取引銀行への決算説明の資料を、去年の資料と今年の数字から「変わった項目と理由」だけ先に整理して作る
決算後に取引銀行へ説明する資料(業績・財務の状況・資金の見通し)について、去年の資料の項目と今年の数字の方向を並べ、「去年から大きく変わった項目」「去年の説明が今年は当てはまらない箇所」「去年銀行から聞かれた質問に今年も関わる項目」をAIに出させて、資料の作成を「変わったところ」から始める方法です。整理と抽出はAI、説明の内容と資料の作成は財務責任者、銀行に出す判断は経営者と責任者。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。決算が終わると、取引銀行4行に決算の説明に行きます。銀行ごとの条件は一覧にしてあります。資料の側で、こうなります。
- 毎年ゼロから作っている。去年の資料はあるが、どこを変えればよいかが分からず、結局全部書き直す。
- 去年銀行から何を聞かれたか、覚えていない。同じ質問をされて、また調べる(監査役の質問一覧と同じ問題)。
- 去年の説明(「新規案件の増加で増収」)が今年は当てはまらないのに、去年の文を残してしまう。
- 銀行によって聞くことが違うのに、同じ資料を使っている。
説明の内容は経営者と責任者の話。この記事でやるのは、去年の資料と今年の数字から「変わったところ」を先に出して、資料をそこから作ることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 去年の資料の項目(見出しと、各項目の説明の要旨)と、去年銀行から聞かれた質問の一覧(銀行記号/質問の要旨)を用意する … 人。
(b) 今年の数字の方向(項目/増・減/率の丸め)を用意する … 人。実際の金額は渡さない。
(c) ①去年の資料の項目のうち、今年の方向が去年と大きく違う項目、②去年の説明の要旨が今年の方向と矛盾する項目、③去年の質問のうち、今年も関わる項目(同じテーマが変わった)、④銀行ごとに去年聞かれたテーマ、を出す … AI。
(d) ①②③をもとに、責任者が「変わった項目と理由」の1枚を先に書き、それから資料全体を直す … 責任者。
(e) 銀行ごとに④のテーマを追記し、経営者が出す判断をする … 経営者と責任者。
説明の内容を書くこと、何を銀行に出すかを決めること。銀行への説明は借入の条件に関わり、経営者と責任者の判断です。AIに「銀行向けの説明文を書いて」と頼みません。それから、実際の決算の数字はAIに渡しません。公表している会社なら公表後の数字、非公開の会社なら方向と丸めた率だけ。社内ルールで確かめます。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 去年の資料の項目と今年の方向を並べ、大きく変わった項目を出す
- 去年の説明の要旨が今年の方向と矛盾する項目を出す
- 去年の質問の一覧から、今年も関わるテーマと、銀行ごとのテーマを出す
- 「変わった項目と理由」の1枚の書式(理由は空欄)
- 変わった項目の理由と説明の内容(責任者)
- 資料の作成と、銀行ごとの追記(責任者)
- 銀行に出す判断(経営者と責任者)
- 数字をどこまでAIに渡すか(社内ルール)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 去年の資料の項目と質問、今年の方向
去年の資料の項目と説明の要旨(数字は消す)、去年の質問の一覧(銀行は記号)、今年の方向(項目/増・減/率の丸め)。実際の金額は渡しません。
往復1回目 ― AIが「説明の仕方」を提案した
①で「営業利益」が去年増益、今年減益。表の下に「減益については、一時的な要因(先行投資など)として説明し、翌期の回復見通しを添えることで銀行の懸念を和らげられます」とあった。
営業利益の変化は見たかったもの。「一時的な要因として説明」「懸念を和らげる」は説明の仕方の提案で、しかも事実と違う説明を促す方向です。銀行への説明は事実に基づいて経営者が決めること。禁止事項に書いていてもこうなります。
「説明の仕方に関する記述を削除し、①は表だけにしてください。」
①は大きく変わった項目が6つ。②は去年の説明が今年は当てはまらないのが4項目。③は去年の質問15件のうち今年も関わるのが7件。④はB1が「資金の見通し・借入の返済」、B2が「事業の内容・人員」、など。
責任者が①②の項目について、「変わった項目と理由」の1枚を、事実だけで書きます。減益の理由は、経営者と確かめた事実。それから資料全体を直します。
往復2回目 ― 銀行ごとのテーマ
④の銀行ごとのテーマの下に、「B2は事業内容への関心が高いため、新規事業の詳細を厚めに説明すると好印象です」とあった。
テーマの一覧はよい。「厚めに説明すると好印象」は説明の戦略の提案で、何をどこまで出すかは経営者の判断です。
「提案を削除し、④は表だけにしてください。」
表だけになった。
責任者は、共通の資料に加えて、銀行ごとに④のテーマの1ページを足すと決め、経営者に見せて出す判断をもらいます。今年の質問も、面談のあとに一覧に足します。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 去年の質問を記録していない … 今年の面談から記録します。去年の分は、同席した人の記憶で分かる範囲。
- 数字の方向すらAIに渡せない … ②③④は去年の資料と質問だけでできます。①は人が方向を見ながら。
- 銀行から新しいテーマ(たとえば環境対応)を聞かれた … 一覧に足し、来年の資料の項目の候補にします。
- AIがまた説明の仕方や戦略を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 今年の資料の「変わった項目」すべてに、事実に基づく理由があるか。
- 去年の説明のうち、今年は当てはまらない文が、資料に残っていないか。
- 去年の質問のうち今年も関わるものに、資料の中で先回りの記述があるか。
- 資料に、AIが書いた説明文や戦略が混ざっていないか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 資料の作成が、ゼロからではなく「変わったところ」から始まります。
- 去年の質問に、今年の資料で先回りできます。
- 銀行ごとのテーマが分かり、共通の資料に1ページ足すだけで済みます。
- 質問の一覧が、来年の資料と、財務担当の引き継ぎの資料になります。
- 去年の銀行向けの資料を開き、項目の見出しを書き出す
- 去年の面談で聞かれた質問を、思い出せるだけ書く
- 思い出せない銀行があれば、それが今年から記録を始める理由
応用 ― 難易度を上げる場合
銀行ごとの条件は取引銀行ごとの条件(口座・手数料・借入枠・担保・更新日)を1つの一覧にして、更新日を追う、財務制限条項は借入契約の財務制限条項を、決算前に確認するへ。経営者向けの報告は経営者向けの月次報告を、「先月言ったこととの差」から書き始める。