去年の決算短信の文章のうち、今年の数字と合わなくなった文を先に出して、書き直す箇所を絞る
去年の決算短信の説明文(経営成績の概況など)を1文ずつに分け、今年の数字の増減の方向(増収・減収、増益・減益、率の丸め)と照らして「去年の文のままでは今年の数字と矛盾する文」「今年新しく説明が要る項目に触れていない文」をAIに出させ、書き直す箇所を絞る方法です。矛盾の抽出はAI、文章の作成と開示の判断は経理責任者と開示担当、記載の要否は取引所の開示ルールの原文と監査法人・取引所への確認。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。決算短信の数字は突き合わせ表で計算書類と揃えています。文章の側で、こうなります。
- 去年の短信の文章をコピーして、今年の数字に合わせて直す。直し漏れが出る。「増収増益」のまま、今年は減益だった。
- 数字は直したが、その数字を説明する文が去年のまま。「新規案件の増加により」が、今年は減った理由の文に必要。
- 今年新しく起きたこと(新事業、大口の契約の終了)に、去年の文は触れていない。触れるかどうかを決める前に、気づいていない。
- 誰が何を直したかが残らず、監査法人のレビューで「ここは去年のままですね」と指摘される。
記載の要否と文章そのものは責任者と開示ルールの話。この記事でやるのは、去年の文を1文ずつ今年の数字と照らして、「合わなくなった文」を先に出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 去年の短信の説明文を、1文ずつに分ける … AI。
(b) 今年の数字の「方向」を用意する … 人。売上・各利益の増減の方向と率(丸め)、セグメントごとの増減の方向、去年なかった項目(新事業・大口契約の終了など)の一覧。実際の金額は渡さない。
(c) 各文について、①今年の方向と矛盾する文(「増収」だが今年は減収)、②今年の数字の理由として使えない文(去年の理由の文)、③今年の新しい項目に触れていない箇所、を出す … AI。
(d) ①②③をもとに、責任者と開示担当が文を書く … 人。
(e) 直した文と直さなかった文の一覧を残し、監査法人のレビューに添える … 人。
今年の文を書くこと、何を記載するかを決めること。AIに「今年の文を書いて」と頼むのは、この記事の範囲外です。文は責任者と開示担当が書き、記載の要否は開示ルールの原文と監査法人・取引所への確認で決めます。それから、公表前の実際の数字はAIに渡しません。渡すのは「増・減」の方向と丸めた率だけ。それも、社内ルールで「公表前の情報の扱い」を確かめてから。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 去年の文を1文ずつに分ける
- 各文が「数字の方向を述べる文」「理由を述べる文」「見通しを述べる文」「その他」のどれかを付ける
- 今年の方向と矛盾する文、理由として使えない文、新しい項目に触れていない箇所を出す
- 「直した・直さない」の一覧の書式
- 今年の文の作成(責任者と開示担当)
- 記載の要否(開示ルールの原文と監査法人・取引所への確認)
- 新しい項目に触れるかどうか
- 公表前の情報をどこまでAIに渡すか(社内ルール)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 去年の文と、今年の方向
去年の短信の説明文(公表済み)。今年の方向(項目/増・減/率の丸め)と、新しい項目の一覧(記号)。今年の実際の金額は渡しません。方向と丸めた率を渡すことも、公表前の情報の扱いとして社内で確認します。
往復1回目 ― AIが「今年の文」を書いた
②で矛盾する文が4文。それぞれに「修正案:当期は減収減益となりました。主な要因は〜」と今年の文の下書きが付いていた。
4文の抽出は見たかったもの。「修正案」は今年の文で、この記事の範囲外です。しかも「主な要因は〜」の部分はAIの推測で、開示の文章に推測が混ざります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「修正案をすべて削除し、②は表だけにしてください。」
①は38文。②は矛盾する文が4文。③は理由の文で今年は使えない可能性があるのが6文。④は新しい項目3つのうち、対応する文がないのが3つ。
責任者と開示担当が、②の4文と③の6文を書き直します。④の3項目は、記載するかどうかを開示ルールの原文と監査法人に確かめてから。直した文と直さなかった文の一覧を、監査法人のレビューに添えます。
往復2回目 ― 「見通し」の文
①で「見通しを述べる」文が5文。AIはそれらに「今年の見通しは別途作成が必要です」と注を付け、さらに「一般的に、減益の翌年は慎重な見通しが望ましい」と書いていた。
5文の分類はよい。「慎重な見通しが望ましい」は見通しの内容への意見で、見通しは経営の判断であり、AIが言うことではありません。
「見通しの内容に関する記述を削除してください。」
注が消えた。
見通しの5文は、経営企画から今年の見通しの数字と方向をもらってから、責任者が書きます。AIには渡しません(公表前の見通しは特に)。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 公表前の方向すらAIに渡せない(社内ルール) … 去年の文の①の分類だけAIにさせ、②③は人が方向を見ながら行います。分類だけでも、見る文が絞れます。
- 去年の文が今年の様式と合わない(様式が変わった) … 様式の変更は開示ルールの原文で確かめ、変わった箇所は去年の文を使わずに書きます。
- 矛盾する文が多すぎる … 今年が去年と大きく違う年。文の大半を書き直す前提で、①の分類だけを使います。
- AIがまた今年の文や意見を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 今年の短信の文のすべてが、「直した・直さない(理由)」の一覧にあるか。去年のままの文に、直さない理由があるか。
- 数字の方向を述べる文が、突き合わせ表の数字と矛盾していないか。
- 新しい項目について、記載する・しないの判断と確認先の記録があるか。
- AIが書いた文や意見が、短信に混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 去年の文の直し漏れが、書く前に一覧で見えます。
- 「去年のままですね」の指摘が、監査法人のレビューの前に自分で見つかります。
- 新しい項目に触れるかどうかを、書く前に確認先に聞けます。
- 「直した・直さない」の一覧が、来年の作業の元になります。
- 去年の短信の説明文を開き、「増」「減」「により」を含む文に印を付ける
- 印の文の数を数える。それが今年、方向を確かめる文の数
- その中で、今年の方向が逆になりそうな文を1つ見つける
応用 ― 難易度を上げる場合
数字の突き合わせは決算短信の数字を、計算書類・連結精算表の数字と突き合わせる表にする、事業報告の前年比較は去年の事業報告・計算書類と今年の下書きを比べて、変わった箇所だけ洗い出すへ。AIが下書きした文書の確認はAIに下書きさせた社外向けの文書を、送る前に「事実・約束・数字」の3点で人が確かめる。