共通費の配賦基準を、「根拠・決めた日・見直し条件」つきの一覧にする
案件別・製品別の原価に共通費を配賦するとき、いま使っている配賦基準(人数比・面積比・工数比など)を「基準/根拠/決めた日・人/見直し条件/実績値の出所」の一覧にする方法です。表に整えるのはAI、根拠を決めた人に聞くのと、基準を変えるかどうかは人が判断します。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。案件別の損益を出すために、共通費(サーバー費、オフィス賃料、間接部門の人件費、ライセンス費)を毎月、案件に配賦しています。配賦のExcelは前任者が作ったものです。
- 配賦基準が案件ごとに違う。サーバー費は「利用量比」、賃料は「人数比」、間接人件費は「売上高比」。なぜその基準なのかは、Excelのどこにも書いていない。
- 「人数比」の人数が、いつの人数かわからない。期首の人数のまま1年使っているらしい。案件の人数は毎月動いている。
- 案件の責任者から「うちの案件に賃料が多く乗りすぎでは」と言われた。答えられない。
- 監査法人から「配賦基準の合理性を説明してください」と聞かれた。「前からこうです」しか言えなかった。
配賦基準を変える前に、いま何を、どんな根拠で、いつ決めて、何をもとに計算しているかを一覧にします。一覧がないと、変える議論も、変えない説明もできません。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
配賦基準を1行1基準の表にします。列は6つ。
共通費の種類 … サーバー費、賃料、間接人件費、ライセンス費
配賦基準 … 利用量比、人数比、売上高比、工数比
根拠 … なぜその基準か。「サーバーは案件ごとの利用量が計測できるから」「賃料は席数に比例するから」
決めた日・決めた人 … 2021年4月、前任者A・当時の部長
実績値の出所 … 人数は人事の月次名簿、利用量はクラウドの請求明細、売上は月次試算表
見直し条件 … 「組織変更があったとき」「基準値の出所が変わったとき」「年1回、期首に」
AIに任せるのは、Excelの数式と前任者のメモから、表の「共通費の種類/配賦基準/実績値の出所」を抜き出すこと。「根拠」「決めた日・人」「見直し条件」は人が書きます。
配賦基準そのものを決めること。AIに「賃料はどの基準で配賦すべきか」と聞くと、「人数比または面積比が一般的です」と答えます。それは一般論で、貴社の案件の性質(客先常駐が多いか、社内開発か)を知りません。基準を決める・変えるのは、案件の実態を知っている人と、原価計算のルールを持っている部門(経理・経営企画)、必要なら監査法人。それから、「根拠」の欄をAIに埋めさせない。「合理的な配賦のため」のような、誰も言っていない根拠が入ると、一覧の意味が無くなります。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 配賦Excelの数式から、共通費の種類ごとに「何を、何の比率で配賦しているか」を読み取って表にする
- 比率の元になっている数値(人数・利用量・売上)が、Excelのどのシート・どの列から来ているかを示す
- 「根拠」「決めた日・人」「見直し条件」を空欄にした表の型を作る
- 人が埋めた表を、監査法人や案件責任者に見せる一覧の形に整える
- 根拠(決めた人に聞く。いなければ「不明」と書く)
- 実績値がいつ時点のものか(期首固定か、毎月更新か)
- 基準を変えるかどうか、いつから変えるか
- 案件責任者・監査法人への説明
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 配賦Excelを「数式の表示」で貼る
配賦Excelを「数式の表示」に切り替えて、配賦計算のシートを貼ります(金額はダミーに、案件名は記号に)。前任者のメモや引き継ぎ資料があれば、それも。
往復1回目 ― AIが「根拠」を埋めた
表はできた。ただし「根拠」の列に「(賃料は占有面積に比例するため人数比が合理的)」「(売上高比は受益者負担の考え方に基づく)」と書かれていた。
それは一般論であって、前任者がそう考えたかどうかは分かりません。この文が一覧に残ると、監査法人に「根拠はこれです」と見せることになり、聞かれたときに「AIが書きました」としか言えなくなります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『根拠』『見直し条件』の列を完全に空欄にしてください。( )書きも不要です。」
空欄になった。4行(サーバー費/賃料/間接人件費/ライセンス費)で、実績値の出所は「人数:『基準値』シートB列(固定値)」「利用量:『クラウド明細』シート」「売上:『試算表』シート」。
前任者Aに連絡して、4行の「根拠」と「決めた日」を聞きます。この架空例では、賃料の人数比は「2021年に席数を数えて決めた。以後、更新していない」でした。根拠より先に、「実績値が5年前の固定値」という事実が見つかりました。
往復2回目 ― 「固定値」の影響を見る
続けて、次のように頼みます。「『基準値』シートのB列(2021年の人数)と、今月の人事名簿の案件別人数(貼ります)を並べ、案件ごとに差を出してください。配賦額への影響は計算しないでください。」
案件記号ごとに、2021年の人数と今月の人数、差が並んだ。案件Pは 12 → 4、案件Qは 3 → 15。末尾に「案件Pへの賃料配賦は現状の約3倍過大、案件Qは過小と考えられます」と書かれていた。
人数の差は事実で、これが見たかったもの。ただし「過大」「過小」は、基準を今月の人数に変えるべきだという前提を含んでいます。期首固定にしている理由(月次の変動を案件損益に持ち込まない、など)があるかもしれません。
「『過大』『過小』の記述を削除し、人数の差の表だけにしてください。」
表だけになった。
上司と「人数は期首固定のままか、毎月更新に変えるか」を決めます。変えるなら、いつから・誰が更新するかを一覧の「見直し条件」と「実績値の出所」に書きます。案件責任者の「乗りすぎでは」には、「2021年の人数で配賦していた。来月から今月の人数に変える」と、事実と決定で答えられます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 前任者に聞けない … 「根拠:不明(決めた人が退職)」と書きます。不明のまま使い続けるか、決め直すかを上司と決めます。不明を書くことが、決め直す入口です。
- 配賦基準が数式の中に直書きされている …
*0.35のような固定の率。それも1行にして、「率の根拠:不明」と書きます(前任者のExcelを渡されたが、どこを触っていいのかわからないときの型)。 - 案件責任者が基準の変更を求めてくる … 一覧を見せて、「変えるなら全案件に同じ基準」を先に確認します。1案件だけ変えると、他の案件の配賦が動きます。
- 監査法人に一覧を見せる … 見せてよいです。「根拠:不明」があっても、把握していることが伝わります。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 一覧の「根拠」に、AIの一般論が残っていないか。人が聞いた事実か、「不明」か、のどちらかになっているか。
- 実績値の出所が、いつ時点の値かまで書かれているか。
- 一覧の配賦基準で、先月の配賦計算を再現できるか。再現できなければ、数式に一覧にない要素がある。
- 案件責任者の「乗りすぎでは」に、事実で答えられたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「前からこうです」が、「この基準で、この根拠で、この日に決めた」になります。
- 5年前の固定値のような「誰も見ていなかった前提」が、一覧を作る過程で見つかります。
- 案件責任者との配賦の議論が、感覚ではなく一覧の上でできます。
- 「見直し条件」が書いてあるので、組織変更のたびに基準を見直す習慣ができます。
- 配賦Excelを「数式の表示」にして、共通費の種類を数える
- 1つ選んで、比率の元の数値が「いつの値か」を確かめる
- 「根拠」を自分の言葉で1行書いてみる。書けなければ、それが聞くべきこと
応用 ― 難易度を上げる場合
配賦Excelの数式を読む段階は前任者のExcelを渡されたが、どこを触っていいのかわからないときの3色の地図と同じ型です。基準を決めた理由を残すには今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにするの4項目が使えます。配賦後の案件別損益を経営に報告するときの並べ方は予算と実績の差を、「誰が次に何を決めるか」で並べ直すへ。