給与計算の結果と、人件費の仕訳・預り金の残高を突き合わせる
給与計算システムの集計(支給総額・控除の内訳・振込額)と、会計の仕訳(人件費・預り金・未払)、預り金の残高の動きを突き合わせて、合わない項目をAIに出させる方法です。突合はAI、原因は人事・給与担当と経理で確認、控除の計算の正しさは給与担当と社会保険労務士・税理士。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。給与は人事の給与計算システムで計算され、経理はその集計表から仕訳を起こします。月末に、預り金(社会保険料・税の従業員負担分)の残高が、納付後にゼロにならず、毎月少しずつ増えています。
- 給与の集計表と仕訳が、項目の名前も粒度も違う。集計表は「健康保険」「厚生年金」、仕訳は「社会保険料預り金」の1本。
- 預り金の増減が、給与の控除額と納付額で説明できるはずなのに、合わない。差は小さいが、毎月積み上がる。
- 賞与月・入退社の月に、特に合わない。
- 監査法人に「預り金の残高の内訳」を聞かれて、答えられなかった。
控除の計算が正しいかは、給与担当と専門家の話。この記事でやるのは、給与の集計・仕訳・預り金の動きを毎月突き合わせ、合わない項目を出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 給与の集計表を、仕訳の科目の粒度に揃える … 支給総額/控除(社会保険料・所得税・住民税・その他)/振込額。人数も。
(b) 仕訳を出す … 人件費の科目/預り金の科目(貸方)/未払給与/現金預金(振込)。
(c) 集計表と仕訳を項目ごとに突き合わせる … AI。
(d) 預り金の残高の動きを、「前月残高+今月の控除−今月の納付=当月残高」で確かめる … AI。合わなければ差額。
(e) 差額の原因を、給与担当と経理で確認する … 人。
控除の金額が正しいかの判断と、差額の原因の決定。AIに「社会保険料の控除額は正しいか」と聞いてはいけません(料率や計算の根拠はAIには確かめられず、専門家の領域)。控除の正しさは給与担当と社会保険労務士・税理士。差額の原因は、給与の明細と納付書を見た人が決めます。AIに任せるのは、集計・仕訳・残高を突き合わせて、合わない項目と金額を出すまで。それから、従業員ごとの明細をAIに渡さない(集計表だけ)。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 給与の集計表を、仕訳の科目の粒度に揃える
- 集計表と仕訳を項目ごとに突き合わせ、差額を出す
- 預り金の「前月残高+控除−納付=当月残高」を計算し、実際の残高との差を出す
- 過去数か月の差額を並べ、差額が出る月の傾向(賞与月・入退社月)を示す
- 差額の原因(給与の明細・納付書を見て、給与担当と)
- 仕訳の修正
- 控除の計算の正しさ(給与担当・専門家)
- 預り金の内訳の管理方法
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 集計表・仕訳・残高(集計のみ)
給与計算システムの月次集計表(項目/金額/人数。個人別は不要)、人件費と預り金の仕訳、預り金の前月残高・当月残高、今月の納付額(納付書から)。金額は千円単位。従業員名・個人別の金額は絶対に渡しません。
往復1回目 ― AIが料率を語った
①の社会保険料の行に「支給総額に対する控除の比率が一般的な料率と異なるため、計算に誤りがある可能性があります」と付いていた。
料率の正しさは、AIが確かめられることではありません。標準報酬や等級、対象者の範囲で比率は変わります。この一文が給与担当に渡ると、専門家の領域にAIの推測で踏み込むことになります。禁止事項に書いていてもこうなります。
「料率や計算の正しさに関する記述をすべて削除してください。①は金額の突き合わせだけにしてください。」
①は差額なし(集計表と仕訳は一致)。②で住民税の預り金に差 +12 が出た。③で、過去3か月とも住民税に小さな差が出ていて、入退社のあった月に大きい。
給与担当と、住民税の納付書と控除の内訳を見ます。この架空例では、退職者の住民税を退職月に一括で控除したが、納付は翌月以降に分かれていて、経理がその対応を知らなかった。差は誤りではなく、控除と納付の時期のずれ。預り金の内訳を「当月分」「退職者の一括分」に分けて管理することにしました。
往復2回目 ― 賞与月
賞与月の③で、社会保険料の預り金に差 −85。「賞与の控除の計上漏れの可能性」と付いていた。
差の抽出は正しい。「計上漏れ」は推測で、賞与分の納付が翌月で、納付書の月が違うだけかもしれません。
「原因の記述を削除してください。」
表だけになった。
納付書を見ると、賞与分の納付が翌月分の納付書に含まれていて、経理が「今月の納付」に入れていませんでした。納付書の対象月と、預り金の対応を表にしておきます。これで賞与月の差が説明できます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 集計表の項目が仕訳の科目に揃えられない … 給与担当に「経理向けの集計」を出してもらいます。項目の対応表を1度作れば、毎月使えます。
- 預り金の残高が過去から合っていない … 過去の差の積み上がりです。今月の差だけを先に合わせ、過去分は「原因不明の残高」として上司と監査法人に伝えます。
- 納付書の対象月が分かりにくい … 納付書ごとに「対象月」を書いた一覧を持ちます。給与担当と共有。
- AIがまた料率や原因を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- ①②に、料率や原因のAIの記述が残っていないか。
- 預り金の科目ごとに、「前月残高+控除−納付=当月残高」が成り立つか。成り立たない場合、差の原因が記録されているか。
- 預り金の残高の内訳(当月分・退職者分・賞与分)を、監査法人に説明できるか。
- 預り金の残高が「毎月少しずつ増える」状態が止まったか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 預り金の残高の動きが、毎月「前月+控除−納付」で確かめられます。
- 退職者の一括控除・賞与の納付時期のような、時期のずれが説明できます。
- 「預り金の内訳」に、当月分・退職者分・賞与分で答えられます。
- 給与担当と経理の間に、項目の対応表と納付書の対象月の一覧ができます。
- 先月の預り金(住民税)について、前月残高・控除・納付・当月残高を並べる
- 「前月+控除−納付」を計算し、当月残高と比べる
- 合わなければ、納付書の対象月を見る
応用 ― 難易度を上げる場合
銀行残高の差異は銀行残高と帳簿が合わないとき、差異の一覧を作る、退職給付の報告書の読み方は年金数理の計算報告書を、前年と比べて「変わったところ」だけ読むへ。源泉徴収の要否の候補拾いは支払う前に「源泉徴収が要りそうな支払」を候補として拾う。