予算と実績の差を、「誰が次に何を決めるか」で並べ直す
部門別の予実差異表を、差額の大きい順ではなく、経営会議で「誰が・何を決めるか」に紐づけて並べ直す方法です。並べ直しと質問文はAI、「決めること」の一覧と差異の原因は人が書き、AIには原因も決めることも作らせません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。経理は毎月、部門別の予実差異表(予算/実績/差額/差異率)を経営会議に出しています。差額の大きい順に並べ、10%以上の差にコメントを付けています。
- 会議では、表を眺めて「なるほど」で終わる。何かが決まった記憶がない。
- コメントが「売上未達のため」「採用遅れのため」のような、差額の言い換えになっている。それは表を見れば分かる。
- 差額が大きくても、もう決まっていること(新規事業の先行投資)が上に来る。逆に、差額は小さいが今月決めないと来月効いてくること(外注単価の改定)が下に埋もれる。
- 経営から「この表で何を決めればいいの」と言われた。経理としては、決めるのは経営だと思っていた。
差異表は「何が起きたか」の表です。経営会議に必要なのは「誰が、次に何を決めるか」の表。同じ数字を、並べ直します。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 「決めること」の一覧を、経営と各部門長から集める … 「採用を続けるか止めるか」「外注単価を受け入れるか」「案件Xを継続するか」。これは人が書く。
(b) 差異表の各行を、(a)のどれに関係するかで紐づける … AIに下書きさせ、人が直す。
(c) 「決めること」ごとに、関係する差異を並べ、決める人と決める期限を添える … 表の形はAI。
(d) どの「決めること」にも紐づかない差異は、別にまとめる … 「報告だけ」の欄。
「決めること」の一覧を作ることと、差異の原因を書くこと。AIに差異表を見せて「経営が決めるべきことは」と聞くと、「人員削減の検討」「価格改定の検討」と、もっともらしい項目が並びます。それは貴社の経営が今月決めようとしていることではありません。決めることは、経営と部門長が書く。差異の原因も、部門長が書く(月次決算の変動分析コメントを下書きすると同じ)。AIに任せるのは、人が書いた「決めること」と差異を紐づけて、並べ直すところまで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 差異表の各行を、人が書いた「決めること」の一覧に紐づける(候補として)
- 「決めること」ごとに、関係する差異・決める人・期限を1枚に並べ直す
- どの「決めること」にも紐づかない差異を「報告のみ」としてまとめる
- 部門長への確認文(「この差異は、この決定に関係しますか」)の下書き
- 「決めること」の一覧(経営・部門長)
- 差異の原因(部門長)
- 紐づけの最終確認
- 決定そのもの(経営)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 差異表と「決めること」の一覧
今月の部門別差異表(部門記号/科目/予算/実績/差額)と、経営・部門長から集めた「今月決めること」の一覧(決めること/決める人/期限)。金額は千円単位。
往復1回目 ― AIが「決めること」を足した
①に、一覧にない「営業部の人員体制の見直し」「マーケティング費用の削減検討」が「決めること」として追加され、差異が紐づけられていた。
それは誰も決めようとしていないことです。差額が大きい項目から、AIが「決めるべきこと」を作りました。これが経営会議の資料に載ると、「経理が人員体制の見直しを提案している」ことになります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「一覧にない『決めること』をすべて削除し、そこに紐づけた差異は『報告のみ』に戻してください。」
「決めること」は一覧どおり4つ。①「外注単価の改定を受け入れるか(開発部長・今月末)」に、開発部の外注費の差異 +4,200 と、案件Xの粗利の差異 −2,800 が紐づいた。
紐づけを部門長に確認します。この架空例では、開発部長が「案件Xの粗利の差異は、外注単価ではなく工数超過。別の話」と直しました。紐づけの最終確認は、差異の中身を知っている人。AIの紐づけは候補です。
往復2回目 ― 「報告のみ」が大きい
②「報告のみ」に、新規事業部の差異 −12,000(差異表で最大)が入っていた。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。差異表では最上位だった −12,000 は、年初に決めた先行投資で、今月決めることはありません。差額順の表では毎月いちばん上に来て、会議の時間を使っていました。追加の指示は出しません。
「報告のみ」の先頭に「新規事業部 −12,000:計画どおりの先行投資(年初決定)」と、部門長が書いた1行を添えます。会議では①の4つに時間を使い、②は「見ておいてください」で済ませます。これが並べ直した効果です。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 「決めること」が集まらない … 経営会議の議事録の「次回までに」を拾います。それでもなければ、「今月は決めることがない」と資料に書きます。それも情報です。
- 紐づかない差異ばかり … 差異表と「決めること」が別々に動いています。部門長に「この差異について、何か決めることはありますか」と聞くところから。
- 経営が「原因も経理が書け」と言う … 原因は差異の中身を知る部門長が書く、と伝えます。経理が書くと、それは推測です(月次を締める前に、自分で10分だけ見直したいときと同じ考え方)。
- AIがまた「決めること」を作る … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 資料の「決めること」が、すべて経営・部門長が書いたものか。
- 差異の紐づけを、部門長が確認したか。
- 会議で、①の項目について実際に何かが決まったか。議事録に「決定」が残ったか。
- 差額最大の項目が、毎月会議の時間を使わなくなったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 経営会議が、「差異を眺める」から「4つを決める」に変わります。
- 先行投資のように「決まっていること」が、毎月の議論の上に来なくなります。
- 差額は小さいが今月決めるべきことが、埋もれなくなります。
- 「決めること」の一覧が毎月たまり、決定の記録になります。
- 今月の差異表の上位5行について、「これで誰が何を決めるか」を自分で書いてみる
- 書けない行が、「報告のみ」の候補
- 部門長1人に「今月決めることは何ですか」と聞いてみる
応用 ― 難易度を上げる場合
差異のコメントの書き方は月次決算の変動分析コメントを下書きする、締める前の自己点検は月次を締める前に、自分で10分だけ見直したいときへ。案件別損益の配賦が前提を歪めていないかは共通費の配賦基準を、「根拠・決めた日・見直し条件」つきの一覧にするで確かめます。