固定資産の実査の前に、「現物のない資産」「台帳にない現物」の候補を出す
固定資産台帳と、総務の備品管理表・拠点の座席表・前回の実査結果を突き合わせ、「台帳にあるが管理表にない資産」「管理表にあるが台帳にない現物」「所在地が食い違う資産」を実査の前にAIに出させる方法です。突合はAI、現物の確認と除却・移動の処理は人、減損の判定は基準の原文と監査法人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。年に1回、固定資産の実査をします。経理が台帳を印刷して、各拠点を回り、現物を確かめます。資産は約300件。
- 台帳に載っているが、現物が見つからない資産が毎年ある。捨てたのか、移動したのか、その場では分からない。
- 逆に、現物はあるが台帳にない機器がある。部門が直接買って、経費で落としたもの。
- 総務の備品管理表と、経理の台帳が、別々に管理されている。同じ資産が、両方に違う名前で載っている。
- 実査に2日かかる。300件を全部見るので。「変わっていそうな資産」だけ見られれば、半日で済む。
除却や減損の会計処理は、基準と監査法人の話。この記事でやるのは、実査の前に、台帳と管理表を突き合わせて「確かめるべき資産」の候補を出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 経理の固定資産台帳を出す … 資産番号/名称/取得日/取得価額/所在地/使用部門。
(b) 総務の備品管理表を出す … 管理番号/名称/設置場所/使用者の部門/購入日。
(c) 前回の実査結果(見つからなかった資産、移動していた資産)を出す。
(d) 突き合わせて、候補を出す … 台帳にあって管理表にない/管理表にあって台帳にない/所在地・部門が食い違う/前回見つからず今回も未処理。AI。
(e) 候補だけを重点的に実査し、結果を記録する … 人。
現物の確認、除却・移動の処理、減損の判定。AIは現物を見られません。「台帳にあって管理表にない」は、管理表の記入漏れかもしれず、現物を見た人にしか分かりません。除却の処理と減損の判定は、基準の原文と監査法人。それから、「同じ資産か」の最終確認も人(償却資産の申告前の突合と同じで、名前が近いだけのものをAIは同じにします)。AIに任せるのは、候補を出すまで。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 台帳と管理表を突き合わせ、片方にしかない資産・所在地や部門が食い違う資産を出す
- 資産番号で対応づかないものを、名称・取得日・価額の近さで「同じ資産の候補」として並べる(確定はしない)
- 前回の実査で見つからなかった資産のうち、台帳でまだ処理されていないものを出す
- 実査の「重点確認リスト」を拠点別に整える
- 「同じ資産の候補」が本当に同じか(現物・取得時の書類で)
- 候補の現物確認(実査)
- 除却・移動の処理(監査法人と)
- 台帳と管理表の名称・番号を揃えるか(総務と)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 台帳・管理表・前回の実査結果
経理の固定資産台帳(資産番号/名称/取得日/取得価額/所在地/使用部門)、総務の備品管理表(管理番号/名称/設置場所/部門/購入日)、前回の実査結果。拠点・部門は記号、金額は千円単位。
往復1回目 ― AIが「除却対象」と書いた
③で、前回見つからなかった資産4件に「除却処理が必要」と付き、①の「台帳にあって管理表にない」12件のうち古いものに「使用実態がないため減損の検討対象」と書かれていた。
現物を見る前に、会計処理の判断が書かれています。前回見つからなかった資産が、今回は別の拠点で見つかることもあります。「減損の検討対象」は基準の用語を使った判断で、AIがしてよいものではありません。禁止事項に書いていてもこうなります。
「会計処理に関する記述をすべて削除してください。候補の表だけにしてください。」
①は台帳のみ12件、管理表のみ9件。②は食い違い7件。③は4件。④は候補6組。
①〜③の32件と④の6組を「重点確認リスト」にして、拠点別に分けます。実査では、この38件を優先して確かめ、残りは目視で通ります。2日が半日になりました。
往復2回目 ― 「管理表にあって台帳にない」の中身
①の「管理表にあって台帳にない」9件のうち、5件は購入日が今年で、名称が「ノートPC」「モニター」。「部門が直接購入し、台帳に登録されていない可能性があります」と付いていた。
可能性の文は削除対象ですが、5件の事実は重要です。台帳にない現物は、経費で落としたか、台帳への登録漏れか。どちらかは、購入の記録を見た人が決めます。
「『可能性』の記述を削除し、表だけにしてください。」
表だけになった。
5件の購入の記録(請求書・仕訳)を見ます。この架空例では、3件は金額が小さく経費処理で問題なし、2件は台帳に載せるべき金額なのに経費で処理されていました。処理をどう直すかは、監査法人と確認します。部門が直接買うときの経理への連絡ルールも、総務と決めます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 総務に備品管理表がない … 座席表・ネットワーク機器の一覧・リース資産の一覧など、現物に近い一覧を代わりに使います。なければ、今回の実査結果を「管理表の第1版」にします。
- 台帳と管理表で番号が全く違う … 今回の実査で、現物に台帳の資産番号のラベルを貼り、管理表に資産番号の列を足します。来年から④が要らなくなります。
- 前回の実査結果が残っていない … 今回の結果を記録の型(現金実査の記録と同じ考え方)で残します。
- AIがまた会計処理を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 重点確認リストに、会計処理の判断が残っていないか。
- 候補の全件について、現物を確かめた結果(あり・なし・移動)が記録されたか。
- 「なし」の資産と「台帳にない現物」について、処理を監査法人と確認したか。
- 実査の時間が短くなり、見つからない資産が翌年減ったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 300件を全部見る2日が、候補38件を確かめる半日になります。
- 「見つからない」資産が、実査の前に候補として分かり、当日探し回らなくなります。
- 台帳にない現物(部門の直接購入)が見つかり、連絡ルールができます。
- 台帳と管理表が資産番号でつながり、来年の突合が数分で済みます。
- 固定資産台帳から、所在地が「本社」の資産を10件選ぶ
- 総務の備品管理表(または座席表)で、その10件を探す
- 見つからないものが、今年の実査で最初に確かめる資産
応用 ― 難易度を上げる場合
償却資産の申告前の突合は償却資産の申告前に、固定資産台帳の増減と前年の申告一覧を突き合わせる、減損の兆候の整理は減損の兆候チェックリストを作り、判定の記録を残すへ。現金の実査の記録は現金実査の記録を、金種・立会・差異・処理の型で残す。