AIを使った作業の「証跡セット」(指示・出力・確認の記録・元データの名前)を、監査法人に1件で説明できる形にする
AIを使った作業(集計・突合・下書き)について、監査法人や監査役に「この作業はAIをどう使い、誰がどう確かめたか」を1件ごとに説明できるよう、「作業の名前/AIへの指示(置き換え後)/AIの出力(要旨)/人が確かめた方法と結果/元データの名前と所在/確認者と日付」の証跡セットの型を作り、既にある記録(何を渡したか、誰が確かめたか)を1件にまとめる方法です。型と組み立てはAI、証跡の中身と説明は担当者と責任者、監査法人への提出は責任者。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。AIを使った作業について、何を渡したかと誰が確かめたかの記録は残しています。期末監査で、こう聞かれました。
- 「この集計はAIで作ったと聞きましたが、どう確認しましたか」記録はある。でも、渡したものの記録と確認の記録が別のファイルで、1件として説明できない。
- 「AIへの指示は残っていますか」チャットの履歴にはあるが、社外秘を置き換えた後の指示を、記録として保存していなかった。
- 「元データはどれですか」集計の元のExcelの名前を、記録に書いていない作業がある。
- 監査法人ごと、監査役ごとに、聞かれる形が違う。毎回、記録を集め直している。
監査法人が何を求めるかは協議の話。この記事でやるのは、既にある記録を「1件の証跡セット」の型にまとめて、聞かれたら1件で答えられるようにすることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 証跡セットの型を決める … 作業の名前と日付/AIへの指示(置き換え後の全文)/AIの出力(要旨、または保存したファイルの名前)/人が確かめた方法(3点照合など)と結果/元データの名前と所在/確認者(職位)と日付/使ったツールと契約の種類。
(b) 既にある2つの記録(渡したもの、確かめた人)を、作業ごとに1件に結びつける … AI(作業の名前と日付で突き合わせ)。
(c) 型の要素で、既存の記録にないもの(指示の全文、元データの名前)を出し、今後は作業のときに残す … AI(指摘)と担当者。
(d) 監査法人に「この型で残しています」と先に見せ、足りない要素があれば型に足す … 責任者。
(e) 会計の数字に関わる作業は、証跡セットを決算資料と一緒に保存する … 担当者。
証跡の中身を作ること、監査法人への説明、何を証跡にするかの最終判断。証跡は「実際にやったこと」の記録で、AIに後から作らせるものではありません(それは証跡の偽造です)。AIに任せるのは、型と、既存の記録の結びつけと、足りない要素の指摘だけ。それから、証跡セットに含める指示は置き換え後のもので、置き換え前の情報は含めません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 証跡セットの型(1件1枚の書式)
- 既存の2つの記録を作業ごとに結びつける
- 型の要素で既存の記録にないものの指摘(作業ごと)
- 監査法人に見せる「AIを使った作業の一覧と証跡の型」の書式
- 証跡の中身(実際にやったことの記録。担当者)
- 監査法人への説明と、型への追加(責任者と監査法人の協議)
- どの作業に証跡セットを残すか(会計の数字に関わる作業は必須、と責任者)
- 指示の全文を保存する運用の徹底
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 既存の2つの記録
「何を渡したか」の記録(日付/作業/渡したものの種類/置き換えの有無)と、「誰が確かめたか」の記録(日付/作業/確かめた方法/結果/確認者の職位)。渡した資料そのものと、置き換え前の情報は渡しません。
往復1回目 ― AIが「証跡」を作った
③で「指示の全文」が埋まらない作業が多かったため、AIが「一般的な指示の例」として、作業ごとに指示の文を生成して埋めていた。
これは証跡の偽造です。実際に出した指示ではないものが「指示の全文」に入ると、監査法人に嘘の記録を見せることになります。禁止事項に書いていてもこうなります。この一点は、どんな理由でも許されません。
「生成した指示をすべて削除し、③は『埋まらない要素』の指摘だけにしてください。証跡の中身は一切作らないでください。」
①は7要素の書式。②は両方にある作業が110件、渡した記録だけが40件、確かめた記録だけが10件。③は指示の全文が埋まらないのが全件、元データの名前が埋まらないのが60件。④は書式。
指示の全文は、今期の分はチャットの履歴から担当者が実際の指示をコピーして保存します(置き換え後のもの)。履歴が消えているものは「指示の記録なし」と正直に書きます。来期は作業のときに保存する運用に。
往復2回目 ― 「監査上の扱い」
④の書式の下に、「この型で証跡を残していれば、監査法人はAIの利用を統制されたものと評価するはずです」と付いていた。
監査法人がどう評価するかは、監査法人が決めることで、AIが「はずです」と言うことではありません。この一言を信じて、監査法人との協議を省くと困ります。
「監査上の評価に関する記述を削除してください。」
書式だけになった。
責任者が監査法人に、④の一覧と①の型を見せて、「この型で足りますか」を聞きます。監査法人から「出力の保存も」と言われ、型に「出力のファイル名」を必須に。決めたのは監査法人との協議。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- チャットの履歴が消えていて、指示が復元できない … 「記録なし」と書きます。復元したふりをしません。来期からの運用を示すことが、正直な対応。
- 作業が多くて全部に証跡セットを残せない … 会計の数字に関わる作業(仕訳・集計・突合)は必須、文書の下書きは任意、と責任者が線を引きます。
- 監査法人ごとに求める形が違う … 型は1つにして、見せ方(一覧の並べ方)を変えます。中身は同じ。
- AIがまた証跡を生成する、評価を書く … 削除。毎回。証跡の生成は特に。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 会計の数字に関わるAI作業のすべてに、証跡セットがあるか。ないものは「記録なし」と明示されているか。
- 証跡セットの指示・出力・確認が、実際にやったことと一致しているか。後から作ったものが混ざっていないか。
- 監査法人に「どう確認しましたか」と聞かれて、1件で答えられたか。
- 型が、監査法人との協議で確かめられているか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「どう確認しましたか」に、証跡セット1枚で答えられます。
- 散っていた2つの記録が、作業ごとに1件になります。
- 指示の全文と元データの名前が、作業のときに残るようになります。
- 監査法人・監査役に「AIをどう使い、どう確かめているか」を型で示せます。
- 最近AIを使った会計の数字に関わる作業を1つ選ぶ
- 「指示の全文/出力/確かめた方法/元データの名前/確認者」の5つが、今すぐ集められるか試す
- 集められないものが、今日から残す要素
応用 ― 難易度を上げる場合
渡したものの記録はAIに何を渡したかの記録を、作業ごとに残す、確かめた人の記録はAIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残すへ。出力の確認はAIが作った表を使う前に、元データと「件数・合計・抜き取り」の3点で確かめる手順を型にする。