AI利用ルールを、四半期ごとに「使った場面・困ったこと・変えること」の一覧で見直す
経理部門のAI利用ルールを作ったあと、作業ごとの記録(何を渡したか・誰が確認したか)を四半期ごとに集計し、「ルールに書いていない使い方」「置き換えを忘れかけた場面」「守れていない項目」を一覧にして、ルールのどこを変えるかを決める材料にする方法です。集計と一覧はAI、変えるかどうかは経理責任者、禁止・許可の判断は人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。経理部門では半年前にAI利用ルールの1枚を作り、作業ごとに何を渡したかの記録を残しています。ルールはできた。記録もある。でも。
- ルールの1枚を、作ってから誰も読み返していない。「そういえばあったね」の状態。
- 記録は溜まっているが、集計していない。どんな作業に、どのくらい使われているかを、誰も知らない。
- ルールに書いていない使い方が始まっている。議事録の要約、英文メールの下書き。よいのか悪いのか、判断されていない。
- 「あのとき危なかった」が共有されていない。取引先名を置き換え忘れて送りかけた、という話が、本人の記憶にだけある。
ルールを厳しくする話でも、緩める話でもありません。この記事でやるのは、記録から「使った場面・困ったこと」を集計して、ルールのどこを変えるかを決める材料を四半期ごとに作ることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 作業ごとの記録(日付/作業の種類/渡したものの種類/置き換えの有無/確認した人)を四半期分集める … 人。
(b) 記録を作業の種類ごとに集計し、ルールの1枚に書いてある作業と書いていない作業に分ける … AI。
(c) 部員から「困ったこと・危なかったこと」を1人1行で集め、種類ごとにまとめる … 集めるのは人、まとめるのはAI。
(d) 「ルールに書いていない使い方」「置き換えを忘れかけた場面」「守れていない項目」の3つの一覧を作る … AI。
(e) 一覧を見て、ルールの何を足すか・直すか・そのままにするかを決める … 経理責任者。
ルールを変えるかどうか、何を許可し何を禁止するか。AIは「書いていない使い方が12件ある」までは出せますが、それを許可するか禁止するかは、会社の情報の扱い方と責任の話で、経理責任者が決めます。それから、記録の中身(渡した資料そのもの)はAIに渡しません。渡すのは記録の一覧(作業の種類・渡したものの種類)だけ。「困ったこと」の本人名も渡しません。職位と種類だけ。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 作業ごとの記録を、作業の種類別に集計する
- ルールの1枚に書いてある作業と、書いていない作業に分ける
- 「困ったこと」を種類ごとにまとめる(置き換え忘れ・出力の誤り・保存場所など)
- 見直し会議の1枚(3つの一覧+決めること)の下書き
- 記録と「困ったこと」を集める
- ルールに書いていない使い方を、許可するか禁止するか保留するか(経理責任者)
- ルールの改定と、部員への周知
- 「守れていない項目」の理由を本人に聞く(責めずに)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 記録の一覧とルールの1枚
四半期分の記録の一覧(日付/作業の種類/渡したものの種類/置き換えの有無/確認した人の職位)、ルールの1枚の本文、部員から集めた「困ったこと」(職位と1行)。渡した資料そのものと、本人名は渡しません。
往復1回目 ― AIが「禁止すべき」と書いた
①でルールに記載のない種類が「議事録の要約 23件」「英文メールの下書き 9件」「契約書の要点整理 4件」など6種類。④に「契約書の要点整理は機密性が高いため禁止を検討すべき」と書かれていた。
6種類が見えたのは、これが見たかったもの。「禁止を検討すべき」は、許可・禁止の判断で、契約書の要点整理が置き換え後の資料で行われていたなら問題ないかもしれません。禁止事項に書いていてもこうなります。
「許可・禁止に関する記述を削除し、④は『契約書の要点整理(4件)を、ルールにどう位置づけるか』のように、論点だけにしてください。」
④は「記載のない6種類の位置づけ」「置き換えなしの11件の扱い」「困ったことの上位2種類への対応」の3つの論点になった。
契約書の要点整理の4件は、記録を見ると全部「置き換えあり」でした。ルールに「契約書は相手先名・金額を置き換えた上で可」と足します。議事録の要約は、参加者名が入ったまま渡されていた可能性があるので、当面「保留」として本人に聞きます。決めたのは責任者。
往復2回目 ― 「置き換えなし」の11件
③の11件を確認した人の職位で集計すると、1つの職位に8件が集中。「当該担当者のルール理解が不十分と考えられます」と付いていた。
集中の事実は大事。「理解が不十分」は人への評価で、その職位が担当する作業(たとえば取込データの作成)が、置き換えの手順が使いにくい種類なのかもしれません。
「評価の記述を削除し、③を作業の種類ごとにも集計してください。」
11件のうち9件が「取込データ作成」。この作業は列の名前だけを渡すので、置き換えの対象がそもそもない場合が多い。
本人に聞くと、「列名だけなので『置き換えなし』と書いた」とのこと。ルールの記録欄に、「置き換え対象なし」の選択肢を足します。守れていなかったのではなく、記録の型が合っていなかった。残り2件は本当に置き換え忘れで、本人が資料の種類ごとの置き換え手順を読み直しました。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 記録が集まっていない … 集計以前の話。まず記録を残す型から。記録のない作業がどのくらいあるかも、本人に聞いて把握します。
- 「困ったこと」が1件も出てこない … 出てこないのは、なかったからではなく、言いにくいから。責任者が自分の失敗を先に1行書きます。
- ルールを変えると、また周知が必要で面倒 … 変えるのは四半期に1回まで。変えないという決定も記録します。
- AIがまた許可・禁止や評価を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- ルールに書いていない使い方が、四半期ごとに「許可・禁止・保留」のどれかに位置づけられているか。放置されていないか。
- 「困ったこと」が、本人の記憶ではなく一覧に残っているか。
- ルールを変えた・変えなかった理由が、見直し会議の1枚に残っているか。
- 一覧に、AIの許可・禁止の判断や人への評価が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- ルールの1枚が、四半期ごとに読み返され、使い方の実態に合わせて直されます。
- ルールに書いていない使い方が、始まってから3か月以内に位置づけられます。
- 「危なかった」が一覧になり、次の人の置き換え手順に反映されます。
- 見直しの1枚が、監査法人や監査役に「AIをどう使い、どう管理しているか」を説明する元になります。
- 自分の部門のAI利用ルールを開き、最後に読んだ日を思い出す
- この1か月でAIに頼んだ作業を3つ書き出し、ルールに書いてあるか見る
- 1つでも書いていなければ、それが次の見直しの論点
応用 ― 難易度を上げる場合
ルールの作り方は経理部門のAI利用ルールを、1枚で決める、記録の型はAIに何を渡したかの記録を、作業ごとに残すへ。出力を使う前の確認はAIが作った表を使う前に、元データと「件数・合計・抜き取り」の3点で確かめる手順を型にする。