電子取引のデータが「実際にどこに、どう残っているか」を棚卸しする
電子的にやりとりしている取引の種類ごとに、担当者が「どこに・誰が・いつ・どんなファイル名で」保存しているかを書き、表にして税理士に見せる方法です。表に整えるのはAI、「実際」を書くのは担当者、要件を満たしているかは国税庁の公表資料の原文と税理士。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。税理士から「電子取引のデータは、要件を満たして保存できていますか」と聞かれました。「できていると思います」と答えましたが、自信はありません。
- メールで届く請求書のPDFは、担当者ごとに違う場所に保存している。共有フォルダ、自分のPC、メールのまま。
- 経費精算システムに入れた領収書の画像は、システムに残っている。たぶん。保存期間の設定を誰も見ていない。
- Web上で発行される請求書(ダウンロード型)は、ダウンロードしないまま消えているものがありそう。
- 「要件」が何かを、経理の中で説明できる人がいない。国税庁のサイトを見ても、自社に当てはめられない。
要件の中身を理解する前に、「今、どのデータが、どこに、どう残っているか」を一覧にするのが先です。一覧がないと、税理士に「満たしていますか」と聞かれても、何を見せればいいか分かりません。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 電子的にやりとりしている取引の種類を、全部書き出す … メールで届く請求書、Webでダウンロードする請求書・領収書、経費精算システムの領収書画像、EDI、クレジットカードの明細、など。
(b) 種類ごとに「どこに」「誰が」「いつ」「どんなファイル名で」保存しているかを書く … ここは人。実際にやっている人に聞く。
(c) 「保存していない」「分からない」を隠さず書く。
(d) 一覧を税理士に見せて、要件に照らして足りない点を聞く … 判断は税理士。
AIに任せるのは、(a)の種類の洗い出しの下書き(経理の一般的な取引から)と、(b)を表に整えること、(d)で税理士に聞く質問の下書きです。
「要件を満たしているか」の判断。AIに一覧を見せて「要件を満たしていますか」と聞くと、答えてくれますが、その答えの根拠を確かめられるのは国税庁の公表資料の原文を読んだ人だけです。法令の中身は改正で変わります。AIに任せるのは、一覧を作るところまで。それから、「実際にどこに保存しているか」を書くのも人。AIに「一般的には共有フォルダに保存されます」と補完されると、棚卸しの意味が無くなります(経理規程と実務のずれと同じ)。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 電子取引の種類の候補を、経理の一般的な取引から下書きする(貴社にあるかどうかは人が消す・足す)
- 人が書いた「どこに・誰が・いつ・ファイル名」を表に整える
- 「保存していない」「分からない」の行を別に並べる
- 税理士に聞く質問の下書き
- 貴社にある取引の種類
- 各種類の実際の保存場所・担当・タイミング・命名
- 税理士への確認と、その後の対応
- 保存の場所・方法を変える決定
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 種類を絞り、担当者が「実際」を書く
まず「種類の候補」だけをAIに出させ、部内で実際にあるものに絞ります(30分)。次に、種類ごとの「実際」を担当者が書きます(30分)。最後に表に整えます。
往復1回目 ― AIが「要件」を語り始めた
表はできた。ただし備考列に、法令上必要な仕組みやファイル名の付け方についての趣旨の記述が3か所あった。
それが今年の法令に正しいか、貴社の場合に必要かを、AIは確かめていません。備考にこれが残ると、経理部員が「AIがこう言っている」で保存方法を変え始めます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「備考列から、法令の要件に関する記述をすべて削除してください。備考は、担当者が書いた内容だけにしてください。」
備考が担当者の記述だけになった。
この表を税理士に見せて、「この状態で足りない点があれば教えてください」と聞きます。何が要件かは、税理士が国税庁の公表資料の原文で確認して答えます。
往復2回目 ― 「分からない」が最も多かった種類
別表に「Webでダウンロードする請求書:保存場所=分からない/担当=各部署/タイミング=不明」。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。ダウンロード型の請求書は、各部署の担当者がWebで見て、経理には金額だけ伝えています。PDFがどこにもない可能性があります。棚卸しをしなければ、税理士に「保存しています」と答えていました。
「『分からない』の行について、確認すべき相手(誰に聞けば分かるか)を1行で書いてください。」
「各部署の発注担当に、ダウンロードしているか・どこに置いているかを聞く」。
発注担当3名に聞きます。この架空例では、2名はダウンロードして自分のPCに、1名はダウンロードしていませんでした。「保存していない」が1つ見つかりました。保存の場所と担当を決めて、税理士に相談します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 種類が多すぎて書ききれない … 金額の大きい取引先の分から。全部を一度にやりません。
- 担当者が「分からない」と書きたがらない … 「分からない」は責める材料ではなく、直す入口。部長からそう伝えてもらいます。
- システムに残っているが、保存期間の設定を誰も知らない … システムの管理者(情報システム部門かベンダー)に聞きます。「システムにある」だけでは、いつまであるか分かりません。
- 税理士から「足りない点」が多く返ってくる … 一度に直しません。金額の大きい種類から、保存の場所と担当を決めます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 表に、AIの推測(保存場所・担当)が残っていないか。
- 「保存していない」「分からない」の行に、確認相手と確認結果が書かれたか。
- 税理士に表を見せ、足りない点の回答を記録したか。
- 半年後、同じ表を更新して、「分からない」が減ったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 税理士の「満たしていますか」に、表を見せて「ここまで分かっています。ここが分かりません」と答えられます。
- ダウンロード型の請求書のように、誰も保存していなかったものが見つかります。
- 保存の場所と担当が種類ごとに決まり、担当者ごとのばらつきが減ります。
- 表が半年ごとの点検の土台になります。
- 自分がメールで受け取った請求書のPDFを、先月分だけ数える
- それを「どこに保存したか」を書き出す。書けないものに印をつける
- 印のついた分が、この活用例の「分からない」の第1号
応用 ― 難易度を上げる場合
「実際はどうしているか」を書く作業は、月次の作業を「誰が・いつ・何を見て・何を出すか」で棚卸しするや経理規程と実務のずれを、規程の条文ごとに点検すると同じ型です。3つを同じ担当者名で揃えると、「誰が何をどこに残しているか」が経理部全体で1枚になります。保存場所を決めたあと、ファイル名を一括で揃える作業は、AIが作った業務ツールを、翌月も別の人も使える状態にするの型でPythonにさせてよいです。