年次決算・開示 › 退職給付活用案

退職給付の計算に渡す従業員データを、去年の提出データと集計で比べて「人数の増減・欠落・区分の変更」を出してから年金数理人に渡す

年金数理人(または計算の委託先)に渡す従業員データについて、個人の行ではなく「年齢帯×勤続帯×区分(正社員・嘱託など)の人数」と「給与の区分ごとの人数」の集計表を作り、去年の集計と並べて「人数の増減が入退社の記録と合わない帯」「去年あった区分がない」「新しい区分」をAIに出させ、渡す前に人事と確かめる方法です。集計の比較はAI、データの修正は人事、計算と会計処理は年金数理人と会計基準の原文・監査法人。

AI操作難易度★☆☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。退職給付の計算は年金数理人に委託していて、計算報告書は前年との比較で読んでいます。その前段、従業員データを渡すところで、こうなります。

  • 年金数理人から「去年より人数が大きく減っていますが、合っていますか」と聞かれて、初めてデータの欠落に気づく。人事のシステムから出すときに、ある部門が抜けていた。
  • 去年あった区分(嘱託)が今年のデータにない。区分の名前が変わっただけなのか、本当にいないのか。
  • データの修正を年金数理人に頼むと、計算がやり直しになり、決算の日程が詰まる。
  • 個人の情報なので、経理が中身を細かく見るのをためらう。見ないまま渡している。

計算と会計処理は年金数理人と基準・監査法人の話。この記事でやるのは、個人の行ではなく集計で去年と比べて、渡す前にデータの欠落と区分の変更を見つけることです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 集計の型を決める … 年齢帯(5歳刻み)×勤続帯(5年刻み)×区分の人数、給与の区分(帯)ごとの人数、部門ごとの人数。個人の行は使わない。
(b) 今年の従業員データから集計表を作る … 人事または経理(Excelのピボットで)。個人の行はAIに渡さない。
(c) 去年の集計表と並べ、①部門ごとの人数の増減が入退社の記録(人数だけ)と合わない部門、②去年あって今年ない区分・帯、③今年新しい区分、④年齢帯が1つ上に動いた人数と、動かなかった人数のずれ(同じ人は1年で1歳増える)、を出す … AI。
(d) ①〜④を人事と確かめ、データを直す … 人事と経理。
(e) 確かめた記録(何を見て、何を直したか)を添えて年金数理人に渡す … 経理。

ここはAIを使わない

個人のデータを見ること、計算、会計処理。集計の比較はAIでできますが、個人の行(氏名・生年月日・給与)は絶対にAIに渡しません。集計表(人数だけ)を渡します。データの修正は人事が個人の行を見て行い、計算は年金数理人、会計処理は基準の原文と監査法人との協議。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 今年と去年の集計表(人数だけ)を並べ、増減の一覧を出す
  • 入退社の人数と合わない部門、消えた区分・帯、新しい区分を出す
  • 年齢帯・勤続帯の「1つ上に動く」の整合の確認(人数ベース)
  • 年金数理人に添える「確認した点」の記録の書式
人が判断する
  • 個人の行の確認と修正(人事)
  • 区分の名前の変更か実態の変更かの判断(人事)
  • 年金数理人への提出と、質問への回答(経理)
  • 計算と会計処理(年金数理人、基準の原文と監査法人)

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 集計表(人数だけ)

今年と去年の集計表(年齢帯×勤続帯×区分の人数、給与帯ごとの人数、部門ごとの人数)と、この1年の入社・退職の人数(部門ごと)。個人の行は渡しません。給与帯も人数だけ。

用語:チャット型AIと、手元のExcelでの前処理(ピボットでの集計。個人の行を渡さない)を組み合わせます。人数の集計表だけを渡します。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。退職給付の計算に渡す従業員データを、集計表で去年と比べて、欠落や区分の変更を渡す前に見つけたいと考えています。読み手は私と人事担当です。 【事実/入力】 ・以下に、今年の集計表(年齢帯×勤続帯×区分の人数/給与帯ごとの人数/部門ごとの人数)を貼ります。個人の行は含みません ・以下に、去年の同じ集計表を貼ります ・以下に、この1年の入社と退職の人数(部門ごと)を貼ります ・データの修正は人事が行い、計算は年金数理人が行います 【依頼】 ①部門ごとに、去年の人数+入社−退職と、今年の人数を比べ、合わない部門を出してください ②去年の集計にあって今年にない区分・年齢帯・勤続帯と、今年新しい区分を出してください ③年齢帯について、去年のある帯の人数のうち今年1つ上の帯に動くはずの人数と、今年の実際の人数の差が大きい帯を出してください(入退社の人数を考慮して概算で) ④渡す前に確認した点を記録する書式(確認項目/結果/確認者/日付)を作ってください 【出力の型】 ①:表:部門/去年/入社/退職/計算上の今年/実際の今年/差 ②:表:区分・帯/去年の人数/今年の人数/種類(消えた・新しい) ③:表:年齢帯/去年の人数/今年の想定/今年の実際/差 ④:空欄の表 【禁止事項】 ・退職給付の計算や会計処理について書かないでください ・差の理由を推測して書かないでください ・個人を特定するような記述をしないでください(人数の集計だけ扱ってください)

往復1回目 ― AIが「理由」を書いた

AIの初稿

①で「開発第2部」の今年の人数が、計算上より18人少ない。表の下に「開発第2部で大規模な組織変更があったか、データの抽出条件から漏れた可能性があります」とあった。

ここが問題

18人の差は見たかったもの。「組織変更」「抽出漏れ」は推測で、人事に聞く前に一覧に書かれると、人事がその方向で確かめてしまいます。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「理由の推測を削除し、①は表だけにしてください。」

修正版

①は開発第2部の差が18人、他は0〜1人。②は去年の「嘱託」区分が今年ない、今年「契約社員」区分が新しい。③は「40〜44歳」帯の差が大きい。④は書式。

人が最後にやること

人事に聞くと、開発第2部の18人は、部門コードが変わった人が抽出条件から漏れていたもの。人事がデータを直します。「嘱託」と「契約社員」は名前の変更で同じ区分。年金数理人に「区分名の変更」と伝えます。

往復2回目 ― 年齢帯の差

AIの初稿

③で「40〜44歳」帯の差が大きい。付記に「この年齢帯の給与水準は退職給付債務への影響が大きいため、優先的に確認してください」とあった。

ここが問題

差の抽出はよい。「債務への影響が大きい」は計算の内容で、この記事の範囲外です。影響の大小は年金数理人が計算して分かること。

追加で出した指示

「計算への影響に関する記述を削除し、③は表だけにしてください。」

修正版

表だけになった。

人が最後にやること

人事が個人の行を見ると、生年月日の入力が年だけで月日が抜けている人が数人いて、年齢帯の計算がずれていた。直します。④の記録に「部門コードの漏れ18人/区分名の変更/生年月日の欠落」と書き、年金数理人に添えます。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 去年の集計表がない … 去年年金数理人に渡したデータから、人事がピボットで集計します。個人の行は人事の手元だけで。
  • 集計表を作るExcelの操作が分からない … ピボットの作り方をAIに聞くのはよい(個人の行は渡さず、列の名前だけで)。
  • 差が全部小さくて、渡す前の確認に意味がない気がする … 意味があった年。確認の記録を添えて渡します。年金数理人からの質問が減ります。
  • AIがまた推測や計算の話を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. 部門ごとの人数が、去年+入社−退職と一致しているか。差があれば理由が分かっているか。
  2. 消えた区分・新しい区分に、人事の確認(名前の変更・実態の変更)があるか。
  3. 年金数理人からの「データ、合っていますか」の質問が減ったか。
  4. AIに個人の行を渡していないか。渡した記録(AIに何を渡したか)に集計表だけと書いてあるか。

7. 注意点

個人の行(氏名・生年月日・給与)は絶対にAIに渡しません。人数の集計表だけ。社内ルールで確認してください。
退職給付の計算と会計処理は、この記事では扱いません。年金数理人と基準の原文・監査法人との協議で。
差の理由を推測しません。人事が個人の行を見て確かめます。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • データの欠落が、年金数理人に聞かれる前に見つかります。
  • 計算のやり直しが減り、決算の日程が詰まらなくなります。
  • 経理が個人の行を見なくても、集計で確かめられます。
  • 確認の記録が、年金数理人と監査法人への説明になります。
明日の仕事で試すこと
  • 去年年金数理人に渡したデータの人数と、去年の期末の従業員数(公表値)を比べる
  • 合わなければ、その差が最初の確認項目
  • 今年のデータを渡す前に、部門ごとの人数だけ人事に出してもらう

応用 ― 難易度を上げる場合

計算報告書の読み方は年金数理の計算報告書を、前年と比べて「変わったところ」だけ読む、給与データの突合は給与計算の結果と、人件費の仕訳・預り金の残高を突き合わせるへ。AIに渡す前の置き換えはAIに渡す前の置き換え(記号化・丸め・削除)を、資料の種類ごとの手順にする。