キャッシュ・フロー計算書の作成資料を、去年と同じ「BS増減+非資金項目」の形に整える
キャッシュ・フロー計算書の作成に使う「貸借対照表の増減表」と「非資金項目・調整項目の一覧」を、去年の作成資料と同じ形に整え、去年になかった項目と去年と対応が取れない項目をAIに出させる方法です。整形と抽出はAI、各項目をどの区分に載せるかは基準の原文と監査法人、AIには区分を決めさせません。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。決算で、キャッシュ・フロー計算書を作ります。前任者のExcelがあり、貸借対照表の期首・期末の差から始めて、非資金項目や区分の組み替えを足していく作りです。
- Excelの「調整」の欄に、去年の数字がそのまま残っている行がある。今年も同じ項目があるのか、去年だけの項目なのか、分からない。
- 今年新しく出た取引(子会社の設立、リース契約の開始、社債の発行)が、去年のExcelのどこにも行がない。どこに足せばよいか、前任者に聞けない。
- 合計が現金の増減と合わない。差額を探して、深夜まで数式を追う。
- 監査法人から「この調整項目の根拠は」と聞かれて、去年の数字を引き継いだだけだと答えられなかった。
各項目をどの区分に載せるかは、基準と監査法人の話。この記事でやるのは、作成資料を去年と同じ形に整え、去年になかった項目と対応が取れない項目を先に出すことです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 今年の貸借対照表の増減表を作る … 科目/期首/期末/増減。会計システムから。
(b) 去年の作成資料から、「非資金項目・調整項目の一覧」を型として取り出す … 項目名/去年の金額/元データ(減価償却費なら固定資産台帳、など)。
(c) 今年の増減表と、去年の一覧を並べる … 去年になかった科目・項目/去年にあって今年にない項目/去年の金額のまま残っている項目。AI。
(d) 出た項目の元データを人が集め、区分は基準の原文と監査法人で確認する。
(e) 合計が現金の増減と合うかを確かめる … 合わなければ、どの項目の元データが足りないかを見る。
各項目を「営業・投資・財務」のどの区分に載せるか、非資金項目をどう扱うか。AIに「社債の発行はどの区分ですか」と聞くと答えますが、基準の原文と貴社の取引の実態に照らして正しいかは、AIには確かめられません。区分と表示は、基準の原文と監査法人と。AIに任せるのは、去年の型に今年を流し込み、対応の取れない項目を出すまで。差額が合わないときに「調整項目を作って合わせる」のもAIにさせない。差額は、元データの不足を探す手がかりです。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 今年の増減表を、去年の作成資料の科目・項目の並びに揃える
- 去年になかった科目・項目、去年にあって今年にない項目、去年の金額のまま残っている項目を出す
- 各項目の「元データの種類」を去年の一覧から転記する(今年の数字は入れない)
- 合計と現金の増減の差額を計算し、差額の大きさを示す(原因は書かない)
- 去年になかった項目の元データ(固定資産台帳・借入の契約・子会社の資料)
- 各項目の区分と表示(基準の原文・監査法人と)
- 差額の原因(元データを見て)
- 去年の金額のまま残っている項目の扱い(今年の数字に直すか、消すか)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 今年の増減表と去年の作成資料
今年の貸借対照表の増減表(科目/期首/期末/増減、千円単位)と、去年の作成資料(非資金項目・調整項目の一覧:項目名/去年の金額/元データの種類)。今年の出来事メモ(子会社設立、リース開始、社債発行など)。
往復1回目 ― AIが去年の金額を今年に入れた
①の「今年の増減」列に、増減表にない項目(減価償却費、賞与引当金の増減など)について、去年の金額がそのまま入っていた。
これが「去年の数字がそのまま残る」原因そのものです。増減表にない項目(非資金項目)の今年の金額は、固定資産台帳や決算整理仕訳から人が取るもので、去年の金額ではありません。禁止事項に書いていてもこうなります。
「増減表にない項目の『今年の増減』は空欄にしてください。去年の金額を転記しないでください。」
非資金項目8行の今年の金額が空欄になり、「元データの種類」が横に並んだ(減価償却費:固定資産台帳、引当金の増減:決算整理仕訳、など)。
8行の空欄を、元データから埋めます。去年の数字を「たぶん同じくらい」で残さない。元データが見つからない項目は「未取得」と書いて、監査法人に伝えます。
往復2回目 ― 出来事メモにあるのに項目がない
③で「社債の発行:対応しそうな項目なし(去年の一覧にない)」「子会社の設立(出資):対応しそうな項目なし」「リース契約の開始:対応しそうな項目なし」の3つが挙がった。末尾に「社債の発行は財務活動、出資は投資活動に区分されます」と書かれていた。
3つの抽出は、これが見たかったもの。去年の型には無い項目です。ただし「財務活動」「投資活動」の区分は、AIが決めてよいものではありません。取引の実態(社債の条件、出資の形態、リースの内容)と基準の原文に照らして、監査法人と決めます。
「区分に関する記述を削除してください。③は項目の有無だけにしてください。」
3行だけになった。
3つについて、元データ(社債の契約、出資の払込の記録、リース契約)を集め、監査法人に「今年、去年の資料にない取引が3つあります。区分と表示を確認させてください」と、決算の前に伝えます。決算中に初めて出すと、双方が困ります。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 合計が現金の増減と合わない … 差額をAIに計算させ、「差額と同じか近い金額の項目」を①〜③から探させます。ただし合わせるための調整項目を作らない。元データの不足か、増減表の科目の抜けを疑います。
- 去年の作成資料に「元データの種類」が書いていない … 今年から書きます。去年の分は「不明」として、今年の作業で埋めます。来年からは型が育ちます。
- 連結の場合、子会社のパッケージから取る項目がある … 連結パッケージの差分確認の型で、子会社分の元データを先に揃えます。
- AIがまた区分を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 作成資料の各項目の今年の金額が、すべて元データから取ったものか。去年の金額のまま残っている行がないか。
- 出来事メモの取引が、すべて作成資料の項目に現れているか。現れていないものは監査法人に伝えたか。
- 合計が現金の増減と一致したか。一致しない場合、調整項目で合わせていないか。
- 各項目の区分を、監査法人と確認した記録があるか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- 「去年の数字がそのまま」の行が、空欄→元データで埋めるに変わります。
- 今年の新しい取引が、決算前に監査法人に伝わります。
- 「この調整項目の根拠は」に、元データの種類とファイルで答えられます。
- 作成資料に「元データの種類」の列が育ち、来年の型になります。
- 去年のキャッシュ・フロー計算書の作成Excelを開き、「調整」の行を数える
- 各行の隣に「元データはどこか」を自分で書いてみる。書けない行に印をつける
- 今年の出来事メモから、去年のExcelに行がない取引を1つ挙げる
応用 ― 難易度を上げる場合
「去年の資料を型にして、今年を流し込み、対応の取れない項目を出す」型は税効果・減損の決算資料を、去年の資料と比べて変わった箇所を出す・消費税申告の集計資料を、前年の資料と同じ形に揃えて税理士に渡すと共通です。出来事メモは決算前に、去年と今年で変わったところだけ洗い出すで作ります。資金繰り表との違いを意識するなら資金繰り表の作成を補助し、シナリオ試算を行うへ。