貸倒引当金の計算に使う債権の区分を、前期から変わった先だけ確認する
貸倒引当金の計算の元になる「取引先ごとの債権の区分」について、前期の一覧と今期の一覧を並べ、区分が変わった先・新規の先・滞留が延びた先をAIに出させる方法です。区分の判定と引当の方法は基準の原文と監査法人、AIには区分も金額も決めさせません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。決算で貸倒引当金を計算します。取引先ごとに債権を区分し、区分ごとに決めた方法で見積もる、というExcelが前任者から引き継がれています。
- 取引先の区分が、去年のコピーのまま。去年「通常」だった先が、今年は支払が3か月遅れている。区分を見直したかどうか、誰も確かめていない。
- 新しい取引先が、区分の欄が空のまま計算に入っている。Excelの数式が「空欄=通常」として扱っている。
- 監査法人から「区分を変えた先とその理由を示してください」と言われた。変えた先があるのかどうかから分からない。
- 「区分」の判定基準は、基準と社内ルールにある。それを1件ずつ当てる前に、まず「変わった先はどこか」を知りたい。
区分の判定と引当の方法は、基準と監査法人の話。この記事でやるのは、その前段の「前期から変わった先を、確認の候補として出す」ことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 前期の一覧を出す … 取引先記号/債権残高/区分/滞留期間/区分を決めた根拠(メモ)。
(b) 今期の一覧を出す … 同じ列。区分はまだ去年のコピー。
(c) 前期と今期を並べ、次の先を出す … 区分が変わった先/新規の先(区分が空欄)/滞留期間が延びた先/残高が大きく増えた先。AI。
(d) 出た先について、区分を人が判定し、根拠をメモに書く … 判定は基準の原文と社内ルール、迷えば監査法人。
(e) 一覧を監査法人に渡す … 引当の方法・金額は監査法人と。
区分の判定と、引当の金額。AIに「この先は支払が3か月遅れているので区分を変えるべきですか」と聞くと、基準の用語で答えます。しかし、その先の実態(一時的な資金繰りか、経営の悪化か、こちらの請求ミスか)は、営業と話した人にしか分かりません。区分は、実態を知る人が基準の原文と社内ルールに照らして決め、迷えば監査法人と。AIに任せるのは、「変わった先」「新規の先」「滞留が延びた先」を出すまで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 前期と今期の一覧を並べ、区分が変わった先・新規の先・滞留期間が延びた先・残高が大きく増えた先を出す
- 区分が空欄の先を別に列挙する
- 営業に「この先の支払状況」を聞く質問文の下書き
- 監査法人に渡す「区分の変更一覧(先/前期の区分/今期の区分/根拠)」の型に整える
- 各先の実態(営業に聞く)
- 区分の判定と根拠の記録(基準の原文・社内ルール・監査法人)
- 引当の方法と金額(監査法人と)
- 空欄の先の区分
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 前期と今期の一覧
前期末と今期末の取引先別一覧(取引先記号/債権残高/区分/最長滞留月数/区分の根拠メモ)。取引先名は記号、金額は千円単位。
往復1回目 ― AIが区分を「提案」した
①に「推奨区分」の列が付き、滞留が延びた先Kに「滞留6か月のため区分を『懸念』に変更を推奨」と書かれていた。
「推奨」は判定です。滞留6か月の理由が、こちらの請求書の不備で相手が支払を止めていただけなら、区分を変える話ではありません。この列が監査法人向けの一覧に残ると、「経理が懸念と判定した」ことになります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『推奨区分』の列と、区分の変更に関する記述をすべて削除してください。①は事実の表、②は質問文だけにしてください。」
①は7先(滞留が延びた3先、新規で空欄の3先、残高2倍の1先)。区分が変わった先は0(去年のコピーなので当然)。
7先の営業担当に、質問文を送ります。先Kは「先方の検収担当が変わり、請求書の再発行を求められていた。再発行済みで来月入金予定」でした。実態を聞いてから、区分をどうするかを基準と社内ルールに照らして決め、根拠メモに書きます。迷う先は監査法人と。
往復2回目 ― 空欄の先
区分が空欄の新規3先について、「空欄はExcelの数式上『通常』として計算されている可能性があります。確認してください」と付いていた。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。Excelを見ると、空欄が「通常」の率で計算されていました。新規3先は、誰も区分を決めないまま引当が計算されていた。追加の指示は出しません。
新規3先の区分を、契約時の与信の記録と営業の話をもとに決め、根拠メモに書きます。Excelの「空欄=通常」の数式は、空欄ならエラーが出るように直します。来年、同じことが起きないように。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 前期の一覧に「区分の根拠メモ」がない … 今期から書き始めます。前期の根拠は「不明(前任者判定)」として、今期の判定時に埋め直します。
- 取引先が多すぎる … 残高の大きい順に、上位で残高の8割を占める先だけ①をやります。残りは「まとめて確認」として上司と決めます。
- 営業が「問題ない」としか言わない … 「いつ、いくら入金予定か」を聞きます。日付と金額で答えられない「問題ない」は、根拠になりません。
- AIがまた区分を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 一覧に、AIの「推奨区分」や判定が残っていないか。
- ①で出た先すべてに、営業の回答と、人が書いた区分の根拠メモがあるか。
- 区分が空欄の先が0になったか。Excelの数式が空欄でエラーを出すようになったか。
- 監査法人の「区分を変えた先とその理由」に、一覧で答えられたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「区分は去年のコピー」が、「変わった先7件を確認し、根拠を書いた」になります。
- 新規の先が区分なしで計算される、という見えない漏れが止まります。
- 監査法人への説明が、一覧と根拠メモで済みます。
- 営業に「いつ・いくら入金予定か」を聞く習慣が、滞留の早期発見につながります。
- 貸倒引当金のExcelで、区分が空欄の取引先があるか数える
- 空欄が数式でどう扱われているかを見る
- 滞留がいちばん長い先について、営業に「いつ・いくら入金予定か」を聞く
応用 ― 難易度を上げる場合
滞留債権の年齢調べと督促は滞留債権の年齢調べを行い、督促文案を用意するへ。有価証券の時価についても同じ「前期と比べて変わった先」の型で、保有する有価証券の時価の「取り方」を、銘柄ごとの一覧にする。区分を決めた理由を残すには判断メモの4項目が使えます。