保有する有価証券の時価の「取り方」を、銘柄ごとの一覧にする
決算で使う有価証券の時価について、銘柄ごとに「時価の出所・取得日・取得者・前期と同じ出所か」を一覧にし、出所が変わった銘柄と出所が書けない銘柄を見つける方法です。一覧の整理はAI、時価の取得と評価・減損の判定は人と監査法人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。取引先の上場株式、業務提携先の非上場株式、余資運用の投資信託と社債を保有しています。決算のたびに、銘柄ごとの時価を集めて評価の資料を作ります。
- 時価をどこから取ったかが、銘柄ごとにばらばら。上場株は証券会社の残高報告書、投資信託は運用会社のサイト、社債は「去年と同じ先に聞いた」。誰に聞いたかは残っていない。
- 非上場株式は、相手先の決算書をもとに計算した数字を使っている。去年の担当者がどう計算したか、Excelはあるが説明がない。
- 監査法人から「この時価の根拠資料をください」と言われて、探すのに時間がかかる。去年出した資料が、今年どこにあるかわからない。
- ある銘柄の時価が前期から大きく下がっている。評価損の要否を考える前に、そもそも時価の出所が去年と同じかを確かめていない。
評価や減損の判定は、基準と監査法人の話。その前に、「どの銘柄の時価を、どこから、誰が、いつ取ったか」を一覧にするのが、この記事です。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 保有銘柄の一覧を作る … 銘柄記号/種類(上場株・非上場株・投資信託・社債)/帳簿価額。
(b) 銘柄ごとに「時価の出所」「取得日」「取得者」「根拠資料のファイル名」を書く … 人が書く。去年の資料から拾えるものは拾う。
(c) 前期の一覧と並べ、出所が変わった銘柄・出所が書けない銘柄を出す … AIにやらせる。
(d) 時価の変動が大きい銘柄を、監査法人との協議の候補にする … 評価・減損の判定は監査法人と。
時価そのものを取ること、評価損・減損の要否を判定すること。AIに「この銘柄の時価はいくらか」と聞いてはいけません(AIは市場データを持っておらず、もっともらしい数字を作ります)。時価は証券会社・運用会社・相手先の資料から人が取ります。それから、非上場株式の時価の計算方法と、評価損の要否は、基準の原文と監査法人と。AIに任せるのは、一覧の整理と、前期との違いの抽出まで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 今期の一覧と前期の一覧を並べ、「出所が変わった」「出所が空欄」「銘柄の増減」を出す
- 時価の変動率が大きい順に並べる(評価はしない)
- 監査法人に渡す「時価の根拠一覧」の形に整える
- 非上場株式の計算Excelの構造を説明する(何を入力に、何を計算しているか)
- 時価の取得(証券会社・運用会社・相手先の資料から)
- 出所が変わった銘柄について、変えた理由と妥当性(監査法人と)
- 非上場株式の計算方法(基準の原文と監査法人と)
- 評価損・減損の要否(監査法人と)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 今期と前期の一覧
今期の一覧(銘柄記号/種類/帳簿価額/時価/時価の出所/取得日/取得者/根拠資料名)と、前期の同じ一覧。銘柄名は記号、金額は千円単位。時価の出所が分からない銘柄は、空欄のまま。
往復1回目 ― AIが出所を補完した
①で、出所が空欄だった非上場株式Nの「今期の出所」が「(相手先の直近決算書に基づく純資産額と推定)」と埋まっていた。上場株式Aの空欄も「(取引所の終値)」になっていた。
空欄は「まだ確かめていない」という情報です。AIが「一般的にはこう」で埋めると、確かめる前に確かめた形になります。特に非上場株式は、計算の方法が銘柄ごとに違い得るので、推定で埋めるのがいちばん危ない。禁止事項に書いていてもこうなります。
「( )書きの推定をすべて削除し、空欄は空欄のままにしてください。空欄の銘柄は『状況:空欄』として別に列挙してください。」
空欄3銘柄(非上場株式N、社債B、投資信託T)が別に列挙された。出所が変わったのは2銘柄(社債Cが「証券会社X」→「証券会社Y」、投資信託Uが「運用会社サイト」→「証券会社の残高報告書」)。
空欄3銘柄の出所を、今期の資料から確かめて埋めます。出所が変わった2銘柄は、変えた理由を担当者に聞き、前期の出所と今期の出所で数字が違うかを見ます。この架空例では、社債Cは証券会社を変えただけで数字は同じ、投資信託Uは基準日が1日ずれていました。基準日のずれをどう扱うかは監査法人と。
往復2回目 ― 変動率の大きい銘柄
②で、非上場株式Nが変動率 −45% で最上位。行の末尾に「著しい下落に該当する可能性があり、減損の検討が必要です」と書かれていた。
変動率の抽出は正しく、Nを最初に見るべきなのはそのとおり。ただし「著しい下落」「減損の検討」は基準の用語を使った判定で、AIがしてよいものではありません。しかもNは出所が空欄だった銘柄。時価の取り方が去年と違えば、−45%自体が比較になっていません。
「判定や検討の要否に関する記述を削除してください。変動率の表だけにしてください。」
表だけになった。
Nについて、前期と今期の時価が同じ方法で計算されているかを先に確かめます。この架空例では、前期は相手先の決算書の純資産をそのまま、今期は担当者が独自に調整していました。方法が違えば変動率は意味を持ちません。計算方法を揃えたうえで、評価の要否を監査法人と協議します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 前期の一覧がない … 前期の評価資料と監査法人に出した根拠資料から、出所を逆に拾って前期の一覧を作ります。作れない銘柄は「前期の出所:不明」。
- 非上場株式の計算Excelが読めない … 前任者のExcelを渡されたが、どこを触っていいのかわからないときの型で、何を入力に何を計算しているかをAIに説明させます。計算方法の妥当性は監査法人と。
- 相手先から決算書が届かない … 「時価:未取得」と一覧に書き、監査法人に早めに伝えます。去年の数字を仮置きしません。
- AIがまた判定を書く … 削除。毎回。「基準の用語で評価しない」を最初に書いても出てきます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 一覧の「時価の出所」に、AIの推定が残っていないか。空欄か、人が確かめた出所か、のどちらかになっているか。
- 全銘柄に、根拠資料のファイル名が紐づいているか。監査法人に「根拠を」と言われて、ファイル名で即答できるか。
- 出所が変わった銘柄について、変えた理由と数字への影響を確かめたか。
- 変動率の大きい銘柄について、前期と同じ方法で時価が取れていることを確かめてから、監査法人と協議したか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「時価の根拠をください」に、一覧のファイル名で即答できます。
- 出所が変わった銘柄・計算方法が変わった銘柄が、評価の議論の前に見つかります。
- 非上場株式の「去年の担当者がどう計算したか」が、一覧と説明で引き継がれます。
- 監査法人との協議が、「時価はこう取りました。ここが変わりました」から始められます。
- 保有銘柄を種類ごとに数える(上場株・非上場株・投資信託・社債)
- 1銘柄だけ、去年の時価の根拠資料がどこにあるかを探す
- 見つからなければ、それが今年「出所:空欄」になる銘柄
応用 ― 難易度を上げる場合
「去年の資料と比べて変わったところを出す」型は税効果・減損の決算資料を、去年の資料と比べて変わった箇所を出す・年金数理の計算報告書を、前年と比べて「変わったところ」だけ読むと共通です。非上場株式の計算Excelを読む段階は前任者のExcelを渡されたが、どこを触っていいのかわからないときの型が使えます。債権の貸倒引当金についても同じ考え方で、貸倒引当金の計算に使う債権の区分を、前期から変わった先だけ確認するへ。