月次決算 › 原価計算活用案

プロジェクトの工数実績と原価の計上を突き合わせ、「工数のない案件」「案件のない工数」を締め前に出す

工数管理システムの月次の工数実績(案件No./担当者記号/時間)と、会計の案件別原価(案件No./労務費・外注費)を案件No.で突き合わせ、「原価が計上されているのに工数がない案件」「工数があるのに原価がない案件」「先月と比べて工数が急に増減した案件」をAIに出させ、締め前に案件の責任者に聞く方法です。突合と抽出はAI、原価の配賦や計上の判断は経理、工数の修正は案件の責任者。

AI操作難易度★★☆☆☆ 経理財務 実務難易度★★★☆☆ 使う道具チャット型AI+Excel

1. Before ― 手元はどうなっているか

架空のIT企業、サンライズソリューションズ株式会社。開発案件ごとに原価を集計しています。労務費は工数管理システムの時間に単価を掛けて、外注費は請求書の案件No.で。配賦の基準は一覧にしてあります。それでも。

  • 原価が計上されているのに、工数が1時間も入っていない案件がある。外注費だけの案件かもしれないし、工数の入力漏れかもしれない。
  • 工数が入っているのに、原価が0の案件がある。案件No.が会計に登録されていない。工数が宙に浮いている。
  • ある案件の工数が、先月の3倍。本当に忙しかったのか、別の案件の工数が間違って入ったのか。
  • 締めた後に部門長から「この案件の原価、おかしくない?」と言われる。締め前に自分で気づきたい。

原価の集計方法そのものは自社のルールの話。この記事でやるのは、締めの前に工数と原価を突き合わせて、案件の責任者に聞く一覧を作ることです。

2. 問題の分解 ― 何を整えれば進むのか

(a) 工数実績(案件No./担当者記号/時間)と、案件別原価(案件No./労務費/外注費/その他)と、先月の両方を集める … 人。
(b) 案件No.で突き合わせ、①原価あり・工数なし、②工数あり・原価なし、③工数が先月比で大きく増減、④担当者記号ごとの合計時間が所定の時間と大きく違う、を出す … AI。
(c) ①②③を案件の責任者に聞く。④は担当者の上司に聞く … 経理。
(d) 工数の修正は責任者、原価の計上や配賦の判断は経理 … 人。
(e) 締めの3営業日前に回し、修正が締めに間に合うようにする … 経理。

ここはAIを使わない

原価をどう配賦するか、どの案件に計上するか、工数が正しいかを決めること。「工数なし」の案件は外注だけの案件かもしれず、「先月の3倍」は本当に3倍働いたのかもしれません。AIに理由を推測させず、責任者に聞きます。それから、担当者は記号、単価は渡しません。労務費の金額と時間を両方渡すと単価が逆算できるので、時間だけ、または金額だけにします。

3. AIに任せること/人が判断すること

AIに任せる
  • 工数実績と案件別原価を案件No.で突き合わせる
  • 原価あり・工数なし/工数あり・原価なし/先月比の大きな増減/担当者ごとの合計時間の偏り、を出す
  • 案件の責任者に聞く1行(案件No.と事実だけ)の下書き
  • 先月の一覧と比べて、2か月続けて出ている案件を出す
人が判断する
  • 工数の修正(案件の責任者)
  • 原価の計上・配賦(経理、自社のルールに沿って)
  • 案件No.の登録(経理と営業)
  • 増減の理由の受け止め(責任者に聞く)

4. 実行 ― AIとのやりとり

準備 ― 案件No.・記号・時間だけ

工数は案件No./担当者記号/時間。原価は案件No./労務費・外注費・その他の「あり・なし」と、先月比の増減率(金額そのものは渡さない)。単価と担当者名は渡しません。

用語:チャット型AIと、手元のExcelでの前処理(担当者の記号化・金額を「あり・なし」と増減率に置き換え)を組み合わせます。単価は渡しません。用語集
最初にAIへ出す指示(そのまま貼って使えます)【場面と読み手】 私は経理担当です。月次の締めの前に、案件ごとの工数実績と原価の計上を突き合わせ、案件の責任者に確認する一覧を作りたいと考えています。読み手は私と各案件の責任者です。 【事実/入力】 ・以下に、今月の工数実績(案件No./担当者記号/時間)を貼ります(約400行) ・以下に、今月の案件別原価(案件No./労務費あり・なし/外注費あり・なし/その他あり・なし)を貼ります(約60案件) ・以下に、先月の工数実績の案件別合計(案件No./時間)を貼ります ・担当者の所定の時間は1人あたり月160時間です ・工数の修正は案件の責任者が、原価の計上と配賦は私が決めます 【依頼】 ①原価が「あり」なのに工数が0の案件を出してください ②工数があるのに原価が3つとも「なし」の案件を出してください ③案件別の工数合計が、先月比で2倍以上または半分以下の案件を出してください ④担当者記号ごとの合計時間が、所定の時間の1.3倍以上または0.5倍以下の担当者を出してください 【出力の型】 ①:表:案件No./労務費/外注費/その他 ②:表:案件No./今月の工数合計/担当者の人数 ③:表:案件No./先月の工数/今月の工数/倍率 ④:表:担当者記号/合計時間/所定に対する倍率/案件の数 【禁止事項】 ・工数が間違っている、原価が間違っていると断定しないでください ・増減の理由を推測して書かないでください ・貼っていない案件や担当者を足さないでください

往復1回目 ― AIが「入力漏れ」と断定した

AIの初稿

①で「原価あり・工数なし」が6案件。表の下に「これらは工数の入力漏れと考えられるため、担当者に入力を促してください」とあった。

ここが問題

6案件は見たかったもの。「入力漏れ」は断定で、6案件のうち外注費だけの案件(社内の工数がないのが正しい)が混ざっています。禁止事項に書いていてもこうなります。

追加で出した指示

「断定と促しの記述を削除し、①を『労務費あり』と『労務費なし(外注費・その他のみ)』に分けてください。」

修正版

①は労務費ありで工数なしが2案件、労務費なしが4案件。②は工数ありで原価なしが3案件。③は2倍以上が4案件、半分以下が5案件。④は1.3倍以上が2人、0.5倍以下が3人。

人が最後にやること

①の労務費ありの2案件は、先月の労務費の配賦が今月に繰り越されていたもの。経理の側の話で、修正します。②の3案件は、案件No.が会計に未登録。営業に聞いて登録します。

往復2回目 ― 「3倍」の案件

AIの初稿

③で案件P-118の工数が先月の3.2倍。付記に「納期直前の追い込みによる増加と推測されます」とあった。

ここが問題

3.2倍は事実。「追い込み」は理由の推測で、責任者に聞く前に一覧に書かれると、責任者もそう答えやすくなります。

追加で出した指示

「推測の記述を削除し、③の各案件について、担当者記号ごとの内訳(先月と今月)を足してください。」

修正版

P-118は、先月いなかった担当者記号E12の時間が今月の増加分のほぼ全部。

人が最後にやること

責任者に聞くと、E12は別の案件P-121の担当で、案件No.を間違えて入力していたとのこと。責任者が工数を直し、P-118とP-121の原価が締め前に正しくなります。理由は推測ではなく、内訳から見えました。

5. エラーと例外 ― うまくいかないとき

  • 工数管理システムの案件No.と会計の案件No.が違う … 対応表を作ります(コードの対応表と同じ考え方)。揃うまでは対応表で読み替え。
  • 工数の入力が締めの後まで終わらない … 突合を締めの3営業日前に回して、入力の期限を工数側にも設けます。
  • ③が多すぎる … 倍率のしきい値を上げるより、金額の大きい案件から聞きます。小さい案件の3倍は影響が小さい。
  • AIがまた断定や推測を書く … 削除。毎回。

6. 検証 ― 正しいとどう言えるか

  1. ①②③のすべての案件に、責任者からの回答か経理の処理があるか。締めに持ち越した案件がないか。
  2. 工数の合計時間と、労務費の計上の元になった時間が一致しているか。
  3. 締め後に部門長から「原価がおかしい」と言われる回数が減ったか。
  4. 一覧に、AIの断定や理由の推測が混ざっていないか。

7. 注意点

担当者名と単価はAIに渡しません。時間と金額を両方渡すと単価が逆算できます。社内ルールで確認してください。
原価の計上・配賦の判断はAIがしません。自社の原価計算のルールと監査法人との協議によります。
「工数なし」を入力漏れと決めつけません。外注だけの案件があります。この活用例の設例は架空です。

8. After ― 翌月以降、何が変わるか

  • 案件別の原価の「おかしい」が、締めの後ではなく3営業日前に見つかります。
  • 案件No.の間違いが、内訳から見えて、責任者が自分で直します。
  • 未登録の案件No.が、工数から先に見つかります。
  • 2か月続けて出る案件が、原価のルールを見直す材料になります。
明日の仕事で試すこと
  • 先月の案件別原価で、労務費がある案件を1つ選び、工数管理システムでその案件の時間を見る
  • 時間が0なら、それが①の最初の1件
  • 時間があれば、単価を掛けて労務費と合うか見る。合わなければ配賦の話

応用 ― 難易度を上げる場合

配賦基準の一覧は共通費の配賦基準を、「根拠・決めた日・見直し条件」つきの一覧にする、見積原価の変更は進捗度の計算に使う見積原価総額の変更を、案件ごとに履歴として残すへ。他部署の数字の見方は他部署から来た数字が、合っているのかわからないとき。