AIに渡す前の置き換え(記号化・丸め・削除)を、資料の種類ごとの手順にする
経理でAIに渡すことの多い資料(試算表・仕訳・取引先一覧・契約書・給与関連)ごとに、「どの列を記号に置き換え、どの列を丸め、どの列を削除するか」の手順を1枚ずつ作り、置き換え後の見本を添える方法です。手順の下書きと見本はAI、置き換えの判断と全社ルールとの整合は人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。経理部のAI利用ルール(1枚)で「取引先名は記号に、金額は千円単位に」と決めました。ただ、実際にやってみると、人によって違います。
- 「記号に」の記号が、人によって違う。Aさんは「取引先1・2・3」、Bさんは「甲・乙」、Cさんは頭文字。同じ取引先が別の記号になり、あとで戻せない。
- 「丸める」の単位が違う。千円と百万円。丸めた結果、突き合わせができなくなった資料もある。
- 試算表を貼るときに、科目名はそのままでよいのか、部門コードは消すのか、誰も決めていない。
- 置き換えに時間がかかり、「面倒だからそのまま貼る」が起きかけている。
何を貼ってよいかは全社規程と1枚のルールの話。この記事でやるのは、資料の種類ごとに「どう置き換えるか」の手順を作り、置き換えを速く・揃えることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) AIに渡すことの多い資料の種類を挙げる … 試算表、仕訳データ、取引先の一覧、契約書の条項、支払一覧、給与・人事に関わる資料。
(b) 種類ごとに、列(項目)を「そのまま/記号/丸める/削除」の4つに分ける … 人が決める(1枚のルールに従う)。
(c) 記号の付け方と、丸めの単位を1つに決める … 「取引先はT001から連番。対応表は経理の共有フォルダ」「金額は千円単位、突き合わせに使う資料はそのまま」。
(d) 種類ごとの手順書(1枚)と、置き換え後の見本を作る … AI(下書き)。
(e) 置き換えをExcelで半自動にする … 対応表と数式。
どの列を貼ってよいかを決めること。AIに「この資料のどの列が機密ですか」と聞くと、一般論で答えます。貴社の全社規程と、経理部の1枚のルールで決めます。それから、置き換えの作業そのものをAIにさせない。「この取引先一覧を記号化して」とAIに貼った時点で、記号化前の情報を渡しています。置き換えはExcel(対応表と数式)で、AIに渡す前に。AIに任せるのは、手順書の下書きと、架空のデータで作る見本まで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 人が決めた「そのまま/記号/丸める/削除」の分類から、資料の種類ごとの手順書(1枚)を下書きする
- 架空のデータで、置き換え前後の見本を作る
- Excelで置き換えを半自動にする数式(対応表の参照、丸め)の案を作る
- 手順書の間で、記号の付け方・丸めの単位が揃っているかを確かめる
- 列ごとの分類(全社規程・1枚のルールに照らして)
- 記号の付け方と対応表の管理場所
- 手順書の確定と、情報システム部門への確認
- 置き換えの実行(AIに渡す前にExcelで)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 資料の種類と、列の分類
資料の種類5つについて、列名と「そのまま/記号/丸める/削除」の分類を部内で決めます(30分)。AIには、列名と分類だけを渡します。実際のデータは渡しません。
往復1回目 ― AIが分類を「緩めた」
取引先一覧の手順で、部内が「削除」と決めた「担当者名」の列が「記号(担当者A・B)で可」に変わっていた。「業務上必要な場合があるため」と注記があった。
分類は部内が全社規程に照らして決めたもので、AIが緩めてよいものではありません。「業務上必要」はAIの推測。この手順書が配られると、担当者名がAIに渡り始めます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「分類を部内で決めたとおりに戻してください。分類に関する注記や理由をすべて削除してください。」
分類どおりになった。③で「支払一覧の金額が『丸める』、仕訳データの金額が『そのまま』」と、同じ金額でも扱いが違う箇所が指摘された。
③の指摘は、意図した違い(支払一覧は候補出しに使うので丸めてよい、仕訳データは突き合わせに使うのでそのまま)でした。手順書に「なぜこの資料は丸めないか」を1行書きます。理由が書いてあれば、次の人が勝手に揃えません。
往復2回目 ― 見本に実在しそうな名前
②の見本の「置き換え前」に、実在しそうな会社名と人名が使われていた。
見本は架空でも、実在しそうな名前が手順書に載ると、それが本物だと誤解されるか、本物と混同されます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「見本の会社名は『サンプル商事A』『サンプル工業B』、人名は『担当者X』のように、明らかに架空と分かる表記にしてください。」
見本が明らかに架空の表記になった。
5枚の手順書と見本を、情報システム部門に見せて全社規程と矛盾しないか確認し、部長の承認を得て、1枚のルールの「別紙」として共有フォルダに置きます。置き換え用のExcel(対応表と数式)も同じ場所に。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 対応表(記号と実名)の管理が心配 … 対応表は経理の共有フォルダの、アクセスを絞った場所に置きます。AIには絶対に渡さない。対応表の場所と権限は情報システム部門と。
- 置き換えに時間がかかる … Excelの対応表と数式で半自動にします。それでも重い資料は、「そもそもAIに渡す必要があるか」を考えます。
- 新しい種類の資料をAIに渡したい … 手順書を1枚足します。分類は部内で決めてから。手順書がない資料は渡さない。
- AIがまた分類を緩める … 戻す。毎回。「分類は変えない」と最初に書いても出てきます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 手順書の分類が、部内で決めたとおりか(AIが緩めた箇所が残っていないか)。
- 見本に、実在しそうな名前が残っていないか。
- 部員が同じ資料を置き換えたとき、同じ記号・同じ単位になるか。3人で試す。
- 「面倒だからそのまま貼る」が起きていないか(半年後に聞く)。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「記号に」が、誰がやっても同じ記号・同じ単位になります。
- 置き換えが半自動になり、「面倒だからそのまま」がなくなります。
- 対応表が1か所で管理され、記号から実名に戻せます。
- 手順書が、1枚のルールの別紙として育ち、新しい資料の種類にも広がります。
- 自分がいちばんよくAIに渡す資料を1つ選び、列名を書き出す
- 各列を「そのまま/記号/丸める/削除」に自分で分けてみる
- 同僚と分け方が違う列があれば、それが部内で決めるべきこと
応用 ― 難易度を上げる場合
何を貼ってよいかの1枚のルールは経理部門のAI利用ルールを、1枚で決める、何を渡したかの記録はAIに何を渡したかの記録を、作業ごとに残す、確認の記録はAIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残すへ。考え方はAI時代のセキュリティとガバナンス。