新規取引先の与信の申請を、営業が出す「会社情報・取引条件・根拠資料」の型にして、足りないものを申請のときに出す
営業から来る「この会社と取引を始めたい」を、「会社の基本情報/想定する取引条件(月の取引額・支払サイト・限度額の希望)/根拠資料(登記・決算書・信用調査の有無)/営業の所見」の型にし、AIに申請の型の書式と「足りない項目の一覧」を出させて、経理が判断する前に情報を揃える方法です。書式と不足の指摘はAI、与信の判断は経理責任者、取引を始めるかは営業と責任者。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。新しい取引先と取引を始めるときは、経理が与信を見ることになっています。限度額の見直しは候補出しで回っています。始めるときが、こうです。
- 営業からの申請が「○○社と取引したいです。よろしく」の一言。会社の基本情報も、想定する取引額も書いていない。
- 経理が営業に聞き返して、情報を集めている。3往復して、やっと判断できる。
- 根拠資料(登記・決算書)があるかないかが、申請によって違う。ないときに「取って」と言うと、営業が「急いでいるのに」となる。
- 判断の記録が、経理のメールにしかない。1年後に「なぜこの限度額に?」と聞かれて答えられない。
与信の判断そのものは経理責任者の話。この記事でやるのは、申請の型を決めて、営業が出すときに足りないものが分かるようにすることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 申請の型を決める … 会社の基本情報(名称・所在地・設立・代表者・事業内容・従業員の規模)/想定する取引(内容・月の取引額の見込み・支払サイトの希望・限度額の希望)/根拠資料(登記の写し・直近の決算書・信用調査の有無と結果の要旨・取引先のサイト)/営業の所見(なぜこの会社か・懸念があれば)/急ぐ理由(あれば)。
(b) 型の書式と、「足りない項目の一覧」を出す仕組みを作る … AI(書式)。
(c) 営業が型に沿って申請を出す。足りない項目は申請の時点で見える … 営業。
(d) 経理責任者が判断し、判断と理由と条件(限度額・サイト・見直し時期)を申請に書き足す … 責任者。
(e) 判断の記録を一覧にし、見直し時期が来たら候補出しに回す … 経理。
与信の判断。「取引してよいか」「限度額をいくらにするか」は、根拠資料を見て責任者が決めます。AIに取引先の情報を渡して「この会社は安全か」と聞きません。答えは根拠になりませんし、取引先の情報を外に出すことになります。AIに任せるのは、申請の書式と、書式のどこが空欄かの指摘だけ。それから、取引先の名称や決算書の数字はAIに渡しません。書式を作るのに、実際の会社の情報は要りません。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 申請の型の書式(営業が埋めやすい順番と、各項目の書き方の1行説明)
- 記入済みの申請(取引先は記号、数字は規模)から、空欄の項目と「書いてあるが型に合っていない項目」の指摘
- 判断の記録の一覧の書式(申請No./日付/判断/限度額の有無/条件/見直し時期)
- 営業向けの「申請の前に揃えるもの」の1枚
- 与信の判断と条件(経理責任者)
- 根拠資料の取得と確認(営業と経理)
- 急ぐ申請の扱い(責任者)
- 見直し時期の設定
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 型の要素だけ
AIに渡すのは、型に入れたい要素の一覧と、営業の側の事情(急ぐことが多い、資料の取り方を知らない)。実際の取引先の情報は渡しません。不足の指摘を頼むときも、取引先は記号、数字は規模で。
往復1回目 ― AIが「判断」を書いた
③で、記入済みの申請の空欄が「設立年」「決算書」「限度額の希望」の3つ。指摘の下に「決算書がなく設立年も不明のため、与信は慎重に判断すべきです。限度額は月額見込みの1か月分程度に抑えることを推奨します」と付いていた。
3つの空欄は、これが見たかったもの。「慎重に」「1か月分に抑える」は与信の判断で、責任者が決めることです。禁止事項に書いていてもこうなります。この一言が営業に見えると、「経理はもう決めている」と受け取られます。
「判断と推奨の記述を削除し、③は空欄と型に合わない項目の表だけにしてください。」
①は5区分14項目の書式。②は根拠資料が「ある・ない・取得中」で、登記は営業が取れる、信用調査は経理が取る、の区分。③は3項目。④は空欄の表。
営業に③の3項目を埋めてもらいます。決算書は「取得中」で申請を受け付け、責任者が「決算書が来るまで限度額なしの現金取引」と条件を付けて判断。決めたのは責任者。記録は④の一覧に。
往復2回目 ― 「急ぐ理由」
①の書式の「急ぐ理由」の項目に、「急ぐ場合は簡易審査で対応可能」という説明が付いていた。
「簡易審査」は、この会社の手順にないものです。AIが書式に書くと、営業は「急げば簡単に通る」と読みます。急ぐ申請をどう扱うかは、責任者が決める手順の話です。
「『簡易審査』の説明を削除し、『急ぐ理由』の説明は『いつまでに・なぜ急ぐか。急ぐ場合の扱いは経理責任者が判断する』にしてください。」
説明が直った。
責任者が、急ぐ申請の扱いを決めます。「根拠資料が揃うまでは前払か少額の現金取引で始め、揃ったら限度額を決める」。これを書式の下に書き、営業に配ります。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 営業が書式を使わない(従来の一言で来る) … 一言の申請は、書式を返して「ここを埋めて」と頼みます。埋める時間は10分。経理が聞き返す3往復より短い。
- 根拠資料が取れない相手(設立直後、非公開) … 「ない」と書いてもらいます。ない状態でどう始めるかは責任者の判断。
- 既存の取引先の取引拡大(限度額の引き上げ) … 同じ書式で「既存」と印を付け、根拠資料は直近の入金実績を足します。
- AIがまた判断や手順にない扱いを書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 新規取引先の申請すべてが、書式で来ているか。一言の申請が減ったか。
- 経理から営業への聞き返しが、申請1件あたり1回以下になったか。
- 判断の記録の一覧に、判断・条件・見直し時期がすべて入っているか。
- 書式と指摘に、AIの判断や手順にない扱いが混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 申請が来た時点で、足りないものが分かり、聞き返しが減ります。
- 根拠資料の「ある・ない・取得中」で、判断の前提がはっきりします。
- 判断と条件と見直し時期が一覧に残り、1年後に「なぜ」に答えられます。
- 見直し時期が来た取引先が、限度額の見直しの候補に自動で入ります。
- 最近の新規取引先の申請を1つ開き、会社情報・取引条件・根拠資料・所見のうち、最初から書いてあったものに印を付ける
- 印のない項目が、書式で埋めてもらう項目
- その申請の判断の理由が、どこかに書いてあるかを探す
応用 ― 難易度を上げる場合
限度額の見直しは与信限度額と直近の売掛残高・入金遅れを並べて、見直し候補を出す、滞留の管理は滞留債権の年齢調べを行い、督促文案を用意するへ。入金の差の分類は入金予定と入金実績の差を、月次で「早い・遅い・分割・過不足」に分けて営業に聞く一覧にする。