AIに下書きさせた社外向けの文書を、送る前に「事実・約束・数字」の3点で人が確かめる
取引先への通知(支払条件の変更、請求書の書式の依頼、残高確認の依頼など)をAIに下書きさせたあと、送る前に「書いてある事実は正しいか」「こちらが約束したことになる文がないか」「数字・日付・名前は元資料と一致するか」の3点を、必ず人が元資料と突き合わせて確かめる手順を型にする方法です。下書きはAI、3点の確認は担当者、送る判断は責任者。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。取引先への通知や依頼の文書を、チャット型AIに下書きさせるようになりました。速い。丁寧。でも、こんなことがありました。
- 支払条件の変更の通知に、「今後は月末締め翌月末払いといたします」と書かれていたが、実際は翌々月末だった。AIが「一般的な条件」で埋めていた。送ってから気づいた。
- 請求書の書式の依頼に、「ご対応いただければ、手数料は当社が負担いたします」と書かれていた。誰もそんな約束をしていない。
- 残高確認の依頼に、こちらの残高の数字が入っていたが、1桁違っていた。AIに渡した数字を、AIが丸めていた。
- 「AIが書いたから」と、誰も元資料と突き合わせていなかった。
AIに下書きさせるのをやめる話ではありません。この記事でやるのは、送る前に人が確かめる3点を型にして、毎回同じように確かめることです(表の3点照合の文書版)。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 確かめる3点を決める … ①事実(書いてある事実は、元資料〈契約・社内決定・マスタ〉と一致するか)、②約束(「〜いたします」「〜負担します」など、こちらの義務になる文が、決めたこと以外に入っていないか)、③数字・日付・名前(元資料と1文字ずつ一致するか)。
(b) 3点を確かめる手順書と、確認の記録の型を作る … AI。
(c) 下書きの各文について、①②③を元資料と突き合わせる … 担当者。
(d) 3点のどれかが合わなければ、直して、もう一度3点 … 担当者。
(e) 送る判断 … 責任者。取引先との条件に関わる文書は必ず。
3点の確認そのもの。AIが書いた文書を、そのAIに「約束が入っていないか確かめて」と頼んでも、確かめたことになりません。元資料を開いて、人が1文ずつ読みます。それから、AIに渡すのは、置き換えた事実だけ。取引先名は記号、金額は記号か丸め。下書きに戻すのは人。送る判断は責任者。特に、支払条件・値引き・負担の話が入る文書は、担当者だけで送りません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 文書の下書き(置き換えた事実から)
- 3点を確かめる手順書と、確認の記録の型(文書名/元資料/①②③の結果/確認者/送付の承認者/日付)
- 「約束になりやすい言い回し」の一覧(「〜いたします」「〜負担」「〜保証」など、②で探す語)
- 文書の種類ごとの「元資料は何か」の対応表
- 3点の確認(担当者、元資料を開いて)
- 置き換えた記号・数字を戻す作業
- 送る判断(責任者)
- 約束が必要な場合、その約束を誰が決めたかの確認
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 手順書を作るための情報
AIに渡すのは、社外向け文書の種類(支払条件の変更通知、請求書の書式依頼、残高確認の依頼、督促、など)と、3点の定義だけ。実際の文書と取引先の情報は渡しません。
往復1回目 ― AIが「省略してよい場合」を書いた
手順書の末尾に「定型の文書(残高確認の依頼など)で、数字が含まれない場合は③を省略できます」とあった。
手順と対応表は使えるものでした。「省略できます」は3点を軽くする記述で、残高確認の依頼には日付と取引先名が必ず入るので、③が要らない文書はありません。禁止事項に書いていてもこうなります。
「省略に関する記述を削除し、手順書の先頭に『3点のどれかが合わない文書は送らない』の1行を書いてください。」
先頭に1行。①は、元資料を開く→③を1文字ずつ→②を言い回しの一覧で探す→①を文ごとに、の順。③の言い回しは「〜いたします」「〜負担いたします」「〜保証いたします」「〜対応いたします」「〜可能です」など14種類。
手順書を上司と読み、「②で見つかった約束は、削除するか、誰がその約束を決めたかを記録に書く」を足します。約束が必要な文書もあるので、消すだけでは足りない。この追記はAIの手順にはありませんでした。
往復2回目 ― 「対応いたします」
③の言い回しの一覧で、「〜対応いたします」に「丁寧な結びの定型句であり、通常は約束とみなされません」と注が付いていた。
この会社で実際に問題になったのは、「ご対応いただければ、手数料は当社が負担いたします」で、結びの定型句として読み流されました。「通常は約束とみなされない」は、②を軽くする方向の注です。
「『通常は約束とみなされない』の注を削除し、一覧のすべての言い回しを『見つけたら、約束かどうかを人が判断する』の扱いにしてください。」
注が消え、一覧は「言い回し/なぜ約束になりやすいか」だけになった。
この型で、今週送る予定の支払条件の変更通知を確かめます。③で、支払サイトの日付が社内決定と違う。AIが「一般的な条件」で埋めていた。直して、もう一度3点。責任者が承認して送ります。記録に「③不一致→修正」と残します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 元資料が何か分からない文書 … 元資料がない文書は、事実の確認ができません。送る前に、何を根拠に書いているかを責任者と確かめます。
- 約束が必要な文書(こちらが負担すると決めた) … 決めた人と決めた日を記録に書きます。約束そのものは消しません。
- 急いでいて3点をやる時間がない … 3点は5分。5分がない文書は、送ってからの訂正に半日かかります。
- AIがまた「省略できる」「通常は」と書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- AIに下書きさせた社外向け文書すべてに、3点の確認の記録があるか。
- 3点のどれかが合わなかった文書が、直される前に送られていないか。
- 約束の文が残っている文書に、決めた人と日付の記録があるか。
- 手順書に、3点を軽くする記述が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- AIの下書きを送る前の確認が、人によらず同じ3点になります。
- 「一般的な条件」で埋められた数字や、書いていない約束が、送る前に見つかります。
- 約束が入る文書に、誰が決めたかが残ります。
- 3点が合わなかった記録が、AIへの指示の直し方の元になります。
- 最近AIに下書きさせて送った文書を1通開く
- 「〜いたします」「〜負担」「〜可能です」を探し、それが決めたことかを自分に聞く
- 数字と日付を、元資料と1文字ずつ比べる。1つでも違えば、それが3点を型にする理由
応用 ― 難易度を上げる場合
表の3点照合はAIが作った表を使う前に、元データと「件数・合計・抜き取り」の3点で確かめる手順を型にする、確認の記録はAIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残すへ。督促の文案は滞留債権の年齢調べを行い、督促文案を用意する。