年次決算・開示 › 税効果活用案

税効果・減損の決算資料を、去年の資料と比べて変わった箇所を出す

去年の資料と今年の資料を並べ、「項目の増減」「数字の差」「前提の変更」を3つの表に分けて出し、出来事メモと突き合わせて「出来事があるのに資料が変わっていない」箇所を見つける方法です。差分を出すのはAI、「なぜ」は人、回収可能性・減損の要否は基準の原文と監査法人。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★★☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。決算のたびに、税効果の資料(一時差異の一覧、スケジューリング表、回収可能性の検討メモ)と、減損の資料(資産のグルーピング表、兆候の検討表)を作ります。去年のExcelをコピーして、今年の数字に直します。

  • 去年のファイルの「どこを直したか」が、直した本人にも分からなくなる。数式を上書きした箇所、手入力に変えた箇所。
  • 一時差異の項目が、去年と今年で増減しているはずだが、一覧で見えない。新しい引当金、消えた項目。
  • 減損のグルーピングが、去年と同じでいいのか、事業部の再編があったのに確かめていない。
  • 監査法人に「去年からの変更点を説明してください」と言われて、数字の差しか説明できない。「なぜ」が言えない。

やりたいのは、去年の資料と今年の資料を並べて、「項目の増減」「数字の差」「前提の変更」を分けて出すこと。回収可能性や減損の要否の判断は、この活用例では扱いません。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 去年と今年の資料を、同じ表の形にする … 項目名を揃える。
(b) 「項目の増減」を出す … 去年にあって今年にない、今年にあって去年にない。
(c) 「数字の差」を出す … 同じ項目の金額の差。大きい順。
(d) 「前提の変更」を出す … スケジューリングの年数、グルーピングの単位、将来の見積りの根拠。ここは資料の文言や注記から。
(e) (b)(c)(d)それぞれについて、「なぜ」を人が書く … 出来事メモ(決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出す)と突き合わせる。

ここはAIを使わない

回収可能性の判断、減損の要否の判断、そして「なぜ変わったか」の説明。AIに差分を見せて「この変更は妥当ですか」と聞くと答えますが、基準の原文と貴社の事実(事業計画、再編の内容)を照らした答えではありません。AIに任せるのは、差分を3種類に分けて出すまで。「なぜ」は、出来事メモを持っている人が書き、監査法人と協議する。それから、去年のファイルの数式を「直す」のもAIにさせない。差分を見て、人が直す。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 去年と今年の資料の項目名を揃え、同じ表にする
  • 項目の増減/数字の差(大きい順)/前提の変更(文言の差)を、3つの表に分けて出す
  • 出来事メモと突き合わせ、「出来事はあるのに資料に変化がない」「資料は変わっているのに出来事メモにない」を出す
人が判断する
  • 各差分の「なぜ」
  • 前提の変更が妥当か(監査法人と)
  • 回収可能性・減損の要否(基準の原文と監査法人と)
  • 資料の修正

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 去年と今年の資料、出来事メモ

去年と今年の一時差異の一覧(項目/金額)、スケジューリング表の前提(年数・区分)、減損のグルーピング表(グループ名/含まれる資産・事業)、兆候の検討表。金額は千円単位、事業名・資産名は記号に。出来事メモ。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。事業計画や将来見積りを含む資料なので、事業名・資産名は記号、金額は千円単位にして貼ります。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。税効果と減損の決算資料について、去年と今年の資料を比べて、変わった箇所を種類ごとに整理したいと考えています。読み手は私・上司・監査法人です。 【事実/入力】 ・以下に、去年と今年の一時差異の一覧(項目/金額、千円単位)を貼ります ・以下に、去年と今年のスケジューリング表の前提(年数・区分)と、減損のグルーピング表(グループ/含まれる事業記号)を貼ります ・以下に、今年あった出来事のメモを貼ります ・回収可能性や減損の要否の判断は、監査法人と別途協議します 【依頼】 ①項目の増減(去年のみ/今年のみ)を出してください ②同じ項目の金額の差を、差の大きい順に出してください ③前提(年数・区分・グルーピング)の文言の違いを出してください ④出来事メモと突き合わせ、「出来事があるのに①〜③に変化がない」ものと、「①〜③に変化があるのに出来事メモにない」ものを出してください 【出力の型】 ①表:項目/去年のみ・今年のみ/金額 ②表:項目/去年/今年/差/差の割合 ③表:前提の項目/去年の文言/今年の文言 ④表:出来事/対応する①〜③/状況(変化なし・メモなし) 【禁止事項】 ・各差分の理由を推測して書かないでください ・回収可能性や減損の要否について意見を書かないでください ・基準の項番号や、会計処理の当否を書かないでください

往復1回目 ― AIが「理由」を書いた

AIの初稿

②で「賞与引当金:去年 42,000/今年 58,000/差 +16,000/理由:業績改善による賞与増加と考えられる」。

ここが問題

理由は貼っていません。業績改善かもしれないし、人員増かもしれないし、支給月の変更かもしれない。「考えられる」が監査法人向けの資料に残ると、聞かれたときに答えられません。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「『理由』の列を削除してください。数字の差だけにしてください。」

修正版

差だけになった。

人が最後にやること

差の大きい上位5項目について、出来事メモと人事・事業部の情報から「なぜ」を書きます。「なぜ」は資料を持っている人が書きます。賞与引当金は、この架空例では支給対象期間の変更でした(業績改善ではなかった)。

往復2回目 ― 出来事があるのに資料が変わっていない

AIの初稿

④で「出来事:事業部Bと事業部Cの統合(今年7月)/対応する③:グルーピング表/状況:変化なし(去年と同じ、BとCが別グループのまま)」。

ここが問題

問題ではなく、これがこの往復の価値です。去年のファイルをコピーしたので、グルーピングが去年のまま。統合後にグループをどうするかは、監査法人と協議すべき論点で、それが「去年のコピー」で見えなくなっていました。追加の指示は出しません。

人が最後にやること

グルーピングの変更が必要かを、基準の原文を確認した上で監査法人と協議します。この活用例では結論を扱いません。「去年のまま」を見つけたことが、この活用例の役割です。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 去年と今年で項目名の書き方が違う … 「賞与引当金」と「賞与引当金繰入超過額」。AIに「同じと思われる項目を並べて、私が確認する」と頼み、対応表を人が確定してから①②をやります。
  • 出来事メモがない … 決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出すを先に。④が出ません。
  • 前提の文言が資料に書かれていない(数式の中にある) … スケジューリングの年数など、Excelの数式や隠れた前提は、AIには見えません。前提を「書き出した1枚」を人が作るところから。来年から資料に前提欄を持ちます。
  • 監査法人から「なぜ」を先に聞かれる … ①〜④の表を見せ、「ここまで分かっています。なぜはこれから」と答えます。差分の一覧があるだけで、協議が具体的になります。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. ①〜④の表に、理由の推測や当否の意見が残っていないか。
  2. ②の上位5項目について、「なぜ」を人が書いたか。
  3. ④の「出来事があるのに変化なし」について、監査法人と協議したか。
  4. 監査法人の「去年からの変更点」に、数字の差と「なぜ」の両方で答えられたか。

7. 注意点

税効果・減損の資料は、事業計画や将来見積りを含みます。事業名・資産名は記号に、金額は千円単位。貼る範囲は社内ルールで確認してください。
判断はAIにさせません。基準の原文と監査法人。
基準の中身はこの活用例の範囲外です。回収可能性の検討メモ・減損の兆候チェックリストも、判断ではなく整理の型です。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 「去年のコピー」で見えなくなっていた前提の変更(グルーピング、年数)が、決算前に見つかります。
  • 監査法人への「去年からの変更点」が、数字の差と「なぜ」のセットで答えられます。
  • 一時差異の項目の増減が一覧で見え、新しい項目の見落としが減ります。
  • 資料に「前提欄」ができ、来年は③が自動で出ます。
明日の仕事で試すこと
  • 去年と今年の一時差異の一覧を並べる(今年が未完成でも、途中でよい)
  • 「去年のみ」「今年のみ」の項目があるかだけ見る
  • グルーピング表の「グループ名」を、今の組織図と見比べる

応用 ― 難易度を上げる場合

一時差異の整理は税効果会計の一時差異を整理し、回収可能性の検討メモを下書きする、減損の兆候は減損の兆候チェックリストを作り、判定の記録を残すへ。前年比較の型は、年金数理の計算報告書を、前年と比べて「変わったところ」だけ読む・決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出すと同じで、この活用例は税効果・減損の資料に当てはめたものです。