債権債務・出納 › 与信・滞留管理活用案

与信限度額と直近の売掛残高・入金遅れを並べて、見直し候補を出す

取引先ごとの与信限度額(設定日・設定根拠)と、直近の売掛金残高・限度額に対する使用率・入金遅れの回数を並べ、「限度額を超えている」「使用率が高い」「遅れが続いている」「設定から1年以上見直していない」先をAIに出させる方法です。抽出はAI、限度額の見直しと取引の継続は営業管理と経営、AIには限度額を提案させません。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。取引先ごとに与信限度額を設定しています。設定は営業管理の担当で、経理は売掛金の残高と入金を見ています。

  • 限度額の一覧はあるが、「いつ・何を根拠に決めたか」が書いていない先が多い。3年前の設定のまま。
  • 売掛金の残高が限度額を超えている先がある。営業が気づいていないか、気づいて超えている。
  • 入金が遅れがちな先の限度額が、遅れのない先と同じ。入金の実績が、限度額に反映されていない。
  • 与信管理規程に「年1回見直す」とあるが、見直した記録がない。

限度額をいくらにするか、取引を続けるかは、規程と営業管理・経営の話。この記事でやるのは、限度額と実績を並べて、見直すべき先の候補を出すことです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 与信限度額の一覧を出す … 取引先記号/限度額/設定日/設定根拠(記載があれば)/担当。
(b) 直近の売掛金残高と、過去12か月の入金遅れの回数・最長の遅れ日数を出す … 経理から。
(c) 並べて、候補を出す … 残高が限度額を超えている/使用率が高い(人が決めた基準)/遅れが続いている/設定から1年以上たっている/根拠が空欄。AI。
(d) 候補を営業管理に渡し、見直しの要否を規程に従って決める … 人。

ここはAIを使わない

限度額をいくらにするか、取引を続けるか。AIに「この先の限度額はいくらが適切か」と聞くと、残高と遅れから数字を出しますが、その先の事業の状況、当社との関係、営業の見込みはAIには分かりません。限度額は規程に従って営業管理と経営が決めます。それから、「使用率が高い」の基準を決めるのも人。AIに任せるのは、限度額と実績を並べて候補を出すまで。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 限度額の一覧と、売掛金残高・入金遅れの実績を取引先ごとに並べる
  • 人が決めた基準(超過・使用率・遅れ・経過期間・根拠空欄)に当てはまる先を出す
  • 候補を、当てはまる基準の数と残高の大きさで並べる
  • 営業管理に渡す「見直し候補の一覧」の形に整える
人が判断する
  • 候補の基準(使用率の線、遅れの回数)
  • 限度額の見直し(規程・営業管理・経営)
  • 取引の継続・条件の変更(営業管理・経営)
  • 見直しの記録

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 限度額の一覧と実績

与信限度額の一覧(取引先記号/限度額/設定日/設定根拠/担当の職位)、直近の売掛金残高、過去12か月の入金遅れ(回数/最長日数)。取引先は記号、金額は千円単位。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。取引先は記号、金額は千円単位。限度額の提案はAIにさせません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。取引先ごとの与信限度額と、売掛金の残高・入金遅れの実績を並べ、見直しの候補を営業管理に渡したいと考えています。読み手は私と営業管理です。 【事実/入力】 ・以下に、与信限度額の一覧(取引先記号/限度額/設定日/設定根拠/担当の職位)を貼ります ・以下に、直近の売掛金残高と、過去12か月の入金遅れ(回数/最長日数)を貼ります(千円単位) ・候補の基準は次の5つです(私が決めました):①残高が限度額を超えている ②使用率(残高÷限度額)が80%以上 ③12か月で入金遅れが3回以上、または最長30日以上 ④設定日から1年以上たっている ⑤設定根拠が空欄 ・限度額の見直しは、規程に従って営業管理と経営が決めます 【依頼】 ①取引先ごとに、限度額/残高/使用率/遅れの回数と最長日数/設定日からの経過/根拠の有無を並べてください ②基準①〜⑤に当てはまる先を、当てはまる基準の数が多い順、次に残高の大きい順に出してください 【出力の型】 ①表 ②表:取引先記号/当てはまる基準/残高/限度額/使用率/遅れ/経過 【禁止事項】 ・限度額をいくらにすべきか、取引を続けるべきかを書かないでください ・取引先の信用力や経営状態を評価しないでください ・私が決めた基準以外で候補を足さないでください

往復1回目 ― AIが限度額を提案した

AIの初稿

②に「推奨限度額」の列が付き、「取引先Kは遅れが多いため限度額を50%減額、取引先Lは信用不安の兆候あり」と書かれていた。

ここが問題

限度額の提案と信用力の評価は、AIがしてよいことではありません。取引先Kの遅れが、先方の支払サイトの変更によるものなら、減額の話ではない。「信用不安」は根拠のない評価で、営業管理に渡ると独り歩きします。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「『推奨限度額』の列と、評価の記述をすべて削除してください。②は基準に当てはまった事実だけにしてください。」

修正版

候補は18先。基準①(超過)が2先、②が5先、③が4先、④が15先、⑤が9先。複数に当てはまる先が上位。

人が最後にやること

候補18先を営業管理に渡します。超過の2先は、営業管理がすぐに見ます。④⑤(1年以上未見直し・根拠空欄)の多さは、規程の「年1回見直す」が動いていない事実として、上司と営業管理に伝えます。

往復2回目 ― 「超過」の中身

AIの初稿

超過の2先について、「限度額の設定ミスまたは営業の管理不足」と付いていた。

ここが問題

超過の抽出は正しい。原因は推測で、大型案件の一時的な残高増を営業管理が承認していた(規程の手続で)かもしれません。

追加で出した指示

「原因の記述を削除してください。」

修正版

表だけになった。

人が最後にやること

営業管理に確認すると、1先は大型案件で一時的な超過を承認済み(記録あり)、1先は誰も気づいていなかった超過でした。気づいていなかった1先は、規程に従って営業管理が対応します。承認済みの超過は、限度額の一覧に「一時的な承認(期限つき)」を書く欄を足します。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 限度額の一覧に設定日・根拠がない … 今回の見直しで書き始めます。「根拠:不明(今回見直し)」でも、次回からは経過が分かります。
  • 候補が多すぎる … 残高の大きい順に上位から。小さい先は「まとめて次回」と記録します。
  • 営業管理が「経理が口を出すな」と言う … 経理は候補を出すだけ、決めるのは営業管理、と役割を明確にします。売掛金の残高と入金遅れは経理の情報なので、渡す義務があります。
  • AIがまた提案や評価を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 候補の一覧に、限度額の提案や信用力の評価が残っていないか。
  2. 超過の先について、営業管理が規程に従って対応した記録があるか。
  3. 「1年以上未見直し」の先が、四半期ごとに減っているか。
  4. 限度額の一覧に、設定日・根拠・一時的な承認が書かれるようになったか。

7. 注意点

与信の情報は取引先の信用に関わります。取引先は記号、金額は千円単位。社内ルールで確認してください。
限度額と取引の継続はAIに決めさせません。規程と営業管理・経営。
「超過」を管理不足と決めつけません。承認済みの一時的な超過もあります。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 「年1回見直す」が、四半期ごとの候補の一覧で動き始めます。
  • 誰も気づいていない超過が、経理の突合で見つかります。
  • 限度額の一覧に設定日・根拠・一時的な承認が入り、次回の見直しが速くなります。
  • 経理と営業管理の役割(候補を出す/決める)が明確になります。
明日の仕事で試すこと
  • 売掛金の残高の大きい取引先を5つ選び、与信限度額を並べる
  • 残高÷限度額を計算し、80%を超える先があるか見る
  • あれば、営業管理に「この先の限度額はいつ設定したか」を聞く

応用 ― 難易度を上げる場合

滞留債権の督促は滞留債権の年齢調べを行い、督促文案を用意する、貸倒引当金の区分は貸倒引当金の計算に使う債権の区分を、前期から変わった先だけ確認するへ。与信管理規程と経理規程のつなぎは経理に関わる規程(経理・購買・旅費・与信)の間で矛盾している箇所を洗い出すで見つかります。