退職給付の計算に渡す従業員データを、去年の提出データと集計で比べて「人数の増減・欠落・区分の変更」を出してから年金数理人に渡す
年金数理人(または計算の委託先)に渡す従業員データについて、個人の行ではなく「年齢帯×勤続帯×区分(正社員・嘱託など)の人数」と「給与の区分ごとの人数」の集計表を作り、去年の集計と並べて「人数の増減が入退社の記録と合わない帯」「去年あった区分がない」「新しい区分」をAIに出させ、渡す前に人事と確かめる方法です。集計の比較はAI、データの修正は人事、計算と会計処理は年金数理人と会計基準の原文・監査法人。
1. Before ― 手元はどうなっているか
架空のITコンサル企業、オリオンテクノロジーズ株式会社。退職給付の計算は年金数理人に委託していて、計算報告書は前年との比較で読んでいます。その前段、従業員データを渡すところで、こうなります。
- 年金数理人から「去年より人数が大きく減っていますが、合っていますか」と聞かれて、初めてデータの欠落に気づく。人事のシステムから出すときに、ある部門が抜けていた。
- 去年あった区分(嘱託)が今年のデータにない。区分の名前が変わっただけなのか、本当にいないのか。
- データの修正を年金数理人に頼むと、計算がやり直しになり、決算の日程が詰まる。
- 個人の情報なので、経理が中身を細かく見るのをためらう。見ないまま渡している。
計算と会計処理は年金数理人と基準・監査法人の話。この記事でやるのは、個人の行ではなく集計で去年と比べて、渡す前にデータの欠落と区分の変更を見つけることです。
2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか
(a) 集計の型を決める … 年齢帯(5歳刻み)×勤続帯(5年刻み)×区分の人数、給与の区分(帯)ごとの人数、部門ごとの人数。個人の行は使わない。
(b) 今年の従業員データから集計表を作る … 人事または経理(Excelのピボットで)。個人の行はAIに渡さない。
(c) 去年の集計表と並べ、①部門ごとの人数の増減が入退社の記録(人数だけ)と合わない部門、②去年あって今年ない区分・帯、③今年新しい区分、④年齢帯が1つ上に動いた人数と、動かなかった人数のずれ(同じ人は1年で1歳増える)、を出す … AI。
(d) ①〜④を人事と確かめ、データを直す … 人事と経理。
(e) 確かめた記録(何を見て、何を直したか)を添えて年金数理人に渡す … 経理。
個人のデータを見ること、計算、会計処理。集計の比較はAIでできますが、個人の行(氏名・生年月日・給与)は絶対にAIに渡しません。集計表(人数だけ)を渡します。データの修正は人事が個人の行を見て行い、計算は年金数理人、会計処理は基準の原文と監査法人との協議。
3. AIに任せること/人が判断すること
- 今年と去年の集計表(人数だけ)を並べ、増減の一覧を出す
- 入退社の人数と合わない部門、消えた区分・帯、新しい区分を出す
- 年齢帯・勤続帯の「1つ上に動く」の整合の確認(人数ベース)
- 年金数理人に添える「確認した点」の記録の書式
- 個人の行の確認と修正(人事)
- 区分の名前の変更か実態の変更かの判断(人事)
- 年金数理人への提出と、質問への回答(経理)
- 計算と会計処理(年金数理人、基準の原文と監査法人)
4. 実行 ― AIとのやりとり
準備 ― 集計表(人数だけ)
今年と去年の集計表(年齢帯×勤続帯×区分の人数、給与帯ごとの人数、部門ごとの人数)と、この1年の入社・退職の人数(部門ごと)。個人の行は渡しません。給与帯も人数だけ。
往復1回目 ― AIが「理由」を書いた
①で「開発第2部」の今年の人数が、計算上より18人少ない。表の下に「開発第2部で大規模な組織変更があったか、データの抽出条件から漏れた可能性があります」とあった。
18人の差は見たかったもの。「組織変更」「抽出漏れ」は推測で、人事に聞く前に一覧に書かれると、人事がその方向で確かめてしまいます。禁止事項に書いていてもこうなります。
「理由の推測を削除し、①は表だけにしてください。」
①は開発第2部の差が18人、他は0〜1人。②は去年の「嘱託」区分が今年ない、今年「契約社員」区分が新しい。③は「40〜44歳」帯の差が大きい。④は書式。
人事に聞くと、開発第2部の18人は、部門コードが変わった人が抽出条件から漏れていたもの。人事がデータを直します。「嘱託」と「契約社員」は名前の変更で同じ区分。年金数理人に「区分名の変更」と伝えます。
往復2回目 ― 年齢帯の差
③で「40〜44歳」帯の差が大きい。付記に「この年齢帯の給与水準は退職給付債務への影響が大きいため、優先的に確認してください」とあった。
差の抽出はよい。「債務への影響が大きい」は計算の内容で、この記事の範囲外です。影響の大小は年金数理人が計算して分かること。
「計算への影響に関する記述を削除し、③は表だけにしてください。」
表だけになった。
人事が個人の行を見ると、生年月日の入力が年だけで月日が抜けている人が数人いて、年齢帯の計算がずれていた。直します。④の記録に「部門コードの漏れ18人/区分名の変更/生年月日の欠落」と書き、年金数理人に添えます。
5. エラーと例外 ― うまくいかないとき
- 去年の集計表がない … 去年年金数理人に渡したデータから、人事がピボットで集計します。個人の行は人事の手元だけで。
- 集計表を作るExcelの操作が分からない … ピボットの作り方をAIに聞くのはよい(個人の行は渡さず、列の名前だけで)。
- 差が全部小さくて、渡す前の確認に意味がない気がする … 意味があった年。確認の記録を添えて渡します。年金数理人からの質問が減ります。
- AIがまた推測や計算の話を書く … 削除。毎回。
6. 検証 ― 正しいとどう言えるか
- 部門ごとの人数が、去年+入社−退職と一致しているか。差があれば理由が分かっているか。
- 消えた区分・新しい区分に、人事の確認(名前の変更・実態の変更)があるか。
- 年金数理人からの「データ、合っていますか」の質問が減ったか。
- AIに個人の行を渡していないか。渡した記録(AIに何を渡したか)に集計表だけと書いてあるか。
7. 注意点
8. After ― 翌月以降、何が変わるか
- データの欠落が、年金数理人に聞かれる前に見つかります。
- 計算のやり直しが減り、決算の日程が詰まらなくなります。
- 経理が個人の行を見なくても、集計で確かめられます。
- 確認の記録が、年金数理人と監査法人への説明になります。
- 去年年金数理人に渡したデータの人数と、去年の期末の従業員数(公表値)を比べる
- 合わなければ、その差が最初の確認項目
- 今年のデータを渡す前に、部門ごとの人数だけ人事に出してもらう
応用 ― 難易度を上げる場合
計算報告書の読み方は年金数理の計算報告書を、前年と比べて「変わったところ」だけ読む、給与データの突合は給与計算の結果と、人件費の仕訳・預り金の残高を突き合わせるへ。AIに渡す前の置き換えはAIに渡す前の置き換え(記号化・丸め・削除)を、資料の種類ごとの手順にする。