より低い職位で承認が終わっていても、システムは止めない。
  • 監査法人から「決裁基準どおりに承認されているか、確かめていますか」と聞かれた。確かめていない。ワークフローがあるから大丈夫だと思っていた。
  • 同じ相手への発注が、同じ月に何回も分かれている。合計すると基準を超える。意図的かどうかは分からない。
  • 承認者が「代理」になっている記録がある。誰の代理で、権限があるのか、記録から読めない。

基準と違う承認をどう扱うかは、上司と所管部門の話。この記事でやるのは、決裁基準と承認記録を突き合わせ、基準と違う承認の候補を出すことです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 決裁基準を表にする … 対象(発注・支払・契約)/金額の区分/必要な承認者の職位。規程から。
(b) 承認記録を出す … 申請番号/対象/相手記号/金額/承認者の職位/承認日/代理の有無。ワークフローから。
(c) 突き合わせる … 金額の区分に対して承認者の職位が足りない/承認者が空欄/代理の承認/同じ相手・同じ月で分割されている可能性。AI。
(d) 出た候補の原因を確かめ、扱いを決める … 人。上司・所管部門と。

ここはAIを使わない

基準と違う承認を「不正」「違反」と決めること。AIは「決裁権限の逸脱です」と書きますが、代理承認の取り決めがあったり、緊急時の事後承認が規程で認められていたりします。扱いは上司と所管部門が、規程と事情を見て決めます。それから、分割発注が「意図的」かどうかもAIには分かりません。分かれている事実を出すまで。原因は申請者と発注部門に聞きます。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 決裁基準の表と承認記録を突き合わせ、職位が足りない承認・承認者空欄・代理承認を出す
  • 同じ相手・同じ月の申請を合計し、合計が基準の区分を超える組み合わせを出す
  • 月次の一覧の型に整える(件数・金額の集計つき)
  • 申請者・承認者への確認文の下書き
人が判断する
  • 候補の原因(代理の取り決め、事後承認、システムの設定)
  • 基準と違う承認の扱い(上司・所管部門)
  • 分割の意図(申請者・発注部門に聞く)
  • ワークフローの設定を変えるかどうか

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 決裁基準と承認記録

決裁基準の表(規程から転記)と、今月の承認記録(ワークフローからExcelに出力。相手は記号、金額は千円単位、承認者は職位のみで氏名は不要)。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。承認者は氏名ではなく職位、相手は記号、金額は千円単位にして貼ります。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。決裁基準と今月の承認記録を突き合わせ、基準と違う承認の候補を出して、上司と所管部門に確認したいと考えています。読み手は私・上司・所管部門です。 【事実/入力】 ・以下に、決裁基準(対象/金額の区分/必要な承認者の職位)を貼ります ・以下に、今月の承認記録(申請番号/対象/相手記号/金額/承認者の職位/承認日/代理の有無、千円単位)を貼ります ・候補の扱いは、上司と所管部門が決めます 【依頼】 ①各申請について、金額の区分に対して承認者の職位が基準を満たしているかを判定し、満たしていない申請、承認者が空欄の申請、代理承認の申請を出してください ②同じ相手記号・同じ月の申請を合計し、合計が単独では基準の上の区分に入る組み合わせを出してください 【出力の型】 ①表:申請番号/対象/金額/金額の区分/必要な職位/実際の職位/種類(職位不足・空欄・代理) ②表:相手記号/申請番号(複数)/各金額/合計/合計が入る区分 【禁止事項】 ・「違反」「不正」「逸脱」という評価語を使わないでください ・分割の意図や原因を推測して書かないでください ・私が貼っていない申請を足さないでください

往復1回目 ― AIが「逸脱」と書いた

AIの初稿

①の表の見出しが「決裁権限の逸脱一覧」になっていて、各行に「重大」「軽微」の列が付いていた。

ここが問題

「逸脱」も「重大・軽微」も評価です。代理承認の取り決めがあれば逸脱ではないし、重大かどうかは金額だけでは決まりません。この見出しのまま上司に渡すと、確認する前に「逸脱が○件」が独り歩きします。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「見出しを『基準と違う承認の候補』にし、『重大・軽微』の列と評価語をすべて削除してください。」

修正版

候補は、職位不足4件、空欄1件、代理承認6件。②は2組(同じ相手に同じ月に3回、合計が上の区分に入る)。

人が最後にやること

職位不足4件の申請を見ます。この架空例では、3件はワークフローのルート選択の誤り(本人が気づかず低いルートを選んだ)、1件は緊急の事後承認で、規程の手続きどおりでした。3件は事後に正しい職位の承認を取り直し、ルート選択をシステムで制限するかを所管部門と相談します。

往復2回目 ― 分割の候補

AIの初稿

②の2組のうち1組に「意図的な分割発注の可能性があります」と付いていた。

ここが問題

意図はAIには分かりません。同じ相手への3回の発注が、3つの別案件なら分割ではありません。「意図的」が残ると、申請者を疑うところから会話が始まります。

追加で出した指示

「意図に関する記述を削除し、組み合わせと合計の事実だけにしてください。」

修正版

事実だけになった。

人が最後にやること

2組の申請者に、「3件は同じ案件ですか、別ですか」と事実を聞きます。この架空例では、1組は別案件、1組は同じ案件を月内に追加発注したものでした。後者は、追加発注の承認ルートをどうするかを所管部門と決めます。疑うのではなく、ルールの穴を埋める。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 承認記録に職位がなく、氏名しかない … 氏名と職位の対応表を人事からもらい、経理で職位に置き換えてから貼ります。氏名はAIに渡さない。
  • 決裁基準が対象ごとに複雑 … 対象を1つ(支払だけ)に絞って始めます。慣れたら発注・契約に広げます。
  • 代理承認が多すぎる … 代理の取り決め(誰が誰の代理になれるか)を所管部門に確認し、取り決めの範囲内かどうかを表の列に足します。
  • AIがまた評価語を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 一覧に「違反」「逸脱」「意図的」の語が残っていないか。
  2. 候補の全件について、原因を確かめ、扱いを上司・所管部門と決めたか。
  3. 職位不足の承認について、取り直しか、規程どおりの事後承認かが記録されているか。
  4. 監査法人の「基準どおりに承認されているか」に、月次の一覧で答えられたか。

7. 注意点

承認記録には申請者・承認者の氏名が入ります。職位に置き換え、相手は記号、金額は千円単位。社内ルールで確認してください。
「基準と違う」を「不正」と決めません。原因を確かめ、扱いは上司と所管部門。
一覧は、人を疑うためではなく、ルールの穴を埋めるためのものです。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 「ワークフローがあるから大丈夫」が、「毎月突き合わせて、候補○件を確認した」になります。
  • ルート選択の誤りが、システムの制限か運用の変更で減ります。
  • 追加発注・代理承認のような「ルールの穴」が、所管部門と埋められます。
  • 月次の一覧が、監査法人への説明資料になります。
明日の仕事で試すこと
  • 決裁基準の表を、対象1つ(支払)だけ書き出す
  • 今月の承認記録から、金額の大きい順に5件を選び、承認者の職位が基準を満たしているか見る
  • 満たしていない件があれば、申請者に「ルートはどう選びましたか」と聞く

応用 ― 難易度を上げる場合

規程の間の食い違いは経理に関わる規程(経理・購買・旅費・与信)の間で矛盾している箇所を洗い出す、規程と実務のずれは経理規程と実務のずれを、規程の条文ごとに点検するへ。毎月同じ突合なら、①②の抽出はPythonにさせてよいです(AI製ツールの運用)。原因の確認は変わらず人。