経営者向けの月次報告を、「先月言ったこととの差」から書き始める
経営者への月次報告を、今月の数字の説明からではなく「先月の報告で言った見込み・懸念・宿題が、今月どうなったか」から書き始める方法です。先月の報告と今月の数字を並べて差を出すのはAI、差の理由と今月の見込みは人が書き、AIには見込みを作らせません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。経理部長が毎月、社長に月次報告をしています。資料は「今月の売上・利益・主な増減」の2枚。
- 先月の報告で「来月は大型案件の検収で売上が戻る見込み」と言った。今月の報告にその話が出てこない。社長に「あれはどうなった」と聞かれた。
- 先月「外注費の増加は一時的」と言った。今月も増えている。報告には「外注費増」とだけ書いてある。
- 先月の宿題「回収の遅れている先の状況を確認する」が、今月の報告に載っていない。確認はしたが、報告する場所がなかった。
- 毎月「今月はこうでした」で始まるので、報告が毎月ゼロから。社長の頭の中には先月の話が残っているのに。
やりたいのは、今月の報告を「先月言ったこととの差」から始め、見込みと懸念と宿題を月をまたいで追うことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 先月の報告から、「見込み」「懸念」「宿題」を抜き出す … 「来月は○○の見込み」「○○が懸念」「○○を確認する」。AI。
(b) 今月の数字・事実と並べ、「そのとおりだった/違った/まだ分からない」を付ける … AI(事実の照合まで)。
(c) 違った理由と、今月の見込み・懸念・宿題を書く … 人。
(d) 報告の1枚目を「先月との差」、2枚目を「今月の数字」にする … AI(整形)。
見込みを立てること、違った理由を書くこと。AIに「来月の見込みを書いて」と頼むと、今月の数字を伸ばしただけの見込みが出ます。それは経理部長が案件と現場を見て立てる見込みではありません。見込み・懸念・宿題は人が書く。AIに任せるのは、先月の報告から抜き出して今月の事実と並べ、差を示すまで。「違った理由」も、部門に聞いた人が書きます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 先月の報告文から、見込み・懸念・宿題を抜き出す
- 今月の数字・事実と並べ、「そのとおり/違った/未確定」を付ける(数字で判定できるものだけ)
- 「先月との差」を1枚目、「今月の数字」を2枚目にした型に整える
- 宿題の状況が書かれていない項目を指摘する
- 違った理由(部門に聞く)
- 今月の見込み・懸念・宿題
- 報告に載せる項目の選択
- 社長への説明
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 先月の報告と今月の数字
先月の報告の文章(見込み・懸念・宿題が書いてある部分)、今月の主要な数字(売上・利益・主な科目の前月比、千円単位)、今月の出来事メモ。社名・案件名・取引先名は記号に。
往復1回目 ― AIが理由と見込みを書いた
「大型案件の検収で売上が戻る見込み」の行が「判定:違った(売上は前月比−5%)/理由:検収が遅延したと考えられる/今月の見込み:来月に検収されれば回復の見通し」と埋まっていた。
判定は数字から正しい。理由と見込みは推測です。検収が遅れたのか、案件が縮小したのか、部門に聞かないと分かりません。「来月に回復の見通し」を社長に言って、来月も戻らなければ、報告の信用がなくなります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「理由と今月どうするかの欄をすべて空欄に戻してください。判定と今月の事実だけにしてください。」
先月の記述は6件(見込み2、懸念2、宿題2)。判定は「そのとおり2/違った2/未確定2」。
「違った」2件の理由を、営業と開発に聞いて書きます。この架空例では、大型案件は検収が来月にずれ(納期変更の記録あり)、外注費は「一時的」ではなく新規案件の常駐が続くことになっていました。「先月『一時的』と言ったが、続く」と、自分の言葉を訂正して報告します。訂正できる報告が、信用される報告です。
往復2回目 ― 宿題の状況が書かれていない
宿題「回収の遅れている先の状況を確認する」について、「今月の事実:出来事メモに記載なし/判定:未確定」。「宿題の結果が資料にないため、確認が行われたか不明です」と付いていた。
問題ではなく、これがこの往復の価値です。確認はしたのに、出来事メモにも報告にも書いていなかった。社長から見れば「やっていない」と同じ。追加の指示は出しません。
確認した結果(相手の回答、入金予定)を「今月の事実」に書きます。宿題は、やったことより「報告に載ったこと」が結果です。来月から、宿題の結果を出来事メモに書く習慣にします。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 先月の報告が数字だけで、見込み・懸念・宿題がない … 今月から書き始めます。今月の報告の末尾に「来月の見込み・懸念・宿題」を3行入れれば、来月の1枚目ができます。
- 社長の口頭の宿題が、報告に残っていない … 報告の直後に、言われたことを「宿題」として3行メモにします。次の報告の1枚目に載せます。
- 「違った」が続く … 見込みの立て方が甘いか、報告の場で言いすぎている。「未確定」と正直に言う方が、信用は保てます。
- AIがまた見込みを書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 1枚目の「理由」「今月どうするか」が、すべて人が書いたものか。
- 先月の見込み・懸念・宿題の全部が、今月の1枚目に載っているか。抜けが0か。
- 社長から「あれはどうなった」と聞かれる回数が減ったか。
- 「違った」ときに、自分の言葉を訂正して報告できたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 報告が「今月はこうでした」から、「先月こう言いました。今月はこうでした」に変わります。
- 宿題が報告に載り、「やったのに伝わらない」がなくなります。
- 見込みが当たったか外れたかが毎月記録され、見込みの精度が上がります。
- 社長との会話が、数字の説明ではなく、差と次の見込みの話になります。
- 先月の経営者報告を開き、「見込み」「懸念」「宿題」に当たる文に印をつける
- それぞれが今月どうなったかを、1行ずつ書いてみる
- 書けない項目が、次の報告で最初に言うべきこと
応用 ― 難易度を上げる場合
今月の数字の増減の説明は月次決算の変動分析コメントを下書きする、予実の差を決めることに紐づける型は予算と実績の差を、「誰が次に何を決めるか」で並べ直すへ。監査役への報告も同じ「先月との差」の型で、監査役への月次報告を、「変わったこと」と「経理が判断したこと」に絞る。