債権債務・出納 › 与信・滞留管理活用案

新規取引先の与信の申請を、営業が出す「会社情報・取引条件・根拠資料」の型にして、足りないものを申請のときに出す

営業から来る「この会社と取引を始めたい」を、「会社の基本情報/想定する取引条件(月の取引額・支払サイト・限度額の希望)/根拠資料(登記・決算書・信用調査の有無)/営業の所見」の型にし、AIに申請の型の書式と「足りない項目の一覧」を出させて、経理が判断する前に情報を揃える方法です。書式と不足の指摘はAI、与信の判断は経理責任者、取引を始めるかは営業と責任者。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★☆☆☆ 使う道具チャット型AI

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。新しい取引先と取引を始めるときは、経理が与信を見ることになっています。限度額の見直しは候補出しで回っています。始めるときが、こうです。

  • 営業からの申請が「○○社と取引したいです。よろしく」の一言。会社の基本情報も、想定する取引額も書いていない。
  • 経理が営業に聞き返して、情報を集めている。3往復して、やっと判断できる。
  • 根拠資料(登記・決算書)があるかないかが、申請によって違う。ないときに「取って」と言うと、営業が「急いでいるのに」となる。
  • 判断の記録が、経理のメールにしかない。1年後に「なぜこの限度額に?」と聞かれて答えられない。

与信の判断そのものは経理責任者の話。この記事でやるのは、申請の型を決めて、営業が出すときに足りないものが分かるようにすることです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 申請の型を決める … 会社の基本情報(名称・所在地・設立・代表者・事業内容・従業員の規模)/想定する取引(内容・月の取引額の見込み・支払サイトの希望・限度額の希望)/根拠資料(登記の写し・直近の決算書・信用調査の有無と結果の要旨・取引先のサイト)/営業の所見(なぜこの会社か・懸念があれば)/急ぐ理由(あれば)。
(b) 型の書式と、「足りない項目の一覧」を出す仕組みを作る … AI(書式)。
(c) 営業が型に沿って申請を出す。足りない項目は申請の時点で見える … 営業。
(d) 経理責任者が判断し、判断と理由と条件(限度額・サイト・見直し時期)を申請に書き足す … 責任者。
(e) 判断の記録を一覧にし、見直し時期が来たら候補出しに回す … 経理。

ここはAIを使わない

与信の判断。「取引してよいか」「限度額をいくらにするか」は、根拠資料を見て責任者が決めます。AIに取引先の情報を渡して「この会社は安全か」と聞きません。答えは根拠になりませんし、取引先の情報を外に出すことになります。AIに任せるのは、申請の書式と、書式のどこが空欄かの指摘だけ。それから、取引先の名称や決算書の数字はAIに渡しません。書式を作るのに、実際の会社の情報は要りません。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 申請の型の書式(営業が埋めやすい順番と、各項目の書き方の1行説明)
  • 記入済みの申請(取引先は記号、数字は規模)から、空欄の項目と「書いてあるが型に合っていない項目」の指摘
  • 判断の記録の一覧の書式(申請No./日付/判断/限度額の有無/条件/見直し時期)
  • 営業向けの「申請の前に揃えるもの」の1枚
人が判断する
  • 与信の判断と条件(経理責任者)
  • 根拠資料の取得と確認(営業と経理)
  • 急ぐ申請の扱い(責任者)
  • 見直し時期の設定

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 型の要素だけ

AIに渡すのは、型に入れたい要素の一覧と、営業の側の事情(急ぐことが多い、資料の取り方を知らない)。実際の取引先の情報は渡しません。不足の指摘を頼むときも、取引先は記号、数字は規模で。

用語:チャット型AIだけで完結する使い方です。渡すのは型の要素と、記号・規模に置き換えた申請だけで、取引先の名称や決算書の数字は渡しません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。営業が新規取引先の与信を申請するときの書式を作り、足りない項目が申請のときに分かるようにしたいと考えています。読み手は営業担当者と経理責任者です。 【事実/入力】 ・型に入れたい要素:会社の基本情報/想定する取引(内容・月額の見込み・支払サイトの希望・限度額の希望)/根拠資料(登記・決算書・信用調査の有無・サイト)/営業の所見/急ぐ理由 ・営業は、資料の取り方を知らないことが多く、急いでいることが多いです ・与信の判断と条件は経理責任者が決めます 【依頼】 ①営業が上から順に埋められる申請の書式を作ってください。各項目に、何を書くかの1行説明を付けてください ②根拠資料の項目には、「ある・ない・取得中」の3択と、ない場合に営業が取れるものと経理が取るものの区分を入れてください ③以下に貼る記入済みの申請(取引先は記号、数字は規模)について、空欄の項目と、型に合っていない項目を指摘してください ④判断の記録の一覧の書式(申請No./日付/判断/条件/見直し時期)を作ってください 【出力の型】 ①:書式(項目/1行説明/記入欄) ②:①の根拠資料の部分 ③:表:項目/空欄または合っていない内容 ④:空欄の表 【禁止事項】 ・取引してよいか、限度額をいくらにすべきかを書かないでください ・取引先の信用について評価しないでください ・書式にない項目を、記入済みの申請から推測して埋めないでください

往復1回目 ― AIが「判断」を書いた

AIの初稿

③で、記入済みの申請の空欄が「設立年」「決算書」「限度額の希望」の3つ。指摘の下に「決算書がなく設立年も不明のため、与信は慎重に判断すべきです。限度額は月額見込みの1か月分程度に抑えることを推奨します」と付いていた。

ここが問題

3つの空欄は、これが見たかったもの。「慎重に」「1か月分に抑える」は与信の判断で、責任者が決めることです。禁止事項に書いていてもこうなります。この一言が営業に見えると、「経理はもう決めている」と受け取られます。

追加で出した指示

「判断と推奨の記述を削除し、③は空欄と型に合わない項目の表だけにしてください。」

修正版

①は5区分14項目の書式。②は根拠資料が「ある・ない・取得中」で、登記は営業が取れる、信用調査は経理が取る、の区分。③は3項目。④は空欄の表。

人が最後にやること

営業に③の3項目を埋めてもらいます。決算書は「取得中」で申請を受け付け、責任者が「決算書が来るまで限度額なしの現金取引」と条件を付けて判断。決めたのは責任者。記録は④の一覧に。

往復2回目 ― 「急ぐ理由」

AIの初稿

①の書式の「急ぐ理由」の項目に、「急ぐ場合は簡易審査で対応可能」という説明が付いていた。

ここが問題

「簡易審査」は、この会社の手順にないものです。AIが書式に書くと、営業は「急げば簡単に通る」と読みます。急ぐ申請をどう扱うかは、責任者が決める手順の話です。

追加で出した指示

「『簡易審査』の説明を削除し、『急ぐ理由』の説明は『いつまでに・なぜ急ぐか。急ぐ場合の扱いは経理責任者が判断する』にしてください。」

修正版

説明が直った。

人が最後にやること

責任者が、急ぐ申請の扱いを決めます。「根拠資料が揃うまでは前払か少額の現金取引で始め、揃ったら限度額を決める」。これを書式の下に書き、営業に配ります。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 営業が書式を使わない(従来の一言で来る) … 一言の申請は、書式を返して「ここを埋めて」と頼みます。埋める時間は10分。経理が聞き返す3往復より短い。
  • 根拠資料が取れない相手(設立直後、非公開) … 「ない」と書いてもらいます。ない状態でどう始めるかは責任者の判断。
  • 既存の取引先の取引拡大(限度額の引き上げ) … 同じ書式で「既存」と印を付け、根拠資料は直近の入金実績を足します。
  • AIがまた判断や手順にない扱いを書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 新規取引先の申請すべてが、書式で来ているか。一言の申請が減ったか。
  2. 経理から営業への聞き返しが、申請1件あたり1回以下になったか。
  3. 判断の記録の一覧に、判断・条件・見直し時期がすべて入っているか。
  4. 書式と指摘に、AIの判断や手順にない扱いが混ざっていないか。

7. 注意点

取引先の名称・決算書の数字・信用調査の結果はAIに渡しません。書式を作るのに実際の情報は要りません。社内ルールで確認してください。
与信の判断はAIがしません。「安全か」を聞いても根拠になりません。責任者が根拠資料を見て決め、理由を記録します。
書式に、自社の手順にない扱いを書かせません。急ぐ申請の扱いは責任者が決めて書式に足します。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 申請が来た時点で、足りないものが分かり、聞き返しが減ります。
  • 根拠資料の「ある・ない・取得中」で、判断の前提がはっきりします。
  • 判断と条件と見直し時期が一覧に残り、1年後に「なぜ」に答えられます。
  • 見直し時期が来た取引先が、限度額の見直しの候補に自動で入ります。
明日の仕事で試すこと
  • 最近の新規取引先の申請を1つ開き、会社情報・取引条件・根拠資料・所見のうち、最初から書いてあったものに印を付ける
  • 印のない項目が、書式で埋めてもらう項目
  • その申請の判断の理由が、どこかに書いてあるかを探す

応用 ― 難易度を上げる場合

限度額の見直しは与信限度額と直近の売掛残高・入金遅れを並べて、見直し候補を出す、滞留の管理は滞留債権の年齢調べを行い、督促文案を用意するへ。入金の差の分類は入金予定と入金実績の差を、月次で「早い・遅い・分割・過不足」に分けて営業に聞く一覧にする。