監査法人に渡す資料に、版・日付・作成者・元データの1行を付ける
監査法人に提出する資料の先頭に「資料名/版(日付)/作成者/元データ(システム・ファイル名・抽出日)/提出日」の1行を付け、提出一覧と突き合わせて「1行のない資料」「元データの日付が版より新しい資料」をAIに出させる方法です。1行の型と突合はAI、記入は作成者、提出の可否は上司。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。期末監査で、監査法人に80項目の資料を出します(依頼リストの仕分け)。出したあとに、こう聞かれます。
- 「この残高明細は、いつ時点のデータですか」作成者に聞かないと分からない。
- 「先週いただいた版と数字が違いますが、どちらが最新ですか」ファイル名が同じで、版が分からない。
- 「この集計の元は、会計システムですか、Excelですか」資料に書いていない。
- 同じ質問が、資料ごとに、担当者ごとに繰り返される。答えるたびに作業が止まる。
資料の中身は各担当の話。この記事でやるのは、資料の先頭に1行を付けて、「どの版・いつ・誰・元データ」を聞かれなくすることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 1行の型を決める … 資料名/版(作成日)/作成者(職位)/元データ(システム名またはファイル名・抽出日)/提出日/提出先の依頼No.。
(b) 提出する資料の先頭(Excelなら1行目、PDFなら表紙)に1行を書く … 作成者。
(c) 提出一覧(依頼No./資料名/提出日)と突き合わせ、1行のない資料・元データの抽出日が版より新しい資料・提出後に版が更新された資料を出す … AI。
(d) 版を更新したら、監査法人に「差し替え」として再提出する … 人。
資料の中身を確認すること、提出してよいかを決めること。1行は「この資料は何か」を示すだけで、中身が正しいことを保証しません(確認メモは別)。提出の可否は上司。AIに任せるのは、1行の型と、提出一覧との突合まで。それから、資料の中身をAIに渡さない。突合に使うのは1行と提出一覧だけ。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 1行の型(Excelの1行目・PDFの表紙の書式)を作る
- 提出した資料の1行を集めて、提出一覧と突き合わせる
- 1行のない資料、元データの抽出日が版の日付より新しい資料、同じ資料名で版が複数ある資料を出す
- 差し替えの連絡文の下書き
- 1行の記入(作成者)
- 版の更新と差し替えの要否
- 提出の可否(上司)
- 資料の中身の確認(確認メモ)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 提出済み資料の1行と提出一覧
提出した資料の1行(コピーして集める)と、提出一覧(依頼No./資料名/提出日)。資料の中身は渡しません。作成者は職位。
往復1回目 ― AIが「中身」に踏み込んだ
②で「残高明細(売掛金):版 9/5、元データ抽出日 9/8」を出したあと、「抽出日が版より新しいため、資料の数値が最新でない可能性があり、再作成を推奨します」と付いていた。
版と抽出日のずれの抽出は、これが見たかったもの。「数値が最新でない」「再作成を推奨」は、資料の中身と提出の判断で、1行だけからは分かりません(抽出日の記入ミスかもしれない)。禁止事項に書いていてもこうなります。
「中身や再作成に関する記述を削除し、②は事実の表だけにしてください。」
①は1行のない資料が20件(提出80件のうち)。②は3件。③は2資料(同じ名前で2版)。
②の3件を作成者に聞きます。1件は抽出日の書き間違い、2件は版を更新したのに1行を直していなかった。2件は監査法人に差し替えを連絡します。③の2資料は、古い版に「旧」と明記して監査法人に伝えます。
往復2回目 ― 1行のない20件
①の20件を作成者の職位ごとに集計すると、1人の作成者に16件集中していた。「当該作成者の記入率が低く、指導が必要です」と付いていた。
集中の事実は重要。「指導が必要」は人への評価で、その人が担当する資料の種類(PDFで表紙を付けにくい)に理由があるかもしれません。
「評価の記述を削除し、集計の表だけにしてください。」
表だけになった。
16件はすべてPDFで、Excelの1行目の型が使えなかったものでした。PDFの表紙の書式(④)を渡して、付けてもらいます。記入率が低いのは、型が合っていなかったから。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 1行を書く時間がない … 型をExcelのテンプレートに入れて、コピーするだけにします。作成者は日付と元データを埋めるだけ。
- 元データが複数ある資料 … 主なものを1つ書き、残りは「ほか」。全部書くと1行に収まりません。
- 監査法人の側で版の管理をしてほしいと言われる … 1行があれば、監査法人の側でも管理できます。1行は両方のため。
- AIがまた中身や評価に踏み込む … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 提出した資料の全部に、1行があるか。①が0か。
- 版を更新した資料が、差し替えとして監査法人に伝わっているか。
- 監査法人からの「どの版ですか」「元データは」の質問が減ったか。
- 1行に、AIの中身の評価や提出の判断が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「どの版ですか」「元データは」が、資料の1行目で答えられます。
- 版の更新が差し替えとして伝わり、「数字が違う」が減ります。
- 提出一覧と1行の突合で、出し忘れと版のずれが週次で見つかります。
- 1行が、来年の「去年の提出実績」の元になります。
- 直近に監査法人へ出した資料を1つ開き、「版・日付・作成者・元データ」が書いてあるか見る
- なければ、1行目にその4つを書いてみる
- 書けない項目(元データが何か分からない等)が、その資料の弱点
応用 ― 難易度を上げる場合
依頼リストの仕分けは監査法人の資料依頼リストを、前期の提出実績と突き合わせて仕分ける、中身の確認の記録はAIに手伝わせた作業を、誰が何を確認したかを残すへ。資料の版の管理は初めて見る決算資料の束が、どうつながっているかわからないとき。