与信限度額と直近の売掛残高・入金遅れを並べて、見直し候補を出す
取引先ごとの与信限度額(設定日・設定根拠)と、直近の売掛金残高・限度額に対する使用率・入金遅れの回数を並べ、「限度額を超えている」「使用率が高い」「遅れが続いている」「設定から1年以上見直していない」先をAIに出させる方法です。抽出はAI、限度額の見直しと取引の継続は営業管理と経営、AIには限度額を提案させません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。取引先ごとに与信限度額を設定しています。設定は営業管理の担当で、経理は売掛金の残高と入金を見ています。
- 限度額の一覧はあるが、「いつ・何を根拠に決めたか」が書いていない先が多い。3年前の設定のまま。
- 売掛金の残高が限度額を超えている先がある。営業が気づいていないか、気づいて超えている。
- 入金が遅れがちな先の限度額が、遅れのない先と同じ。入金の実績が、限度額に反映されていない。
- 与信管理規程に「年1回見直す」とあるが、見直した記録がない。
限度額をいくらにするか、取引を続けるかは、規程と営業管理・経営の話。この記事でやるのは、限度額と実績を並べて、見直すべき先の候補を出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 与信限度額の一覧を出す … 取引先記号/限度額/設定日/設定根拠(記載があれば)/担当。
(b) 直近の売掛金残高と、過去12か月の入金遅れの回数・最長の遅れ日数を出す … 経理から。
(c) 並べて、候補を出す … 残高が限度額を超えている/使用率が高い(人が決めた基準)/遅れが続いている/設定から1年以上たっている/根拠が空欄。AI。
(d) 候補を営業管理に渡し、見直しの要否を規程に従って決める … 人。
限度額をいくらにするか、取引を続けるか。AIに「この先の限度額はいくらが適切か」と聞くと、残高と遅れから数字を出しますが、その先の事業の状況、当社との関係、営業の見込みはAIには分かりません。限度額は規程に従って営業管理と経営が決めます。それから、「使用率が高い」の基準を決めるのも人。AIに任せるのは、限度額と実績を並べて候補を出すまで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 限度額の一覧と、売掛金残高・入金遅れの実績を取引先ごとに並べる
- 人が決めた基準(超過・使用率・遅れ・経過期間・根拠空欄)に当てはまる先を出す
- 候補を、当てはまる基準の数と残高の大きさで並べる
- 営業管理に渡す「見直し候補の一覧」の形に整える
- 候補の基準(使用率の線、遅れの回数)
- 限度額の見直し(規程・営業管理・経営)
- 取引の継続・条件の変更(営業管理・経営)
- 見直しの記録
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 限度額の一覧と実績
与信限度額の一覧(取引先記号/限度額/設定日/設定根拠/担当の職位)、直近の売掛金残高、過去12か月の入金遅れ(回数/最長日数)。取引先は記号、金額は千円単位。
往復1回目 ― AIが限度額を提案した
②に「推奨限度額」の列が付き、「取引先Kは遅れが多いため限度額を50%減額、取引先Lは信用不安の兆候あり」と書かれていた。
限度額の提案と信用力の評価は、AIがしてよいことではありません。取引先Kの遅れが、先方の支払サイトの変更によるものなら、減額の話ではない。「信用不安」は根拠のない評価で、営業管理に渡ると独り歩きします。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『推奨限度額』の列と、評価の記述をすべて削除してください。②は基準に当てはまった事実だけにしてください。」
候補は18先。基準①(超過)が2先、②が5先、③が4先、④が15先、⑤が9先。複数に当てはまる先が上位。
候補18先を営業管理に渡します。超過の2先は、営業管理がすぐに見ます。④⑤(1年以上未見直し・根拠空欄)の多さは、規程の「年1回見直す」が動いていない事実として、上司と営業管理に伝えます。
往復2回目 ― 「超過」の中身
超過の2先について、「限度額の設定ミスまたは営業の管理不足」と付いていた。
超過の抽出は正しい。原因は推測で、大型案件の一時的な残高増を営業管理が承認していた(規程の手続で)かもしれません。
「原因の記述を削除してください。」
表だけになった。
営業管理に確認すると、1先は大型案件で一時的な超過を承認済み(記録あり)、1先は誰も気づいていなかった超過でした。気づいていなかった1先は、規程に従って営業管理が対応します。承認済みの超過は、限度額の一覧に「一時的な承認(期限つき)」を書く欄を足します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 限度額の一覧に設定日・根拠がない … 今回の見直しで書き始めます。「根拠:不明(今回見直し)」でも、次回からは経過が分かります。
- 候補が多すぎる … 残高の大きい順に上位から。小さい先は「まとめて次回」と記録します。
- 営業管理が「経理が口を出すな」と言う … 経理は候補を出すだけ、決めるのは営業管理、と役割を明確にします。売掛金の残高と入金遅れは経理の情報なので、渡す義務があります。
- AIがまた提案や評価を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 候補の一覧に、限度額の提案や信用力の評価が残っていないか。
- 超過の先について、営業管理が規程に従って対応した記録があるか。
- 「1年以上未見直し」の先が、四半期ごとに減っているか。
- 限度額の一覧に、設定日・根拠・一時的な承認が書かれるようになったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「年1回見直す」が、四半期ごとの候補の一覧で動き始めます。
- 誰も気づいていない超過が、経理の突合で見つかります。
- 限度額の一覧に設定日・根拠・一時的な承認が入り、次回の見直しが速くなります。
- 経理と営業管理の役割(候補を出す/決める)が明確になります。
- 売掛金の残高の大きい取引先を5つ選び、与信限度額を並べる
- 残高÷限度額を計算し、80%を超える先があるか見る
- あれば、営業管理に「この先の限度額はいつ設定したか」を聞く
応用 ― 難易度を上げる場合
滞留債権の督促は滞留債権の年齢調べを行い、督促文案を用意する、貸倒引当金の区分は貸倒引当金の計算に使う債権の区分を、前期から変わった先だけ確認するへ。与信管理規程と経理規程のつなぎは経理に関わる規程(経理・購買・旅費・与信)の間で矛盾している箇所を洗い出すで見つかります。