監査役への月次報告を、「変わったこと」と「経理が判断したこと」に絞る
監査役への月次報告を、試算表の説明ではなく「前月から変わったこと」「経理が判断したこと(判断メモから)」「未解決のこと」の3項目に絞って1枚にする方法です。整形はAI、何を報告するかと判断の中身は人、監査役の権限や報告義務の内容は扱いません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。常勤監査役が1名いて、経理部長が月次で報告しています。資料は月次試算表と、部門別の損益。30分の枠です。
- 報告が、試算表の上から順の読み上げになっている。「売上は前月比で○%増、販管費は…」。監査役は試算表を自分で読める。
- 監査役からの質問が「この処理はどう判断したのか」に集中する。その場で答えられず、持ち帰りになる。
- 経理の中で「判断したこと」は、担当者ごとのメモにある。報告資料には載っていない。
- 先月「確認しておきます」と言ったことが、今月の報告で触れられない。監査役の側で覚えていて、聞かれる。
監査役が知りたいのは、数字そのものより、「前月から何が変わり、経理が何を判断し、何がまだ決まっていないか」。報告をその3つに絞ります。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
月次報告を、3項目の1枚にします。
(a) 変わったこと … 前月比で動きの大きい科目・部門と、その事実(締め前の10分点検で拾ったもの)。
(b) 経理が判断したこと … 今月の判断メモ(事実/判断/理由/次回)から、金額が大きいもの・他部署が絡むもの。
(c) 未解決のこと … 先月「確認しておきます」と言ったことの状況、監査法人・税理士に相談中のこと。
AIに任せるのは、判断メモと点検の結果を3項目の型に整えること。何を載せるか、載せないかは人が決めます。
「監査役に報告すべきこと」を決めること。AIに「監査役への報告事項を挙げて」と頼むと、法令の一般論から立派な項目が並びます。それは貴社の監査役が今月知りたいことでも、法令上の報告義務の範囲でもありません。報告事項の範囲は、法令の原文と社内の基準、そして監査役本人との協議で決めます。AIに任せるのは、人が選んだ項目を1枚に整えるところまで。判断の中身をAIに書かせないのは、判断メモと同じです。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 今月の判断メモ(4項目形式)から、金額と関係部署を基準に「報告候補」を並べる
- 締め前点検の結果から、「変わったこと」の事実だけを1行ずつにする
- 先月の報告の「未解決」欄と今月の状況を並べる
- 3項目の1枚(A4)に整える
- 報告に載せる項目の選択
- 判断の中身と理由(判断メモの本文)
- 監査役から聞かれそうな点への備え
- 報告事項の範囲そのもの(法令・社内基準・監査役と)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 判断メモ・点検結果・先月の未解決
今月の判断メモ(案件名・取引先・人名は記号に)、締め前点検で拾った「出来事で説明がつかない動き」の一覧、先月の報告の「未解決」欄。
往復1回目 ― AIが「報告すべき事項」を足した
1枚の末尾に「その他、監査役への報告が望ましい事項:内部通報の状況、取締役の職務執行に関する事項、リスク管理の状況」という欄が追加されていた。
それは経理の月次報告の範囲ではありません。法令上の一般論から、AIが「望ましい」項目を足しました。これが資料に載ると、経理が答えられない項目について監査役から質問が来ます。報告事項の範囲は、監査役と決めるもの。禁止事項に書いていてもこうなります。
「『その他』の欄をすべて削除してください。3項目だけにしてください。」
3項目だけになった。「経理が判断したこと」は判断メモから3件(売上の計上時期を来月に回した件、大口の未払計上、取込エラーの手修正)。
部長と3件を見て、報告に載せる2件を選びます。取込エラーの手修正は、金額が小さく経理内で完結しているので今月は載せませんでした。載せない判断も、部長と。
往復2回目 ― 「変わったこと」に理由が付いていた
「変わったこと」に「外注費が前月比+30%(新規案件の立ち上げによる増加と考えられる)」とあった。点検結果には「外注費 +30%、出来事メモに該当なし」とだけ書いてある。
「新規案件の立ち上げ」は点検結果にありません。むしろ「出来事メモに該当なし」=理由がまだ分かっていない、が事実です。AIの推測が報告に載ると、監査役に「理由はこれです」と言ったことになります。
「『変わったこと』は点検結果の事実だけにし、理由の推測を削除してください。理由が分かっていないものは『理由:確認中』と書いてください。」
「外注費 +30%/理由:確認中(開発部に確認依頼済み)」になった。
報告の前に開発部に聞き、分かれば事実を書き、分からなければ「確認中」のまま報告して「未解決」欄に入れます。「確認中」と正直に書いた項目が、来月の「未解決」の先頭になります。監査役は、分かっていないことを分かっていない、と言える報告を信頼します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 判断メモがない … 今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにするを先に。メモがないと「判断したこと」の欄が書けません。
- 監査役が「試算表の説明もしてほしい」と言う … 試算表は別添にして、口頭で聞かれたら答えます。1枚は3項目のまま。
- 「未解決」が増え続ける … 解決しないものは、監査法人・税理士との相談に上げるか、部長の判断で「保留」にして理由を書きます。増え続けること自体を報告します。
- AIがまた項目を足す … 削除。毎回。「法令や一般論から足さない」と最初に書いても出てきます。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 1枚に、判断メモ・点検結果・先月の未解決にない項目が混ざっていないか。
- 「変わったこと」に、理由の推測が残っていないか。事実か「確認中」か、のどちらかになっているか。
- 監査役の質問が、持ち帰りではなくその場で答えられたか。
- 先月の「未解決」が、今月の報告で全件触れられたか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 30分の報告が、試算表の読み上げから「変わったこと・判断したこと・未解決」の対話になります。
- 「どう判断したのか」に、判断メモの4項目でその場で答えられます。
- 先月の未解決が今月の報告に必ず載り、持ち越しが管理されます。
- 判断メモが、経理内の記録から監査役への報告の材料に育ちます。
- 先月の監査役報告の資料を開き、「判断したこと」が何件書いてあるか数える
- 今月の判断メモから、金額の大きいものを1件選ぶ
- それを「事実/判断/理由/次回」の4行で、報告用に書いてみる
応用 ― 難易度を上げる場合
判断の記録は今月やった判断を、来月の自分が読めるメモにする、変わったことの拾い方は月次を締める前に、自分で10分だけ見直したいときへ。監査法人との資料のやりとりは監査法人の資料依頼リストを、前期の提出実績と突き合わせて仕分ける。年次では、計算書類の日程に監査役の日程を組み込む計算書類の作成日程を、取締役会・監査役・監査法人の日付から逆算した表にするへ。